すべてはおばちゃん定員の名の下に行われたものである。

シェーバーがぶっ壊れた。

僕は昔から美容には無頓着のため、髭剃りにもこだわりがない。

別に剃れればなんでもいいというスタンスだ。しかしそのくせ肌が弱い。34歳になった今でもすぐにニキビができる。ニキビのない日がないぐらいニキビができる。

ニキビを売りたい。ニキビが売れるならすごいお金持ちになれる。ニキビで家を建てたい。ニキビ御殿を建てたい。

それほど肌が弱いので、カミソリは無理である。カミソリ使うとニキビ死んじゃう。でもニキビ避けながらきれいに剃るってなると、鏡見ながら剃らなきゃいけない。無理。鏡見ながら髭剃るの無理。

めんどくさい。ただひたすら面倒くさい。そもそも鏡が風呂場に備え付けのちゃっちい鏡しかない。風呂のときに見ようとしても曇ってて何も見えない。

だから鏡見てなくても適当に髭に当ててれば剃れるシェーバーを愛用している。とりあえず防水のシェーバーを買って、風呂で髭に当ててる。それが僕の髭剃りStyleだった。

しかし以前、5年ほど愛用したドンキで買った5000円ぐらいのシェーバーがついに壊れた。

すでに1年ほど前から電池に寿命が訪れ、剃る直前まで充電器に繋いでおかないと、電源を入れてもうんともすんとも言わない状態ではあった。

なんなら充電から抜いてすぐに電源を入れない限り、充電がしっかり完了しているはずでもまったく動かないという、すでに商品としての寿命は完全に終わっている状態ではあった。

そのシェーバーが壊れた。ついに充電してようがしてまいが、電源ボタンを入れてもうんともすんとも言わなくなった。

「もう疲れた、、」

そんな声が聞こえた気がした。

「もう充分頑張った、、もう休みたい、、」

そんな切実な気持ちが伝わってくる気がした。

今までも無理して働いてくれてたんだよな、、ごめんな、、今まで本当にありがとう、、、

涙が止まらなかった。今まで本当にありがとな、、お前のことは一生忘れないよ、、、


ということで、次の日にシェーバーを買いに行った。ドンキである。僕はとりあえず家電でなにか欲しいものがあると、一回ドンキに見に行くという習性がある。

そしてドンキで見つけた。4000円のシェーバーである。横にシャープとか、ブラウンとかの数万円する有名ブランドシェーバーが並んでいる中、堂々の4000円。圧巻のドンキブランド。

ドンキ限定販売。ドンキでしか買えないシェーバー。これだ。そう思いました。

家で廃棄されるのをただ待つシェーバの顔が浮かんだ。お前の後継者を見つけたよ、、お前の代わりにこれからきっと頑張ってくれるはずだ、、寝てるときの横顔なんてほら、お前にそっくりだよ、、

買って最初の1ヶ月は好調だった。そいつとは仲良くできていた。若干剃りが弱いな、とは思っていたが、そういうとこも含めてかわいいやつだった。こいつともこれから長く付き合って行くことになるんだな、、そう思っていた。

壊れた。なんの前置きもなく、突然ぶっ壊れた。

まず充分に充電しているはずなのに電源が入らなくなった。直前まで充電していないと、なんなら充電ケーブルを抜く前に電源を入れておかないと、電源が入らなくなった。

あれ?早ない?前のやつと同じ症状やけど、早ない?

まだ2ヶ月経ってないけど、あれ?そういう感じ?悪いところを真っ先に受け継いじゃった感じ?

そしてそんな状態になってから半月後、電源を入れると今までは「ウィーン!!!」という力強い音だったのが、「くぅ~ん」みたいな仔犬の甘え声みたいな音が出るようになり、あれーなんか甘えてるなーと思っていたら、3日後には完全に沈黙した。

充電しようが何しようが動かない。

「自分、もう何もする気ないっす」

的な感じで、まったく反応さえよこさない。最後に聞いたあいつの声は「くぅ~ん、、くぅ、、くぅううう、、く」であった。

く、で終わった。

思えば、なんて短い時間だったんだろう。もっとあんなことをしてやればよかった、あのときもっと優しく声をかけてあげればよかった、、、後悔ばかりが浮かんでくる。

ありがとう、ドンキブランド。お前のことは忘れないよ、、、


いやてか早ない?いやわかるよ?いうても4000円やからね。安いやつやから、壊れてまうのわかるよ?そやけど、それにしても早ない?2ヶ月持ってないけど?早ない?


