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【残業代】未払い賃金の請求期間を巡って労使が対立 その理由とは?

■賃金債権の時効の話・・・

A「いきなりだけど、未払い賃金を請求できる期間が5年になるかもしれないの知ってる?」
B「知らなかった。そうなの?いいじゃん」
A「そう、民法が改正されて債権の時効が5年もしくは10年になったんだ」
B「へぇ。それに未払い賃金を請求できる期間も合わせるってこと?」
A「そう。民法の規定に合わせて、労働基準法の規定を変えようとしているんだ。でもね、労働者側はそうしたいんだけど、厚生労働省の委員会で経営者団体が反対しているんだ」
B「なんで?」
A「データの保存に手間がかかるかららしい」
B「え、そんなにかかる? それって都合の悪いデータを早く捨てたいだけじゃない?」
A「だよね、私もそう思う。でね、経営者が反対して、賃金債権の時効期間が2年のままだったらさ、民法の規定より労働基準法の規定の方が低くなってしまうんだよね」
B「労働基準法って、民法だけじゃ労働者が不利だから、労働者を保護するために作られた法律だよね」
A「そう、それなのに民法より労働基準法の方が条件が悪くなってしまうかもしれないんだ」
B「それっておかしいでしょ」
A「うん、おかしい」

■何が問題か?
2017年に民法(債権法)が改正されました。改正された民法では、債権の時効期間が5年と10年に統一されました。施行は来年2020年4月からで、目前に迫っています。

しかし、まだ解決していない問題があります。賃金などの労働債権の消滅時効の扱いです。

現行の民法(2020年3月まで)では、給料にかかわる債権の消滅時効は1年間。旅館や料理店のいわゆる「ツケ」の債権の消滅時効と同じ期間です。

ただ、未払い賃金などを請求できる期間が1年間では短すぎます。そのため、労働基準法は第115条で、労働者の保護を図るために労働債権の消滅時効を2年間としています(退職金は5年)。

さて、その上で、2017年の民法(債権法)改正で、債権の消滅時効期間は次の通り変わりました。

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職種ごとの長さが統一され、5年もしくは10年に統一されました。

この民法(債権法)改正に伴って、労働基準法第115条の労働債権の扱いをどうするかが大問題となっているのです。

■労使の意見が対立

消滅時効期間の扱いについて、労働者側は民法と同様に5年とすべきと主張していますが、使用者側は現行の2年を維持すべきと主張しています。

では、労働基準法を改正せず、消滅時効期間を2年のままにしておいたらどうなるでしょう。労働者保護を図るはずの労働基準法が、一般法である民法の保護を下回るという逆転現象が起きてしまうのです。


使用者側は現行の2年のままでいいと主張しています。その理由は、「賃金債権の特殊性を考えれば民法が改正されたからといっても同じにする必要はない」「データの保存が困難」「業務負担が増える」といったことです。都合の悪いデータは早く消してしまいたいからではないでしょうか。きちんと残業代を払っていれば問題になりません。

民法改正後も労働基準法の消滅時効が2年のままだと、例えば、こんなことも起こります。請負契約・委任契約等に基づく就労者の債権の時効は5年になるのに、労働契約に基づき働く労働者の労働債権だけは2年。つまり、労働契約で働く労働者だけが特別に不利な条件で働くことになってしまうのです。労働基準法第115条の消滅時効を2年のまま現行維持することは、労働基準法の基本的性質を根本から覆すような大きな事案です。決して許すことはできません。

■もう一つの問題〜適用対象をどうするか

A「でも、まあ、仮にね、改正された民法の施行日に合わせて、来年の4月から時効が5年になったとしよう。ところで、Bさんの入社日っていつだっけ?」
B「2018年の4月だよ」
A「そしたら、Bさんの未払い賃金の時効は、転職しない限り、ずっと2年のままだ」
B「え、なんで?」
A「今の仕組みだと、労働契約を締結したのがいつだったかによって、適用対象が変わってしまうんだよ」
B「ん?」
A「労働契約を締結したのが、2020年3月31日以前だったら時効は2年。それが2020年4月以降だったら5年になるんだ」
B「ん?最初の労働契約が3月以前だと、4月以降に給料日が何回来ても、2年?」
A「そう」
B「有期契約社員の人が4月以降に契約更新しても2年?」
A「そう。最初の労働契約が2020年3月31日以前だったら2年」
B「まじか。そしたら私が何十年も転職しなかったら?」
A「時効はずっと2年のまま」
B「まじか。それじゃ、今後何十年にもわたって、時効が2年の人と5年の人が職場に混在しちゃうじゃん」
A「そーなんだよ。大パニックだよね」
B「どうすりゃいいのさ」
A「2020年4月以降に訪れる給料日を起点にすればいい。そのためには特例法を作るなどの必要があるんだ」
B「ほぇ。結構やばい話題だね」
A「私も最近知った」
B「友達に教えとくわ」
A「ありがと」

■何が問題か

二つ目の問題は、どの債権を改正後の対象にするか、ということです。
改正民法の新しい時効制度の適用対象は、法施行日以降に締結された契約によって生じる債権です。契約がいつだったのかによって、適用対象が異なってくるのです。


2020年3月31日以前に労働契約を締結すると、その契約の労働債権の消滅時効期間は2年間です。2020年4月1日以降に賃金支払日が何回やってきても、その賃金の消滅時効期間は2年間です。なぜなら、労働契約が2020年3月31日以前に締結されたものだからです。

その結果、何が起きるでしょうか。今年新卒採用された新入社員が、無期雇用契約で定年まで働いたとしたら、今後40年にわたって消滅時効期間が2年間のままという事態に陥ります。有期雇用契約を更新する場合も同じです。最初の契約が2020年3月31日以前だと、契約更新を繰り返しても消滅時効期間が2年間のままになってしまうのです。


となると、職場には消滅時効期間が2年間の労働者と、5年間の労働者が今後何十年にもわたって混在することになります。これでは職場に大混乱が生じます。

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労働側はこの問題の解決策も提起しています。それは、労働契約の締結日とは無関係に、2020年4月1日以降の賃金支払日を新しい基準の適用対象にする考え方です。そうすれば、2020年4月1日以降に賃金支払日が到来した賃金債権には、新しい消滅時効制度を適用することができます。そのために特例法を設けることを提起しています。

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職場の中で、新しい消滅時効制度が適用される人とされない人との分断をつくるわけにはいきません。すべての労働者が新しい基準の対象となるべきです。

■いまがヤマ場!世論換気を!

このように民法(債権法)改正に伴う労働基準法第115条の労働債権の扱いには、大きく二つの問題があります(このほか、賃金請求権以外(例・有給休暇)の消滅時効の問題などがあります)が、どちらも働くすべての人にかかわる大事な問題です。

改正民法の施行は目前に迫っています。今が労働基準法改正に向けた大きなヤマ場です。ぜひ労働者のためになる改正を実現していきましょう!

参考:連合「知っていますか?消滅時効」

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shoumetsujikou2019/