見出し画像

スナックで逢いましょう:青春と人生の交差点

実家のスナックは今年で創業54年。高度経済成長、バブル、リーマンショック、そして今。いろんな事をくぐり抜けて、細々とやってます。

店の看板は、二つのうち一つだけ灯します。中途半端な佇まいをしていると、一見さんは入るのに躊躇しますが、「ひょっとしたらやってるかな」と、毎週のように確かめに来る常連さんが、その灯り一つで気が付いてくれます。悲しいかな、現状新しい方を積極的にお呼びするような状態ではないものですから。

たった2週間です。

再開したもののすぐに休業。仕方ないと言えばそれまでですけど、やっぱり寂しい。やん坊かマー坊なのか、マンボウって魚は白身で美味なのかは知りませんけどね、ほんとやんなっちゃいます。今、こんな時だからこそこういう場所が必要だと思うんですけどね。路上で飲んじゃう人がいるくらいなんだから。

そんな2週間の中でも、楽しくて、どうしようもなくて、素敵な人達との交流があるんです。ちょっとだけ書かせてください。良かったら笑ってやってください。

「いらっしゃいま・・うわああああああ!どうしたその顔!」

週末に必ずカップルで訪れる常連さんが何組かいるんですけど、そのうちの一組。男性の方が、何故か顔面血だらけ
「いたたた…よっ!元気そうで」
「よっ!じゃないよ!取り敢えず座って?え?なんなの一体その顔」
慌てて暖かいおしぼりを水で冷やして手渡しました。擦りむいたおでこと鼻を抑えながら
「ああ…いやーさっきね、タクシー降りて、少し歩いたら躓いちゃって。あーいってえー!まあいいや。くーちゃん、いつものな。ボトルなかったら、おろしといていいから」
「い、いや酒飲んだら血の巡り良くなって余計止まんないじゃんよ。大丈夫?」
「ああん?こんなの唾つけときゃ治るから」
「にしたって、今日はやめといたら?」
「ここまできて?そりゃないだろー!『まん坊』でまた休むと思って顔出したんだから。大丈夫だって!一杯だけでいいから飲ましてくれよ」
「酒なら売るほどあるわよー。好きなだけ飲んでって頂戴!」
「ちょっとママ!」
「ハハハハハさすがママだ!だろう?そのために来たんだから。水で帰すなんて、水商売とは言ったって商売根性がないねえ」

とまあ、元気なのか無鉄砲なのか分からない会話に。絆創膏を差し出して
「ここはスナックよー。保健室じゃないんだから」と苦笑い。
ママはママで「消毒液ならいくらでもあるから。血が出てるなら生きてる証拠!」って吞気に笑ってるし。常連さんは常連さんで、おでこに貼った絆創膏と、頬を真っ赤に染めながら、いつもの調子です。

「保健室ぅ?白衣着てなんかしてくれんの?いいねー。」
「もう。頭打ってどっかのねじ取れちゃった?」
「その口の悪さがなけりゃいい女だぞ!ママ、何とか言ってやれよ」
「私の娘だから仕方ないわよ。満更嫌いでもないくせに」
「ははは!ばれたか。でもよ・・・せっかくだってのになあ。なんとなくそうなるんじゃないのかって思ってたけど、案の定だ。」
そう言って焼酎の水割りが入ったグラスをカラカラ回しながら
「こうやって店まで来た方が、あんまり飲まなくて済むな。一人だと家に閉じこもって、ついつい昼間っから呑みすぎてな」
と、しんみり。
「一人だとつまんないですよね」
「お?うち来るか?出張してきていいんだよう」
「ばーか。彼女に怒られるでしょ」
「彼女・・・ああ」
氷の解け切った水割りを飲み干して一言。
「もう連絡こないんだよ」
「え?」
「ここに来たら遭えるかと思ったんだけどな」
「そうですか・・・」
「まあ、縁がなかったんだよ」

お店から新しいマスクを渡して、お見送り。

足元と心の持ち具合にはお気を付けください。特に飲んでるときは。

もうね、再開初日からこんな感じだったんですよ。

次は素敵なお姉さんのことを少しだけ。

人生は一度きりだけど、青春は何度あってもいい。

それが「青春と人生の交差点」

読んでいただきありがとうございました。これをご縁に、あなたのところへも逢いに行きたいです。導かれるように。