でもお前のことは忘れないよ、、今までありがとう、、ラブフォーエバー、、、


ということでシェーバーがぶっ壊れたので、新しいものを買いに行った。

そして今回は僕も学んでいた。「安いシェーバーは剃り具合も良くないし、すぐ壊れる」ということを学んでいたのだ。以前のシェーバーでは、10分ぐらい念入りにジョリジョリやっても、風呂から上がってみてみると死ぬほど剃り残しがある、という状況であった。

我ながらよくそれで放置していたな、と思うのだけれど、朝職場できれいな鏡を見たときに自分で「いや、髭全然剃れてへんやないか!」って毎朝ツッコんでいた。

なので今回はいいやつを買うと決めていたのだ。というか、以前から剃り残しが目立ちすぎたため、1度ネットで良さそうなものを探したこともあるのだ。しかしそのときは、違いがわからな過ぎて諦めた。ネットの文字読んでも、YouTuberで各社比較動画を見ても、結局何を買ったらいいかわからん。

僕はただ「いい感じに剃れて風呂場でも使えて、そこそこのお値段のやつ」が欲しいのだ。

しかしネットを見ると、まずは各社の特徴から!いうて、シャープはこういう性能があって、ブラウンの特徴はこうで、フィリップモリスは、、なんていうてくるから。もうほんま静かにしてほしい。

ただただオススメのシェーバーを1つだけ提案して欲しい。それを買うから。

しかしいつまでもネットじゃ埒が明かないということで、実際にヨドバシに買いに行った。

今日買わないと明日から髭剃る機械が家にないです、という状況まで追い込まれて、ようやっとヨドバシまでシェーバーを買いに行った。

僕はこういうヨドバシとかに家電を買いに行くときは、決めていることがある。まずは自分の要望をしっかりと定員さんに伝え、あとは定員さんの言う通りにする、ということである。

定員さんにも思惑があると思う。今はこの商品が売りたい、とか。できれば高い商品を売りたい、とか。いろいろあると思うのだけれど、それの読み合いをするのが面倒くさい。であればすべて丸投げにして、ダメだったら次からはその店で買わないようにすればよいのだ。

ということで、僕は休日の昼間にヨドバシに向かった。シェーバー売り場に着くと、そこには数え切れないほどのシェーバーが並び、やれシャープだ、やれなんちゃらだと、やれ温かくして剃れるシェーバーだの、やれ1秒間に何回振動するなど、わけのわからん文言が大量に並んでいる。

パニックになりそうである。その場でうずくまり、叫びだしそうになる。いけない、落ち着かなきゃ、、落ちつけ、落ちつけ、、、自分に言い聞かせる。

大丈夫だ、定員さんに言えば、定員さんが助けてくれる。自分で決める必要はないんだ、、定員さんさえ捕まえることができれば、、、

めまいを抑えながら、定員さんを探す、、狙い通り、平日の昼間のためにお客さんの数は少ない。大丈夫だ、手の空いている定員さんが必ずいるはず、、

ふと眼の前にどこからともなく女性の定員さんが現れる。まるで地面から湧いて出てきたような登場の仕方である、、女神、、??朦朧とする頭で必死にその女性の正体を確かめる、、

定員さんである。紛れもないヨドバシの定員さん。女神でもなんでもなく、シンプルに普通のおばちゃん。おばちゃんの定員さんが、しっかりと僕の目を見ながら近づいてくる。心なしか、その目に「$」マークがついている気がする、いや、そんなことはない。親切な定員さんが困っている客を見つけて、助けに来てくれたのだ、、、

