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ワンオペ居酒屋を考えてみる

 家までのワンクッションでちょいと一杯、を楽しみにしている小市民(なんて決めつけて失敬)、御同輩にお聞きします。

「ワンオペでやってる立ち飲み屋の主人って、もれなく無愛想じゃありませんか?」

 まあ、私が暖簾をくぐったワンオペの立ち飲み屋なんて、全体の1%にも満たないと思うので、なかなか性急な物言いなのかもしれませんが。

 でも、「せんべろnet」なる、大衆居酒屋の紹介サイトで、「んー美味しい!安い」と紹介文に乗せられて足を伸ばしたワンオペ酒場の、ほぼ100%が「最低! もう二度と行くもんか」というお店だったりするのです。

 あっ、ワンオペ、つまり料理人も接客もお会計も一人で執り行うお店での話、ってことですね。
 これがツーオペ、料理人がいて、お酒、会計、ちょっとした接客をしてくれる人がいるお店となると、途端に感じのいい、また行きたい! というお店に昇格するのですから不思議です。

 いや、一人で酒場をやっていくなど、大変なことは承知しているつもりです。
 料理、酒の提供はもちろん、お会計、食器洗い、テーブルのセッティング、とにかく目の回るような忙しさでしょう。
 中には無礼、わがままな酔っぱらいや、お喋りに夢中になってグラスの中身が空になっても、他の客でいっぱいになっても、一向にお代わりも退出もしないような、ヤクザのようなオンナどもも繰り返し来たことでしょう。
 最初はにこやかに接客していた心も、すっかり硬く閉ざされてしまったのかもしれません。

 しかし、だからといって、仏頂面を「まあ、仕方ないなあ」と、私共小市民の客が我慢を強いられるのもいかがかと思うのであります。

 あなた方は接客業。料理だけでなく、心地よい空間を提供してこその「プロ」なのです。

 我々給料をもらっている身は、嫌なこと、不条理なことがあっても、お金のために我慢我慢、の繰り返しです。
 作り笑いでもなんでも口角を上げてやり過ごし、その疲れ切った神経を癒しに、ひとり酒場に駆け込むのです。

 なのに、そこで仏頂面の店主が「いらっしゃいませ」も言わず、えーとどうすればいいんだろ、今忙しそうだから声かけたら怒られるかな、他のお客は喉を掻き切られたかのように黙り込んで酒飲んでるし……とかおどおどしているうちに「何飲みますか」とやっとお声がけをいただいて、よくよく店内を見回すと、「オーダーは一度きり! 食べ終わった皿とグラスはここにおきやがれ! 店主のスマイルは100だぜお前なんかに愛想使ってやるかこのヤロー」みたいな貼り紙を見せられ、せっかく気分をリフレッシュしようと思ってお店に入ったはずが、かえって疲れ切って帰宅する羽目に陥るのです。

 まあ、ワンオペで展開する立ち飲み屋のほとんどは、一国一城の主。店が流行ろうと廃ろうと、責任は全部自分が背負うわけですからね、どんなに客から嫌われようと、お前なんか来てくれなくて結構だ、おととい来やがれと啖呵を切ることも自由なわけです。

 ああ、これまで店主から喧嘩をふっかけられたことはありませんがね、意味もなく睨みつけられたことはあります。
 えっオレ何か悪いことしましたか? とおどおどしてしまい、それからなんとなく行きにくいなあと思っているうちにその店は閉店してしまいましたけども。同じような思いをしたお客がたくさんいたんだろうなと納得いたしました。

 ま、何が言いたいかというと、別にどうでもいいですが(じゃあ言うなってか)、そんな、接客業のくせに仕事したくないオーラ全開なら、スパッと辞めたらいかがでしょうか、ってことなのです。

 こだわりラーメン屋などにもよくあるようですが、仏頂面で客からどんなに嫌われようと、この味を好きでいてくれる客がいる限り、オイラはこのスタイルを変えませんぜ! なんていうのは、店側の「驕り」です。

 私は、どんなに美味しいものを提供してくれようとも、心地よい時間を提供してくれないお店には二度と行きません。

 それに、接客業も日進月歩。
 大箱の居酒屋チェーンが次々と閉店、あるいは業態を変えているように(晩杯屋とか伝串とか、美味しくて安いチェーン店が次々に展開されているように)、今後、安くて美味しい、なおかつスマイル0円の、チェーン店のワンオペ店ができるようになったら、仏頂面さんたちはひとたまりもない、ということは、頭に入れていた方がいいかもしれませんね。

 ただし、ワンオペの、仏頂面の立ち飲み屋さん「あるある」なんですけどね、どこも、泣きたくなるくらい料理が美味しいんですよね。
 だから、どんなに虐げられようとも通ってしまうという、M的な客が続出するのも分かる気がしますがね。

 私はどんなに料理が美味しくても、変に気を遣ったり、恫喝でもされたりしたのならば、その店にはもう二度と敷居をまたぎません。
 当たり前の話です。


 写真のように、ワンオペでも気分良く、サクッとお酒を楽しませてくれる店も、探せばありますからね。
 こちらは幡ヶ谷にある、ワンオペの中華風立ち飲み屋。
 特に店主が過剰なフレンドリーを押し付けてくるわけではないですが、何かこちらから言葉を発すればにっこりと対応。料理も手抜きなく、とても美味しいお店なのでした。
 こういう店には足繁く通いたくなる、ってものなのです。
 ま、結局はその店と、その店主との相性、ってことなのかもしれませんがね。


老後の楽しみになればと、というか、ボケ防止に、コツコツ始めてます。