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兄弟デニムブランドが5年を経てリニューアルしたら自分たちにとって大切なことがはっきりした

「時」を蔵する

時と対峙していると、時間に追われて、あっという間に時間がなくなってしまいます。

マイブリッジの連続写真のように、時間がばらばらに寸断され、こま切れになっていると感じるとき。とにかく時間が足りないと感じるとき。私たちに必要なのは思い出の品々です。

「時」を感じさせ、象徴するそれらの品をじっくり眺め、手に取ればよいのです。ふたたび真実が見えてくるはずです。それらのオブジェは、私たちをどれだけ優しく元気づけてくれることでしょう。

時間は味方なのです。私たちを助けようと、もっとも輝いている自分を思いださせようとと囁いています。

「思い出はあなたが人生を歩んできた証。この素敵な額に入った写真をご覧なさい。あなたが立てた計画はこれからもあなたが歩み続けていく証。ダイアリーに、自分で選んだ色で書き込んであるでしょう。あなたは生きている。腕時計の針を見た、この今という瞬間、あなたはこれまで以上に確かに存在しているのですから」。

エルメス「レザー・フォーエバー」より


「ITONAMI(イトナミ)」の山脇と申します。

2015年に僕と弟が立ち上げたデニムブランド「EVERY DENIM(エブリデニム)」が昨年リニューアルし、ITONAMIとして再出発しました。

この度ITONAMIとして初の製品をリリースしたことをきっかけに、このロゴと名前に抱いた想いを記したく、いまこの文章を書いています。

どうか最後まで読んでいただき、感想など頂戴できると嬉しいです。

EVERY DENIM

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兵庫県出身の僕たち兄弟は、弟が大学進学で岡山に移ったことを機にデニムの職人さんと出会い、在学中の2015年、デニムブランドEVERY DENIMを立ち上げました。

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最初は店舗もないので週末になると全国各地にデニムを持参し、販売の機会をもらう日々でした。3年ほど経った2018年からはキャンピングカーに乗って旅に出、47都道府県を巡った後、2019年に岡山県倉敷市児島に拠点を構え、お店併設の宿泊施設「DENIM HOSTEL float」を開きました。

(5年間の活動について詳細は↓)

EVERY DENIM。
エブリデニム。
えぶりでにむ。
5年間この名前で何度呼んでもらったか。

僕らがデニムブランドを運営する上で得たことをひとつ挙げるとするならば、それは、紛れもなく周囲からの応援でした。

身の丈以上の挑戦を掲げ、溢れんばかりの応援をしてもらい、期待に応えることで少しずつ成長してきました。

それが、僕らのこの5年間の総括です。
  
想いを込めてつけた愛着あるこの名前とお別れするのは本当に名残惜しかったですが、今後もたくさんの人たちと関係性を築き、自分たちが大切に想うものを大切にしていくため、ブランドとして成長していきたいと思いリニューアルを決意しました。

ITONAMIについて

ローマ字表記で「ITONAMI」、読みは「イトナミ」。この名前とロゴは、尊敬するデザインファームCIAL(シアル)のメンバーと一緒に決めました。

CIALとはいわばオーダー側とクライアント側といった関係で、「一緒に決めた」というと違和感を抱くかもしれません。たしかにEVERY DENIMに代わる、新しい名前とロゴの候補を提案してくれたのはCIALのみなさんです。

ただ、EVERY DENIMを自ら卒業し、ITONAMIを生み出すために僕と弟が向き合ったたくさんの時間。CIALのみんなと深く深くディスカッションした日々には敬意を抱いています。

だから、僕はこのITONAMIというものを、誇りを持って一緒に決めたと言いたいです。

ロゴ

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ロゴは僕らの拠点から見える瀬戸大橋をモチーフにしています。岡山県倉敷市児島の唐琴地区。児島から香川県坂出に架かる橋を望むこの景色がロゴになりました。

一本一本太さや長さの異なる線が重なり合って橋を形成しています。一人一人の個性を尊重しながら関わるみんなでITONANIをつくっていきたいという願いを、とても完成度高く形に取り入れてもらっています。

名前

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次にネーミングについて。名前にはいくつかの意味が込められています。

まず1つ目は「営み」。暮らしを営む、など、人が生きていくために行う活動のこと。誰もが当たり前にする身近なことを大切にしたいと考えています。

そして2つ目「糸ー波」。糸は、繊維産業(=いとへん産業と呼ばれる)に関わっているということ。紛れもなく僕らはデニム産業に携わっています。

波は、瀬戸内海のこと。いつも穏やかな海は自分たちの心の支えであり、かけがえない存在。この海を抱く場所に拠点を構えていることをとても重要だと考えています。

最後に3つ目「意to波」。意とは、意思(意志)や、意見など、こころざし、ひらたく言えば人の主体的な思いのことです。

ITONAMIとしては、デニムをつくる工場の職人さんや、デニムを企画し届ける僕ら、運んでくれる人、そしてそれを身につけてくれるお客さん。

それぞれの個人が抱く意、強い想いが、確かな実感を持ってまた人へ伝わり、やがて伝播してゆくことを、意から波が起こる(意to波)となぞらえています。

「こんなもんでいいでしょ。」

ではなく

「これが良いんだ!」

という意。

「わたしは知りません。」

ではなく

「わたしがやりました!」

という意。

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アパレル業界は特にサプライチェーンが長く、原料が服となり着用者に渡るまでにはたくさんの工程を経る必要があります。

