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リングラン叙事詩 第十一章 闇の黄昏

(ナレーション)
とある世界
とある時代
私たちが知ることのない場所にリングラン島という島がある。
この島には一つの神話があった。
太古の昔。
二つの神による天界の争いがあった。
光の神ヴィシュ。闇の神デーム。
両者の争いは大地を揺るがし、
互いの従える竜による戦いは、やがて大地を割き、
大きなうねりは山脈を作り、
吐かれる炎が大地を焦がし砂漠となった。
そして双方の神と双方の戦いが終わり、
大地に堕ちた竜の骸を苗床に、草原は大きな森となった。
そして伝承は続く。
竜の目から生じ散らばった水晶を、神の台座に捧げしとき、
その地はあるべき姿へ回帰せん。
リングランに伝わりし、神話である。

デムニアの地は大きな騒乱の渦中にあった。スレイアールの戦士・魔導士に対するアルフレッド一行の抵抗に加え、フシラズの森よりこの地に駆けつけたエルフのフィーナがアルフレッド一行の後押しを行い、鳴り響く剣の撃ち合いの残響、飛び交う魔法の鳴動で支配されていた。

アルフレッド フィーナさん!
ギリアム いつぞやのエルフではないか。
アルフレッド フィーナさん、ありがとう!
フィーナ あなたたちのためじゃないわ!よそ見しないで!目の前に集中して!
アルフレッド わかった!
フィーナ 「ジンよ、あなたの力を貸して!」

帝都デムニアでの戦闘が激化した頃、フシラズの森での敗戦を受けて帰還したサルーデンが到着した。この混乱を確認したサルーデンは、側面の城門の王城守護の衛兵を怒鳴りつけ、城内へと入っていった。

サルーデン ネズミどもめ!ミノタウロスの洞窟で殲滅すべきであったか!まさか、エルフの里のものまでがデムニアまでやってくるとはな!そして城内からは直接感じる魔法力が移動している。そうか、奴らめ、書庫より古代書を持ち出したな!

そう言うとサルーデンは、皇帝の間へと急ぎ、皇帝ザジウルハスの元へと急いだ。苛立ったザジウルハスがサルーデンの姿を目に止めると、怒号でサルーデンへと詰め寄った。

ザジウルハス 貴様、なぜモーリスタティアからやってたきたあのネズミどもの首をはねておかなかった!この状況をどうやっておさめるのだ!帝国を強固なものにすると言う、貴様の言葉に偽りがあったとしか思えん!サルーデンよ、いかがするのだ!衛兵よ!こやつを取り押さえろ!

ザジウルハスの激昂を受けたサルーデンであったが、その表情は何一つ変えずに言い放った。

サルーデン 陛下。いやザジウルハスよ。貴様の役目はもう終わりだ。この帝都とともに滅びゆくが良い。そして、この地をすべて破壊し尽くし、反乱の目はすべて潰させていただく。

サルーデンはそう言い放つと同時に、ザジウルハスと守護の衛兵へ催眠の魔法をかけた。

サルーデン ふん!所詮、傀儡(かいらい)の身でよく吠えたものだ。書庫に納めた古代書よりさらに強力なものは、この皇帝の間にある。なによりも一番安全な場所であるからな。玉座の床下に収めた古代の遺物である封印の箱に納めたものは、あの魔法使いも気づかなかったようだ。ではその力、解き放つとしよう。

封印の箱。何の装飾もされておらず、一見変わったところがなにもない箱であるが、その外装には、魔法力そのものを発しない古代の遺物である。サルーデンは詠唱を唱え、封印の解放を行なった。

サルーデン 「マナよ、根元(こんげん)へと繋がりて、封じたる力を開放せよ!」

サルーデンが詠唱を唱えると封印の箱が開き、その箱にある古代書を取り出し、

サルーデン この古代書の力を持てば、エルフの里など簡単になぎ倒し、古代の竜の復活を果たすことができよう。この地の騒乱など、瞬時に消し去ってくれる

その頃、デムニアにバアルより帰還したガルハースが到着した。

ガルハース ・・・いったいどう言うことだ。なぜこのようなことになっている・・・あれに見えるはいつぞやのザスアルの聖騎士団長ではないか。そうか、この騒乱、奴らの所業か。このデムニアの地を脅かすものは、何一つ許さん!

ガルハースはそう言うが早く、戦場となっている地へと走り出した。疾風が如くその足で、すぐさま戦地の中央までたどり着いた。

ガルハース 貴様ら、この地を混乱にいれたこと、その命をもって償え!
カーン ガルハース!
ギリアム ガルハース!
アルフレッド ガルハース!

