整体院、サロンは予約キャンセルにどう対応すればいいか
業界を問わず世の多くのサービス業経営者、個人事業者を悩ませるのが予約キャンセルです。ホテルなど一部業界を除きキャンセル料をとれないことも多く、ドタキャン・連絡なしキャンセル・繰り返される予約変更などは仕事機会の損失となり、売り上げの減少に直結します。
しかしユーザー側から見れば、急用が入った時、あるいは当日になって気が変わった時など「気軽に」キャンセルができるのは好都合。キャンセル料など求めようものなら、どんな反発があるかわかりません。「キャンセル料とるなら予約しない」という人もいるでしょう。
個人整体院においてキャンセル対応は経営を左右する隠れたテーマです。だからこそキャンセルにどのように向き合うか。お客さんとの関係性づくりにもかかわるキャンセル対応、ここで一度じっくりと考えてみましょう。
「キャンセル」がどんどん気軽に行える時代へ
予約とは文字通り「予(あらかじ)めの約束」という意味です。約束なので、それを破ることは信用を損ないます。本来はそういうものです。
しかし今の時代はどんどん予約の扱いが軽くなっています。例えばホテル業界では、昔からキャンセル料を払うのが常識でした。2週間前なら30%、1週間前なら50%、前日当日は100%などというような設定がありました。もちろん今でも多くのホテルや旅館はそうですが、最近では予約キャンセル無料をウリにしたホテルも出てきています。
またキャンセル手続きも簡単になっています。昔は電話をかけて「すいませんがキャンセルしたいのですが」と謝らなくてはなりませんでした。それがメールやラインで済むようになり、今は予約サイトから「キャンセルボタン」を押すだけで済むようになりました。
このような時代の流れもあるのでしょう。昔よりキャンセルが気楽にされるようになった、と感じている経営者も少なくありません。
予約を大事にして欲しいという経営側と、気軽に予約やキャンセルができることを望むお客さん側。そのせめぎあいは、だんだんとお客さん側優位に傾いているようです。
なぜ予約キャンセルが問題なのか
私たち経営側が思うほど、お客さんは予約キャンセルが問題であることを理解してくれません。また前述したように社会全体も予約キャンセルに甘くなっています。ですから私たち経営者は、自分で自分の経営を守ることが必要な時代になってきたのです。
そもそもなぜ予約キャンセルが問題なのか、少し深掘りしてみましょう。
個人整体院、個人整体師の経営を圧迫するキャンセル
もしかすれば私たち経営者自身が思うより、予約キャンセルは私たちの経営にダメージを及ぼしているかもしれません。22年間整体院を経営している私の経験から考えうる経営ダメージを(分かりやすい順に)列挙していきます。
売上減
単純にキャンセルされた予約分の売り上げを失うことになります。もともとなかった売り上げならまだしも、一度予約枠をつぶしたうえでのゼロですから、損失もより深刻です。
またキャンセルではなくて変更ならいいんじゃない?という考え方もありますが、売り上げも後ろ倒しになりますからやはり損失です。例え一つ一つの損失は小さくとも、積み重なれば経営のダメージになっていきます。
他のお客様に迷惑がかかる
経営者はどうしても自分の損得に目が行きがちですが、キャンセルは他のお客様にとっても迷惑となります。キャンセルされて無駄になった日は、他のお客様が本当は予約したかった日だっかもしれないのですから。
キャンセルは経営者だけではなく、他のお客様へも迷惑となること、忘れてはいけない視点です。
新規客獲得機会の損失リスク
上に書いた通り、キャンセルは予約枠をつぶす行為です。その枠がつぶれることで新規客を失うこともあります。「その時間だったらいけるんですが」「すでに予約が入っていまして・・・」と断った後にキャンセルされたら、枠は空くし、新規客をつかみ損ねるしで、2重のダメージとなります。
モチベーションの低下リスク
誠実に仕事をしている人ほど予約キャンセルの影響を受けるのが「モチベーション」です。例えば安易に「予定はいったので予約キャンセルしてくださーい」というような人を大事に思って仕事するのは少し困難です。仕事はプロでもそれ以前に人間ですから、感情をゼロにすることはできません。結局損をするのはキャンセルをしたお客さん自身でもあるわけです。
ざっと挙げただけでも、このようなダメージが予約キャンセルによって発生する可能性があります。決して「仕方がないから」と放置して良い問題ではないのですね。
個人整体院には特にダメージが大きい「予約キャンセル」
どの業種であっても予約キャンセルは決して歓迎されるものではありません。売り上げを立てる機会を逸するわけですから。
しかしとりわけ整体院、あるいは美容院や理容院、ネイルサロンなどにとって予約キャンセルはより深刻なダメージを与えます。それはこれらの業種がマンツーマンのサービスを提供するからです。
例えば従業員10人、定員200人のレストランで4名のキャンセルが出た場合と、個人整体院で1名のキャンセルが出た場合、どちらの方がダメージが大きいでしょうか。いろいろな見方があるかと思いますが、個人整体院のキャンセルはその枠の仕事がゼロになってしまいますから深刻です。整体院にとっての予約とは「その枠の為に場所と施術者を完全にキープしますよ」という約束。それがキャンセルされるのは経営的に「とても痛い」のです。
許せるキャンセルと許せないキャンセル
ただ一口に予約キャンセルと言っても、さまざまな背景があります。例えば家族が急に倒れて病院に付き添わなくてはならなくなった。。。。朝起きたら発熱していて外出できなくなった。。。。そのような本人にもどうしようもないキャンセルも確かにあります。
