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バカマジメな私が逆ナンで結婚した話♯8

結論から言おう。
やはり婚活は停滞したままだ。
立てたスケジュールが絵に描いたお餅のようになりつつあった。

婚活を始めてそろそろ9ヶ月目に突入するところだ。
残り1年8ヶ月しかないが、2年4ヶ月しかないと焦っていたあの日と状況は何も変わっていない。

だが、BARでの出逢いは素敵なものだった。
リア充ってこういうことなのね、と胸を躍らせた。

雑誌の編集者、広告代理店や大手旅行会社の企画部勤め、ゲーム会社の社長、教育委員会の偉い人。

普通にぼーっと生活しているだけでは出会えない人と会話ができた。

「ウチで働いてみないか?」とお仕事のお誘いを受けることもあった。

「あちらの方から」とカウンターの端にいる男性からウィンクされることはなかったが、もう少し話したいと言って隣で飲んでいた方に奢られることも、しばしばあった。

そして、男性から連絡先を聞かれ、やり取りしている人が数名いる。

婚活こそ停滞気味だが、BAR活はとても楽しい。

だが、私とて丸腰でここまで楽しめるようになったわけではない。
話しかけられるように、話が盛り上がるように、試行錯誤して、武器を揃えつつ、ここまでやってきた。

BARに行くときは、私なりの決め事がある。
落ち着いた服装で行くこと。
化粧は少しだけ濃い目にすること。
決して香水はつけないが、ボディーペーパーで汗の臭いを消し、仄かに石鹸の匂いをさせること。
一人で行くこと。
仕事が忙しくても、週に1度は行くこと。

携帯を見ないこと。
周りの会話に耳を傾けること。

そして、とにかく笑顔。
あと、相手の話を聞く側に徹すること。

同じく婚活していた後輩に、初対面の人と会話が続かないという相談をされたことがあった。

私は、“仕事、趣味、出身地、兄弟構成、親と本人の関係性”などなど、結婚する相手に聞いておきたいことをいかに自然な会話の中で聞き出せるか実践していた。

初対面の相手を質問攻めにしたら怪しまれる。
一つ一つ話を膨らませられるように、日々いろんな事柄にアンテナを張っていた。

「へぇ、出身は富山なんですか!行ったことないんですけど、白エビ有名ですよね」

「フリスビーの大会出てるんですね?すごい。やったことないけど、初心者でもできるものですか?」

「え、そろそろ地球のN極とS極が入れ替わる…?なにそれ、怖い。」

唐突な話題に笑顔が作れず、真顔でひいてしまうこともあったが、トライアンドエラー。
会話力と応用力を日々磨けていたと思う。

相手が既婚者やだいぶ年上だった時は、
「絶賛婚活中なので、誰かいい人がいたら紹介してください」
と笑顔でお願いした。

そして私のBAR活には強い味方がいた。
美人のマスターだ。
話題をいろんな人に振ってくれるのはもちろん、嫌な絡まれ方をしていたら助けてくれる。
ちょっと危ない客がいれば、出待ちされないよう、先に帰れと促してくれた。

美人のマスターは2回目に行ったときにはもう、平凡なアラサーこと、この私のこともしっかり覚えてくれていた。

『みんなのこと、覚えているんですか?』
と訊ねると、

「みんなというわけではないですよ。でも、高橋さんは、すぐに覚えられました。
自分の前世はなんだったと思いますか?と伺ったときに、真顔で“ハンガー”と…おっしゃったので…」

そういってマスターは笑ってくれた。
紛れもなく前世がハンガーだったんだよと言えるくらい、私の肩はハンガーであるし、それで覚えてくれたのであれば御の字だけど。

マスターに覚えてもらえたからこそ、BAR活は充実していたのだ。

そして、そうこうしているうちに待ちわびたその日は突然やってくるのだ。

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