ルークスが、ガルハースの姿に目を止めると、

ルークス いけない!「マナよ、いかづちの網を張りてその動きを封じん!」

ルークスが詠唱を唱えると、いかづちの力を帯びたイバラがガルハースの身を縛り上げた。

ガルハース くっ・・・ぐぁ・・・動きが封じられた、だ・・・と・・・
カーン ガルハース!貴様、ザスアルを何故滅ぼした!
ガルハース すべてはスレイアールのためだ!
ギリアム スレイアールのため?ではなぜ騎士団は戦いに加わらなかった!
ガルハース 我らは、妖魔どもの力で都市を蹂躙することになど決して加担などせん!
カーン 確かにな・・・だが、我が主君の命を奪い、祖国をこの地から消し去ったことは事実だ!
ガルハース くっ・・・
アルフレッド 貴殿は本当は戦いなど望んではいないのではないのですか!
ガルハース ええい、うるさい!この忠誠、貴様らになど理解はできんだろうな!
カーン ああ、当たり前だ。忠誠心、それがこの戦乱を招いたんだぞ!
ギリアム もう、剣を納めろ。貴様の本心は見えているつもりだ。あの日、スレイアールが我らの国王を処刑したあの時、貴様らの姿はなかった。それが全てを物語っておる。
カーン ギリアム、貴様何を言っている!
ギリアム カーンよ、わしらの本当の敵は誰じゃ。
カーン スレイアールに決まっているだろうが!
ギリアム 半分はあっているが、半分は間違えておる。ワシらの本当の敵は、この戦乱を引き起こしたものだ。
ガルハース ・・・っく・・・何が言いたい!
ギリアム 貴様もわかっておるだろう。本当の敵は・・・

そうギリアムが言葉を発した時であった。城からうつろな表情を浮かべたザジウルハスの声が響き渡ってきた。

ザジウルハス 帝都の民よ・・・。このスレイアールの地とともに、その命を捧げよ・・・。異郷の地からやってきた、そ奴らの首をはね、その血もスレイアールの大地に捧げるのだ・・・。
ガルハース 陛下!
ザジウルハス ガルハースか・・・貴様、やはり何一つ役に立たんな・・・所詮剣の力なぞ、その程度のもの・・・

そう言い放ったザジウルハスの背後からサルーデンが姿を現した。

サルーデン ふん、このようなゴミどもの争いなど・・・覚悟するがいい。我が悲願をさえぎしものたちめ。ふりそそぐ業火の嵐ですべてをなぎ払ってくれるわ。マナよ、天にありし業火のすべてを、この地に降らせよ!

ルークス いけません!みなさん、城の中へ早く!

サルーデンが詠唱を唱えると、空に光が見えたと同時に大きな岩が火をまとい降り注いできた。

城下はまさに惨状そのものであった。
逃げ遅れたスレイアールの戦士・魔導士・民が業火に焼かれ、その地は大勢の死者に埋め尽くされた。

アルフレッド あれは・・・
ルークス 超古代の禁呪です・・・大地に業火を降り注ぎ、全てを破壊し尽くす、決して使ってはならないものです・・・
ヴァイス あのような、多くの犠牲者を出すとわかっていて・・・闇の神、デームにその心を侵されたものでなければできない所業です・・・
ギリアム カーンよ、なぜ危険を賭してガルハースをここまで連れてきた?
カーン いや、俺にも・・・いや、俺はまだこいつから答えを聞いていない!だから・・・だっ・・・
ガルハース 礼は言わぬぞ・・・
ギリアム ふん!貴様が礼を言っても、失われたものは何一つ戻っては来ん。ルークスよ、こやつの緊縛を解け。
アルフレッド ギリアム!何を言っているんだ!
ギリアム ヴァイス、こやつが何を信仰をしているか、お主。見えるだろう。
ヴァイス はい・・・。ガルハース・・・あなたは決して闇に屈してはいません。あなたの心には光の神ヴィシュの姿を視ることができる。そうですね。
ガルハース ・・・。
フィーナ 待って、あなたたちが何を言っているのかがわからない・・・光の神?闇の神?この者がスレイアールの者であることには違いはないでしょう!
ルークス フィーナさん、今大事なのはこの島における戦乱の本当の悪が誰なのかということなのです。

