令和5年予備試験論文再現 民事訴訟法

第1 設問1
1 Yの主張の根拠
本件では、XはYを被告として甲土地の所有権に基づき乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴え(①訴訟)を提起しており、第一審では勝訴の判決を得ている。ところが、控訴審で、Yからの主張に基づき、①訴訟を維持することは不可能であると誤認して、この訴えに換えて、甲土地についてのYの賃借権の不存在を確認することを求める訴えに変更した。そうすると甲は、控訴審において訴えの交換的変更を行ったことになるが、その性質は新訴の提起と旧訴の取り下げと解される。そうすると、Xは第一審で勝訴後に旧訴(①訴訟)を取り下げたことになるので、「本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者」にあたり、「同一の訴えを提起することができない」(民事訴訟法262条2項)。そして訴訟②は甲土地の所有権に基づき乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えであり、①訴訟と同一の訴えにあたる。よって②訴訟は却下されるべきである。
2 主張の当否
(1) この主張は認められるか。
(2) 確かに①訴訟と②訴訟は「同一の訴え」にあたり、Yの主張は認められるとも思える。しかし、Xが第1審で①訴訟で勝訴したのちに、控訴審で①訴訟を取り下げたのは、Yから乙建物はAら3名の増改築によってその形状が著しく変更され、乙建物はAら3名の所有に属するものとなっている旨の虚偽の主張がされたからである。そしてXはこれを信じ、乙建物は増改築によって形状が著しく変更されており、増築部分も含む乙建物はAら3名の所有に属し、Yは所有しておらず、Yとの間で乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えを維持することは不可能であると誤認して、②訴訟を提起している。そうであれば、①訴訟を取り下げたのはYが虚偽の説明をしたからであり、その責任はYにあるにもかかわらず、Yが本件主張をすることは訴訟上の信義則に反し許されない。
以上から、本件におけるYの主張は認められない。
第2 設問2
1 本件和解交渉の際に、YはXに対して、乙建物を賃貸して生計を立てていたが、現在居住している丙建物が取り壊されることになり、今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいので和解に応じてほしいと虚偽の説明をしている。そして、XはYの説明を信じ、やむを得ないと考えて和解に応じている。そうするとYの虚偽の言動によりXは錯誤に陥っているといえるので、本件訴訟上の和解を錯誤により取り消すことが考えられる。これは認められるか。訴訟上の和解のような訴訟行為において、民法の意思表示の瑕疵に基づく取消規定が適用されるか。
2 民事訴訟における手続きの安定性の実現という観点からは、訴訟手続きにおいて実態法上の意思表示の取消規定の適用を認めるべきではないとも考えられる。
 しかし、訴訟上の和解は、当事者の意思に基づくものであり、裁判所の関与が必ずしも十分ではないので、取り消しを認めないと当事者に不利益をもたらすことになる。そこで、訴訟上の和解を錯誤により取り消すことはできると解する。
3 では、本件訴訟上の和解を取り消した場合、Xは次にどのような手続きを取るべきか。
 Xの保護の観点からは、Xは新訴を提起することも期日指定の申し立てをすることもいずれも認められると解する。
 ただ、Xとしては、第一審では勝訴しており控訴審がそのまま継続していれば勝訴したと考えている。そうであれば、Xは、控訴審裁判所に続行期日の指定を申し立てるべきである。その方が従前の訴訟資料を流用できるので、Xに有利になるからである。
                              以上

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