僕はもう頭が正常に働いていないので、馬鹿みたいにうろたえながらも、自分の要望を定員さんに伝える。

「えっーと、、すいません、よくわからないんですが、いい感じに剃れて風呂場でも使えて値段もそこそこのシェーバーください」

本当にそう伝えた。なんともふわっとしたオーダーである。

しかしやはり僕の目に狂いはなかった。そのおばちゃんはまず、僕の目をじっと見つめ、僕が嘘をついていないことを確かめると、その後数秒間、僕の髭をじっと見つめ、検分したあとに、再度僕の目を見つめてゆっくりと深く頷き、ついてこいとばかりに首をクイッとして売り場の奥の方に向かって歩き出した。

もう安心である。このおばちゃんはすべてをわかってくれた。僕の気持ちを完璧に理解してくれたうえで、正解のシェーバーに導いてくれる。僕はそう確信した。それほどの力強い目線、力強い頷き、力強い背中、、

おばちゃんは売り場奥にあった鏡の前に僕を連れていき、ヨカタラ実際に剃ってみマスカーと言った。

その時点で気づく。どうやらおばちゃんは日本人ではなさそうだ。中国人かな?しかし日本語はすごくお上手である。

実際に剃れるなら、剃り具合を確かめてから買える。まさに実店舗で買う大きなメリットの1つである。さすがおばちゃんである。僕は驚嘆した。おばちゃんはすべてお見通しである。

そして、たくさんのシェーバーを並べられたらやだなーと思っていたところ、おばちゃんはブラウンのシェーバーを2つ持ってきた。しかも似たようなやつで、1世代前の値段が少し安い方と、新しくでた少し高い方を持ってきた。

そして、ほとんど機能一緒だけど、ちょっと後ろについてる刃の部分が違うよーと説明してくれる。

つまり、おばちゃん的にはもうこのブラウンのこのシリーズで決まり!なのである。あなたには絶対にこれ!と決めてくれたのだ。最高である。まさにこれを求めていた。

あとはデザインとか、少し多機能になるかで決めなさいと。そこは個人の好き嫌いだからと。

でも余計な説明は一切しない。きっとそのシェーバーにも、この機能がナンタラでここが他のシェーバーと違って、、みたいな売りがたくさんあったのだと思う。しかし全部無視。おばちゃんはただ、

「これとこれの違いはコレダケダヨー。値段はこれがいくら、コレがいくらだよー。デザインはコレがホカノイロがあるよー。」

それだけ言って、あとは黙っている。完璧な接客である。

試しに2つ使って実際に髭をそってみた。家にシェーバーがないので、髭は伸ばしっぱだったので、これ幸いとばかりに剃ってみる。

うん、よくわからん。剃れてる気はする。正直よくわからん。ぶっちゃけ全然わからん。

でもおばちゃんがこれ!と言ってるのだから、これにしよう。ということで、せっかく鏡の前に座ったのだけれど、ろくに剃りもせず「じゃあこれもらいます」と言ってお会計してきた。

おばちゃんが勧めてくれたうちの、安い方である。それでも40,000円した。値段にはびっくりだが、安いの買うよりこっちのほうがいいよ、というおばちゃんのアドバイスなんだろう。おれはおばちゃんに従うよ。一生ついていくよ。

ということで、おばちゃんの軽い「アリガっとゴザましたー」を聞きながらお会計。今朝早速髭剃ってみました。なんかよくわかんないけど、すごいいい感じに振動していて、すごいいい感じにストレスなく剃れました。

振動のおかげ?でニキビエリアもちゃんと剃れて、最高でした。やっぱ最初に髭を見つめたときに、こいつはニキビがあるからこれだな、、とちゃんと考えてチョイスしてくれたんだなと実感しました。

おばちゃんありがとう、、、あんた最高だよ。

ということで、最高の髭剃りライフ始まりました。こんなに快適なら脱毛しなくてもいいかも。だって脱毛痛いんだもん。痛いのマジ無理。おばちゃんも無理って思ってるはず。

ということで僕は最高の髭剃りライフ居酒屋を作る。

現場からは以上です。


@yohjihonda fdy.incというアパレルブランドの代表をしています。@fdy_inc SenveroOnDemandという飲み会を企画しています。