そう言って隣に振り返った先にいるガルハースを見据えながら、

ルークス あなたにはわかりますよね。
ガルハース なぜそれを私に言わせる・・・
ルークス あなたは、このスレイアールを正しい方向に導きたいのなら、もうお分かりでしょう。
カーン ルークス、お前何をいっ・・・
ギリアム カーン、今は黙っておれ。ガルハースよ、早く言わんか。それを口にすることが、「今」この地の惨状に対するせめてもの祈りになるのだぞ。そうだな、ヴァイスよ。
ヴァイス はい。あなたの忠誠心は十分過ぎるほどわかります。ただ、今はあなたの信仰心に忠実であってください。
ガルハース ・・・そうか・・・。私の本当の敵、そして全ての悪は・・・サルーデン・・・あの男だ・・・
ルークス その通りです。あなたは決してスレイアールをおとしめることは言えない。だからこそ、私たちへその名を口にすることはスレイアールの非を告白することにもなる。
アルフレッド では・・・
ヴァイス 相当な覚悟がなければ決して口にはできないことなのですよ。
カーン ・・・
フィーナ でも・・・
ルークス ガルハースは確かにスレイアールのものです。しかし、今ここで彼を倒したところで何も解決はしないのです。ここからは、あなたにとって、さらに苦しいことをお願いすることになります。それは・・・
アルフレッド ガルハース!俺たちの力になってくれ!
カーン アルフレッド!お前何を言っているのかわかっているのか!
アルフレッド ああ、しっかりわかっているつもりだ。そうだな、ルークス。
ルークス はい、その通りです。あなたもずいぶんと成長いたしましたね。あなたのまっすぐな心であればこそ伝えられることです。
ガルハース 私の忠誠心を分かった上で言っているのだな
ルークス そうです。あなたなら十分理解していただけると思っています。
ガルハース ・・・承知した・・・サルーデン・・・奴を倒すことには手を貸す。だが、決して忘れるな。私はこのスレイアールの騎士だ。それ以外には力になるつもりはない。
フィーナ 私はここで失礼させていただくわ。スレイアールのものの手など借りたくもない。
ギリアム ちょっとまて。普段なら、わしもお主の手を借りたいとも思わん。だが、あの惨状がやがて森を襲うかもしれないとは思わんのか。わしらについてこいという気はないが、森を守りたいのなら、なぜここまで来た?
フィーナ ・・・それは・・・
アルフレッド 改めてお願いしたい。どうか力を貸してほしい。森を守るため、そしてこの島を守るために。
フィーナ ・・・分かったわ。森を守るためにね、決してあなたたちのためではないから、忘れないように。
アルフレッド ありがとう。二人とも頼む。ガルハース、スレイアールの皇帝が姿を表したところまで案内をしてほしい。
ガルハース 分かった。あの場所は皇帝の間から近くの場所にある。おそらくサルーデンも陛下と共にそこにいるはずだ。この先の大広間を抜けたところに階段がある。
アルフレッド では、先へ進もう!!

一行が大広間へと入った時のことであった。

サルーデン ゴミどもが。しぶとく生き残っておったか。おや、そこにいるのはガルハース、それとエルフの里の小娘か。どおりで、まわりが小うるさいわけだ。
ガルハース ・・・貴様、陛下をたぶらかし、スレイアールを弄び、民に手をかけ、その愚行、貴様の命をもって償え!
サルーデン はて、なんのことやら。力を貸せと言ったの他ならぬ、スレイアールそのもの。まぁいいでしょう。この国にはもはや何も魅力はない。古代書を集めるための資金を出させるのは楽でしたがもうその必要もないですからな。とりあえず貴様らにはここで消えていただたこうか!「マナよ、生きとしいけるものを石へと封じよ!」
ルークス いけません!あれは、石化の魔法!「マナよ、根源たる障壁をもって、打ち消しの力となれ!」

サルーデン ほう、打ち消しの古代魔法の書を盗み出したわけか。その力、いつまで持つかな。本来であれば術者のみにしか力を及ぼせない魔法を全員の前に張ったところで、私の魔術の前には何も意味をなさんわ!
フィーナ そうかしら。精霊の力を甘く見てもらっては困るわ。アルフレッドといったわね、それと騎士二人とドワーフ。精霊の力であなた方を守ります。「精神の精霊バルキリー、あなたの力を貸して!」

