2022年10月19日

経営学者の村沢義久さんが日本経済新聞への寄稿文で、EV時代が到来するなか、日本の自動車メーカーの危機感が依然として薄いことに苦言を呈している。「自動車関係者の間ではいまだに『EVなんかダメだ』『日本の自動車産業は大丈夫』といった論調が多い。彼らは日本語のニュースしか読んでいないのだろう。世界ではEVの是非を論じる段階は過ぎた」と手厳しい。

海外のニュースを見たり読んだりするのは、世界の現状を知るために必要不可欠だと筆者も日頃から感じている。海外に関する日本語情報はあふれているが、トンチンカンなものが少なくないのだ。欧州のメディアに日ごろから接していれば、日本の経営者もEV化の動きが本物であることをもっと早い時点で理解できただろうと思う。

日本車は燃費の良さと故障の少なさを強みに、石油ショック後の世界を席巻した。その成功体験がアダになっている面があるかもしれない。快適な現状が変わることを人は望まず、状況を自分に都合良く解釈しようとする。
移行期の初期段階では地殻変動が本当に起きているのかどうかを判断しにくい。肯定と否定の判断材料がともにあるためだ。EV化は無理ないし時期尚早だとする主張を裏付けるかに見える材料はいくらでもあり、それを根拠とするEV否定論は多かった。メーカーの経営陣は先走って大失敗することを恐れ、様子見を決め込んだのだろう。

EV化の先陣を切る欧州は違った。温暖化問題を人類の課題と真剣に捉え、その実現に向け体系的・戦略的に取り組んでゆこうとしたのである。高い壁を超えることを頭から「不可能」と考えるのではなく、どうすれば克服できるかグランドデザインを考え、必要があれば修正を加えるスタンスだ。「先んずれば人を制す」であり、当然ながら産業競争力の強化も狙っている。排ガス規制の強化に消極的だった自動車業界でもVWの排ガス不正問題を機に潮目が変わった。

日本人には此岸的な現状や前例に基づいて物事を判断する傾向がある。評論家の加藤周一さんが指摘するこの根深い「土着の世界観」は、理念や理想を掲げて現実を変えていこうとする欧州文化の根底にあるものの理解を恐らく妨げているだろう。日本の議論からは温暖化防止を「外圧」「黒船」としか捉えていないという印象を受ける。
それでもホンダがEV化に本腰を入れ始めたことは良いニュースだ。村沢さんは「10年遅い」と批判するが、周回遅れでも動かないよりはましだ。ソニーと自動運転EVで手を組んだという情報は独メディアでも比較的大きく取り上げられた。うまく行くことを期待している。

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