令和5年予備試験論文再現 倒産法

第1 設問1小問1
1 A社は仕入先20社に対し、未払い売買代金を約定通りに支払うことができるか。
2 仕入先20社は、再生手続き開始決定時の債権者であるから、これらの者の債権は、「再生債務者に対し再生手続き開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(民事再生法84条1項)にあたり、再生債権である。そして、再生債権については、再生手続き開始後は、再生計画の定めるところによらなければ弁済をすることができない(85条)。よって、A社は仕入先20社に弁済をすることができない。
2 また、仕入先20社は、A社にとっていずれもほかの仕入先を見つけることも可能な取引先であり、取引継続の必要性の高い取引先ではない。よって、「少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すとき」(85条5項後段)にもあたらない。
3 よって、A社は仕入先20社に対し、未払い売買代金を約定どおりに支払うことができない。
第2 設問1小問(2)
1 A社はクーポン券を有する債権者に、クーポン券を利用させることにより弁済できるか。
2 クーポン券保護者の権利は、再生債務者であるA社に対し、再生手続き開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であるので、再生債権(84条1項)にあたる。そうすると、再生計画の定めるところによらなければA社は弁済できないのが原則である。
3(1) では、A社は85条5項前段により弁済することができないか。
(2) 「少額の再生債権を早期に弁済することにより再生手続きを円滑に進行することができるとき」とは、弁済により債権者の数を減らすことができ、迅速な再生手続きを可能にする場合も含まれると解する。
(3) 本件では、額面が1000円のクーポン券保有者が300人もおり、券面総額の100万円は負債総額2億円の200分の1にすぎず、「少額の再生債権」といえる。そして、再生手続き開始決定後から、A社の指定販売店である複数の学校から、保護者からの問い合わせが相次いでいるので、直ちに対応してもらいたいとの連絡を受けている。そうであれば、再生計画に基づき個別に対応すると、店舗での混乱も予想される状況であり、再生計画認可決定前にクーポン券の使用を認めることは、再生手続きが煩雑になることを防止し、迅速な再生手続きを可能にするといえる。よって、「少額の再生債権を早期に弁済することにより再生手続きを円滑に進行することができるとき」にあたる。
(4) 以上から、A社は、85条5項により保護者にクーポン券の使用を認めることができる。
第3 設問1小問(3)
1 A社は、D社らに対する未払い委託料を85条5項後段により約定期限までに支払うことができるか。
2 85条5項後段の趣旨は、民事再生手続きが、制債務者の事業の継続による収益によってその債務を弁済する手続きであり、事業の継続が前提となっているところ、事業継続に不可欠な取引先との取引を維持するという点にあると解する。そうであれば、「再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すとき」とは、当該取引先との取引終了により、事業の継続が不可能または著しく困難となる場合をいうと解する。
3 本件では、D社らに対する支払い委託料は、それぞれ60万、70万、80万であり、合計でも210万円であり、負債総額の2億円からすると「少額の再生債権」といえる。また、D社E社F社(D社ら)は、その縫製技術の高さから、早期に代替先を確保することが難しい委託先であり、A社販売の高級服を愛用する顧客層を維持するためにも不可欠な取引先である。そうであれば、D社らとの取引終了は、事業の継続が不可能または著しく困難となる場合といえるので、「再生事業の継続に著しい支障を来すとき」といえる。
4 以上からA社はD社らに対して再生計画によらず、85条5項後段により弁済できる。
第4 設問2
1 A社として再生計画によらずに事業譲渡を迅速に行うためには、まず、裁判所の許可を得なければならない(民事再生法42条1項1号)。これは、民事再生手続きが、債務者の事業の継続を前提とした再生型手続きであることから、事業譲渡は、会社に重大な影響を与えるため、裁判所の許可を要することとしたものである。この場合、裁判所は当該債務者の事業の再生のために必要であると認める場合に限り、許可をすることができる。また、裁判所はこの場合、知れている債権者や労働組合等の意見を聞かなければならない(42条2項、3項)。これは、事業譲渡がこれらの者の利益に重大な影響を及ぼすからである。
2 また、裁判所は、再生手続き開始後において、株式会社である再生債務者がその財産をもって債務を完済することができないときは、再生債務者等の申し立てにより、事業譲渡について、株主総会の決議による承認に代わる許可を与えることができる(43条1項)。これは、債務超過にある会社においては、株主の実質的な持ち分はゼロであり、株主の保護を考える必要がなく、また、そのような会社においては、株主は経営に関心を持たない場合が多く、決議が成立しない場合があるからである。この場合、裁判所が許可をする場合には、その裁判書を再生債務者等に、その決定の要旨を記載した書面を株主にそれぞれ送達しなければならない(43条2項)。
                               以上

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