川端康成原稿

読書メモ:未来をつくる言葉

情報学の研究者であり起業家のドミニク・チェンさんの新書。

私達一人ひとりがもつそれぞれの世界観。人間だけでなくあらゆる生き物が自分の見方で世界を認知している「環世界」がキーワード。

環世界=Umweltとはドイツの生物学者であり哲学者であるユクスキュルが提唱した概念で、すべての動物はそれぞれに種特有の知覚世界をもって生きており、その主体として行動しているという考え。
本書では、我々一人一人もそれぞれの生まれ育った環境も異なり、世界の捉え方も違う。単に同じ国籍であるとか、同じ言語を話すという枠組みとは関係なく、それぞれが生きている過程で独自に取り込んできた世界=環世界がある、というもの。
そもそもみんな見てる世界は違うという前提で、それでも言葉を共に紡ぐことで互いの世界を取り入れながら共に世界を描いていけるはず。ともすれば言葉は社会に分断を引き起こしてしまう。だからこそ、著者自身が言語や様々なコミュニケーション手段を獲得してくことによって世界を広げてきた体験とともに、”言葉"のあり方について、丁寧な言葉で綴られています。

あいちトリエンナーレ2019でドミニク・チェンさんの作品に触れる機会を得た。本書でも取り上げられている「ラストワーズ/タイプトレース」という作品。

元になっているのがキーボード入力のタイミングや文字の削除などの執筆のプロセスを全て記録し、再生することができるソフトウェア。文字と文字の入力の時間間隔に応じて、文字のサイズが変化するというもの。かつて紙の原稿や手紙であれば、筆使いや書き直した形跡から、書き手の心情を推し量ることができたが、デジタル化してしまった今、そうした息遣いが消えてしまった。この作品はこのデジタル化しているこの世界において、生き物としての人間の息遣いを、互いの存在を感じさせてくれる。

川端康成原稿


「私の」ウェルビーイングだけではおそらく不十分だということです。人間は社会的な存在ですから。突き詰めるべきは「私の」の先にある「私たちの」ウェルビーイングなんだと思います。

この「私たちのウェルビーイング」という視点はとても共感でき、社内でも企業としてのあり方や事業の設計時点でじっくり向き合おうとしている。

分断が強調され、知らず識らずのうちに「個」としての「私の」幸せばかりを主張し合う社会から、互いに異なる世界をもった私たちの幸せな社会を如何に実装していくか。

その第一歩として、異なる世界たちをつなぎ、未来をつむぎだす力のある「言葉」を丁寧に扱っていきたいと改めて思わせてもらった。

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