デニムで言えば、原料がつくられ、糸になり、染められ、織って、裁断して縫製して、洗ったり加工する。つくる過程だけでもこれだけのプロセスを経ます(簡略化しており実際にはこの間にさらにいつくかの工程が)。

つくる人、届ける人、長い道のりの中で、熱い想いを持ち、自分の仕事に誇りを持っている人はたくさんいますし、僕もそういった人に出会ってきました。

しかし、製造過程があまりにも長いことによって、ともすれば消えかかってしまう火が、見えなくなってしまう光があることにも僕は気づきました。

個人の心を温かく灯していたい。ものづくりに関わるいち人間として心から願うことです。だからこそ、いつも掲げていたいと思い名前にも反映してもらいました。

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「営み」「糸波」「意to波」それぞれの意味が、僕らを表す上で欠かせない個性です。全てを大切に、名に恥じぬよう、ITONAMIとして体現していきたいと思います。

リニューアルのプロセス

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EVERY DENIMをリニューアルしようと決めたのは、岡山に拠点を構えてから1年が過ぎようとしていた2020年夏のこと。初めての緊急事態宣言が解け、世の中が緊張と緩和の入り混じった不思議な空気に包まれていた時期でした。

これまでの自分たちを振り返り、新たな一歩を踏み出す覚悟としてリニューアルを決意。大学時代から親交があり、僕らのことをずっと見守ってくれていたCIAL代表の戸塚くんに打診し、新たな名前とロゴの制作を依頼しました。

快く引き受けてくれた戸塚くん、加藤大雅くん、吉田純貴くんを交えプロジェクトはスタート。期限は3ヶ月、あらかじめ設定した10月24日の発表の日を目標に、怒涛の日々が始まりました。

8月の頭。まずは今の僕たちの全てを見てもらおうということで、CIALのメンバーが岡山に来てくれました。

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1泊2日の合宿形式でCIALの提案する進め方に則り、以下のワークショップを行いました。

・EVERY DENIMとしての5年間を年表化、過去を掘り下げる

・変わりたいこと、これからのありたい姿を言語化する

・目指す方向性をビジュアルで共有する

2015年にブランドを立ち上げる遥か前の段階から、現在地まで自分たちのことを振り返ることで、何を大切に行動してきたのかを明らかにすることができました。

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 9月以降は、CIALが出してくれたいくつか方向性の中から、より目指したいものを選び検討していきました。

(詳細なプロセスは↓)

そして決まった「ITONAMI」という名前。

最後の最後まで緻密な検討を重ねてくれたCIALメンバーには心から感謝しています。

掲げること、大切な思い

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2020年10月24日。渋谷ヒカリエで開催されたEVERY DENIMのリニューアルイベント。コロナ禍における対策を講じつつ、定員50名強の方々が足を運んでくださいました。

5年間愛着持って育ててきたEVERY DENIMを卒業し、新たにITONAMIと名乗ってスタートを切る。いちデニムブランドとして、また応援してもらえるよう挑戦を続けていかないといけない。

ITONAMIのデニムを買うことを通じて、僕らのことを応援してもらえるのだとすれば、僕らもまた、デニムを届けることを通じて、その人とデニムが豊かな関係を築けるよう応援したいと思います。

ITONAMIが掲げるミッションは

デニムで人・モノ・人の間を育む。

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これまで、デニムを履くたくさんの人に出会ってきました。僕が見てきたデニムはどれも、持ち主の大切に履き続けようとする心がデニムに投影され、時間を経て味わい深く変化していました。

冒頭に引用したエルメス展の言葉を借りれば「時は味方」なのです。

対面のコミュニケーションは制限され、オンラインへシフトするなど、多くの人にとって時間の過ごし方を見直す必要に迫られている今日。

時間のことを、迫り来る敵とみなすか、それとも人生を刻む味方だと思うかで、大袈裟ではなく日々の豊かさが変わってくると僕は思います。

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そして、本当に大切なことは何かを見つめ直したいときの思い出の品として、ITONAMIのデニムが手に取られることを願っています。

長い時間をかけて、ぜひ自分にとってだけの特別な一着にしてください。デニムならそれができる。

そして、自分だけしか履きこなせないデニムをまとった、素敵なあなたにいつかお会いしたいです。

ITONAMIより、藍を込めて。


◆公式サイト:↓

◆Instagram:@itonami_jp