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岡野邸との出会い

僕らにとって5年ぶりの新しい施設になる「DENIM HOUSE BON」。築90年以上の古民家を改装してつくった、1日1組のための“泊まれるデニム屋”。構想から1年半。ついに完成するこの宿を前に、BONにまつわるいくつかの思い出を、しばらく時間をかけて振り返ろうと思う。

DENIM HOUSE BONとして生まれ変わった古民家。元は岡野さんという方が住む個人宅「岡野邸」だった。岡野さん=大家さんとの出会いは遡り2020年初夏。岡野邸が別の形で利用されていた時に出会い、この立派なおうちのことを伺っていた。

児島のこのエリアは元々岡野姓が多く、BONの周辺も"岡野さん"がたくさん住んでいらっしゃる。実は岡野邸には母屋の横に茶室のある棟が隣接しており、昔は家主が先生として、近所の方を招きたびたび茶会を開いていたそうだ。

そんな茶室の屋号は「小倉庵(しょうそうあん)」。岡野姓がたくさん住む地域ゆえに苗字での識別が難しいことから「小倉屋(おぐらや)さん」として皆に呼ばれていたらしい。

この岡野邸の最初の家主は、現在僕らがやりとりしている大家さんの夫の祖父母にあたる方で、家は大正〜昭和初期に建てられた。そんな話をすると「改修前は随分傷んでたんでしょう」と心配されそうだが、初めて岡野邸を見学させてもらった時にあまりに建物の状態が良くて驚いたのを覚えている。

古民家=朽ちているという、いかにも素人な自分の常識の枠外にある、立派で風情に満ちた庭付き茶室付き住宅。大家さんとの話し合いの中で僕らがこここを手がけられることが決まった時はとてもワクワクした。

僕らITONAMIによって岡野邸を新たに宿泊施設として運営する話が決まったのは2022年夏のこと。2019年にオープンした初の宿「DENIM HOSTEL float」が3周年を迎える手前であり、2022年春に敷地内に新設したトレーラーハウス、グランピングドームの宿泊棟、そしてアウトドアサウナ「fuu sauna」が本格的に始まっていた頃だった。

正直に言って、元々宿の2店舗目の構想があったわけではなかった。大家さんとの話し合いの中で、オーナーとしての想いを伺い、岡野邸のいろんな今後の選択肢を検討した中で、宿泊施設にすることが、最もこの家の良さを活かすことができ、また僕らのやりたいことにも重なっているということで決まったのだ。

ITONAMIは何か新しいことを始める際、縁とタイミングをとても重要に考えている。行き当たりばったりではもちろんなくて、日々次にやりたいことはあるのだが、その中で本当にやることが決まるのはいつも、縁とタイミングが決断を後押ししてくれた時だ。

これからやろうとしていることが、これまでやってきたことの自然な流れの中にあるか、通ってきた道の先にあって違和感がないか。初めに抱いた心を携え、なるべく軌跡を一本道にしたい。

そう考えて行動してきたからこそ「ITONAMIは物語がわかりやすい」と言ってもらうことが多い。歩みは決して速くないけど、全てがブレずにきちんと繋がっていて、辞めず立ち止まらず少しずつでも確実に前へ進み続けているという在り方は僕らの誇りである。

住宅街の中の個人宅ゆえに、一つ目のfloatよりもより強く、大家さんの想いや近所の方との関係を感じるBON。外からやってきた僕らが地域に根ざすことができるのか、今また新たな挑戦が始まった。このような機会をくれた岡野さんに心から感謝する。

続く。