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「よはくもの」の夢

張り子――木や粘土でつくった型に、小さな紙片を何枚も貼って立体とし、乾かしたのちに型を抜き、中身が空洞になった物のこと。古くから、それぞれの時代や場所で手に入る材料で、多様につくられてきた、どちらかと言えば身近で生活感のある玩具です。

張り子のカイツブリ

私たちがこの張り子に魅せられ始めたのは5年ほど前。ふらりと立ち寄った地にあった玩具館で、展示されているのを目にして、いっぺんに好きになったのでした。

元来の性質なのか、ふたりともちまちまと手を動かすことが好きで、コーヒー豆屋を営む中でも、たとえばちょっとした紙物や小物など、必要なものや工夫できる部分は、できるだけ自分たちでつくっています。

それとは別に、あるいはそれらの一環として、生活の一部として、出逢った野鳥や猫の絵を描いたりハンコをつくったり、いろいろなことをしています。張り子もやはり、蒐集する方ではなく、自分たちでつくってみる方に興味が湧き、いつしかちまちまとつくるようになりました。そして、粘土をこねたり、張り子をつくったりすることは、自分たちにとてもよく馴染んでいるように感じられて、もっとも好きなことのひとつになりました。

張り子や粘土、紙の釣りねこ

張り子は中身がすっからかんなので、不思議な軽さがあります。存在自体がナンセンスといいますか、軽妙で力が抜けていて、どこか愛らしく、とてもチャーミングです。

張り子のヒドリガモやマヌルネコ

また、張り子の型としてではなく、小さな作品として紙粘土をこねるときもあります。この場合も同じように、まわりに和紙を重ね貼りして仕上げます。その分だけ膨らみが出て、ほんの少しのことですが、和らいだ雰囲気になります。

紙粘土のヒドリガモ
紙粘土と貝のカイツブリ

さて、少しずつ、のろまのペースでつくり続けているこれらの小品を、総じて「よはくもの」と呼んでいます。余白につくる物、余白がつくる物としての「余白物」かもしれないし、怠け者やお調子者のような「余白者」かもしれません。

お店を始めて、10年以上の月日が流れました。まだ実店舗はありません。ずっと途中、でも散歩のような、車窓のような風景も気に入っています。その道中で出逢った「よはくもの」。寝ぼけついでにもうひとつ夢を見ていいなら、毎日の生活と仕事をせっせと1枚ずつ貼り重ねて、それらがひとつの形となったとき、豆の直売所を兼ねた小さなミュージアムをつくることができたら、と思っています。はてさて、はたして。


まあいいかと くりかえし
潜って浮かんで 空あおぐ
あおぞらさいふは すっからかん
身軽なもんだね いい天気

休憩休憩 また休憩
小刻みとんとん ねぎしょうが
ひと息ふた息 まるくなり
さざ波ぷかぷか 寝ましょうか

地にも天にも ふれられぬ
あいだの空気を かきわけて
ぱたぱた行くよ 風ひゅるり
ぼちぼち帰るよ 花ひらり

あれとこれと あとは何?
夕日にたずねる 忘れんぼう
今日もやること やるだけさ
小さなしあわせ 日が暮れた

――「よはくもの」(彦井洋白『古歌小唄』より)

箱もハンコも手作りです

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