しかしその一方で「友達と遊ぶ約束をいれたから」「行く気がなくなったから(そう正直に言う人も少ないと思いますが)」などの理由でキャンセルをする人もいます。また中には遊びの予定が入ったのに、「急に熱が出たからキャンセルします」と嘘を言う人もいるかもしれません。
キャンセルにはそれぞれ理由があり、心情的に許せるキャンセルと許せないキャンセルがあります。しかしそれらを正確に見抜くことは困難ですし、理由によって対応を変えるのが良いのか悪いのか、これも悩ましい問題です。
予約キャンセルにどう対応すべきか
このように予約キャンセル(あるいは予約変更)というのは経営にとって無視できないダメージを与える一方で、その背景は個々のお客様によって違うので対応が難しいのが現実。しかし難しいからと言って放置していくのは決して得策ではありません。なんらかの対策は必ずしておくべきなのです。
ではどういう対応をすればいいのか、基本的な考え方を最後に提示しておきますので参考にしてください。
予約キャンセルへの基本的な考え方
まず大前提として「キャンセルは経営を圧迫する」ということを私たち経営者自身が理解し、お客さんに伝える努力が必要という事です。
前述した通り、「経営的に困る」「他のお客さんに迷惑がかかる」そして「あなた(お客さん)のことを大事にしたいから予約は守ってほしい」ということを、うまくお客さんにお話することができれば一番いいです。直接お話する以外にもニュースレターなどでお伝えすることもできます。「私たちの院(店)を大事に思ってくださるなら、できるだけキャンセルはないようにご協力をお願いします」とお伝えするのです。これは地味だけど大事な経営のひとつだと私は思います。
キャンセルポリシーを作る
あらかじめキャンセルポリシー(キャンセル対応の取り決め)を作っておくのはとても大切なことです。フォーマットは他院(店)のものを参考にさせてもらってもいいし、全く自由に作ってもいいです。私がおすすめするのは以下の二つの項目を入れることです。
予約キャンセルに対する基本的な考え方
あなたの院では予約キャンセルをどう考えているか。全く問題ないのか。できるだけ避けて欲しのか。それはなぜか。そのようなことを明記しておきます。
キャンセル料の有無、金額
予約キャンセルをするときにキャンセル料は発生するか。全額か、一部か。どのタイミングから発生するか。それともキャンセル料はとらないのか。などなど具体的に決めて明記しておきます。
このようなことを決めて明文化し、ホームページやSNSアカウントなどに掲載しておきましょう。またキャンセル料を設定するならば、予約確定前に必ず相手にその旨伝えておくことを忘れずに。(後から言うとトラブルの元になります)
「キャンセル」ではなく「変更」といわれたら
元々取っていた予約を一旦取り消し、違う日に予約を取り直す。こういう予約変更はキャンセルではない、と考えているお客さんも少なからずいます。またそう考える経営者もいます。どう捉えるかはそれぞれの院の考えでいいと思いますが、経営者としてみれば日時変更であれそれはキャンセルです。なぜなら大事な予約枠が一つつぶれるのですから。
ですから日時変更もキャンセルとして取り扱い、またその旨をキャンセルポリシーに明記しておくことも大事です。あなたの院のルールはあなたが決めていいのです。そのルールに賛同できないお客さんは来なければいいのですから。
どうしようもない事情でキャンセルされた場合
例えば家族が事故にあって病院に行かなくてはいけない。例えば本人が急に高熱が出て家から出られない。そういう理由でキャンセルが入った時、そしてキャンセル料を設定している時、どのように対応すればいいのでしょうか。
心情的には大事なお客さんが苦しんでいるのに「キャンセル料を払ってください」とはとても言いにくいものです。また「なんと冷たい先生だろう」と、せっかく深めてきた信頼関係にヒビが入るかもしれません。
しかし経営的にはどんな理由であれ、その理由が経営側ではなくてお客さん側であるならば、キャンセル料を払うのは常識の範囲内だと考えられます。渋滞で飛行機に乗り遅れても払い戻しなどありませんね。商慣習的にはどんな理由であれ、それがお客さんの事情によるものならキャンセル料を求めることに問題はないのです。
ただ整体のようなお客さんと院が密にお付き合いする仕事において、特に相手が馴染みのお客さんであったりすれば「今回は事情が事情ですからキャンセル料は無しでいいですよ」と言いたくなることもあるでしょう。結局のところ、つきつめればケースバイケースで良いのかもしれません。一応決まりとしては「こうですよ」というキャンセルポリシーを提示しておいて、あとは個々の関係性や信頼関係などによって多少柔軟に対応することもまた経営の一つなのかもしれません。絶対の正解はないのですね。
最後に
このように個人整体院にとってキャンセル(および予約変更)は決して軽く扱えないテーマです。しかし面と向かってお付き合いするお客さんに対し「キャンセル料を払ってください」というのもなかなか難しいのも事実。だから世の多くの整体院がこの問題を抱えたままなかば放置し、「キャンセルしても問題ない」と考えるお客さんが増えているように思います。
なかなか難しいからこそ、今一度よく考えてみてください。そして是非「キャンセルポリシー」を作ってみてください。身勝手なキャンセルをしないようにお願いするのは経営者として当然の権利です。一緒にいい院を作っていきましょうと丁寧に伝えていけば、心あるお客さんはきっとわかってくれます。
三宅弘晃
個人経営者をきっと助けてくれる整体院経営のバイブル
技術から経営法まで。三宅の指導を受けられる唯一の場