アルフレッド これは・・・
カーン 体が光に包まれていく・・・
ギリアム これはなんじゃ・・・
フィーナ あなた方にバルキリーの光の防護を施したわ。打ち消しの結界の外に出ても大丈夫よ。
カーン 本当なのか?いい加減なことを言っていないだろうな!
フィーナ いい加減ですって?確かに臆病者には意味のない防護ね。ただし、いつまでも、もつわけではないわ。あとはあなた方の勇気次第といったところかしら。
ガルハース わかった、私はこのエルフの娘の言葉を信じる。ではっ!
カーン なっ!ガルハース、貴様!
ガルハース 私はこの国に忠誠を誓った身。そこに一縷の望みがあるのならば、ためらいはせん!
サルーデン 何?石化の魔力が通じないだと!
アルフレッド ガルハース!俺も続く!
カーン ガルハース、貴様は本当に目障りだな。俺こそ先陣を取らせていただく!
ギリアム エルフの小娘よ、感謝するぞ!
フィーナ 防護の力はそう長くは持たないわ、早く!

サルーデン 貴様ら!ならば、直接魔力の刃で切り裂いてくれるわ!「マナよ!空間の歪み(ひずみ)より、貫く刃を放て!」

ガルハース くっ・・・
カーン なんだと・・・
アルフレッド うっ・・・
ギリアム なんてことだ・・・

ヴァイス このままでは、皆さんが・・・、ルークス!私に移動の魔術を!
ルークス いけません!あなたを危険にさらすことになります!
ヴァイス それもまた、私の使命です!お願いします!
ルークス ・・・わかりました・・・「マナよ、空間を縮めよ!」

アルフレッド ・・・ヴァイス!だめだ・・・
カーン ・・・おい、お前死ぬ気か?・・・
ギリアム ・・・いかん、死に急ぐな!
ヴァイス ・・・ぐっ・・・うぁ・・・皆さん、安心してください・・・私が皆さんをお守りいたします!主よ、磁場を集め、鎧をまとわせ!

ガルハース これは・・・見えない刃が消えていく・・・
アルフレッド 風が消えた・・・

ルークス ヴァイス!これ以上、あなたを危険にさらすことはできない!引き返してください!いけない!既に気を失っている・・・「マナよ、空間を縮めよ!」

ルークスの詠唱により、ヴァイスの身体が元の場所に移動した。その身は夥しい数の裂傷を受け、衣服は鮮血に染まっていた。

フィーナ なんて酷い怪我・・・許せない・・・これ以上、邪悪な力を使わせないわ!あなた、マナを封じる魔法は唱えられるわよね!
ルークス 可能ではあります、が、しかし!
フィーナ 私はこれで全ての力を使い果たすから、後は頼むわ!「全ての精霊よ!私に力を貸して!」

精霊への叫びが終わると同時に、フィーナはその場に崩れ落ちた。

サルーデン な、なんだと!空間の歪みが閉じていくだと・・・!

ルークス フィーナさん・・・あなたの覚悟、無駄にはしません!「マナよ、空間からその力自身を封じよ!」皆さん!・・・今この空間にマナは存在しません!早くサルーデンを!この力長くは保ちません!あとは、た・・の・・・み・・・ま・・・す・・・

サルーデン な、何・・・マナの力が消えた・・・

アルフレッド 今だ!!モーリスタティアの名の下に、サルーデン、貴様を斬る!!
カーン ザスアルの嘆き、この一太刀にて鎮魂とせん!!
ギリアム 我が同胞の仇、存分に取らせていただく!!
ガルハース スレイアールへの数々の愚行、この剣をもって裁きを受けよ!!

全員の刃がサルーデンを身を深く切り裂いたと同時に、サルーデンの絶叫がこだました。

サルーデン ぐはぁぁぁぁ・・・!!!き、貴様ら・・・
アルフレッド・カーン・ガルハース これで終わりだ!!!
ギリアム これで終わりじゃ!!!

全ての剣が、その身を貫いたその時、サルーデンは一筋の血の涙を流しながら、

サルーデン ぐっ・・・うっ・・・なぜ、私だけが・・・全ては迫害を肯定した貴様らにも非があるはずだ!!!!
がはぁぁぁ・・・なぜ・・・なぜ・・・誰も私に救いの手を差し伸べてくれなかったのだ・・・・
ぐはぁぁぁぁ・・・ぅ・・・

悲しみの顔のまま、サルーデンは絶命した。こうして、闇の神に傾倒した孤独な魔導士がその生涯を終えた。リングランにおける憂いが消え去ると同時に、断末魔の叫び声が一行の胸に深く去来していた。


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