R5予備論文 刑事実務基礎(A評価)

第1 設問1

1 小問(1)

 後述の通り、窃盗と時間的場所的に近接して窃盗被害品を所持していることは、その所持者の犯人性を推認する上で重要である。

本件の被害品はVの水色のリュックサックであり、その中には現金及びNKドラッグストアの会員カード(以下、「会員カード」という。)在中の茶色の革製二つ折り財布が入っていた。Aが所持していたのは水色のリュックサックで中身も現金及び会員カード在中の茶色の革製二つ折り財布と前記被害品と類似する。しかし、リュックサックや財布、現金に際立った特徴はなく、上記会員カードも無記名なので、被害品との同一性は明らかでない。VもAの所持品を「私の物です」と述べているが、その真実性は不明である。しかし、会員カードの会員登録情報を確認し、これがVのものであった場合には、それにより前記会員カード及びこれが入っていた上記リュックサックがVの所持品であるといえ、被害品との同一性を認定できる。そこで、Pは上記リュックサックと被害品の同一性の確認のため下線部①の指示をした。

2 小問(2)

(1) Aは窃盗の被害のあった時点から約5時間後、被害現場から約2キロメートル離れた場所において被害品を所持していた。そのため、その所持と窃盗被害との間に時間的場所的近接性が認められる。かかる時点までに被害品たるリュックサックが転々流通することは考えづらく、Aがこれを所持するに至った経緯につき合理的弁解をしない限り、経験則上、Aの犯人性が推認される。したがって、PはAの被害品所持の事実がAの犯人性を認定するにあたり重要であると考えた。

(2) もっとも、Aの被害品所持は、窃盗被害から約5時間後、被害現場から約2キロメートル離れた場所であり、一定程度の時間的場所的隔離がある。そのため、Aの被害品所持時点までの被害品の転々流通がおよそ有り得ないとまではいえず、Aの犯人性の推認力は強度とはいえない。

 また、確かに、Aはその所持に至る経緯についてリュックサックは自己のものであると虚偽の弁解を行なっている。これはAのやましさの表れであり、Aの犯人性の推認力は高まる。しかし、Aは結局、信用性は低いものの、リュックサックはゴミ箱から拾ったとの一応の弁解をしており、必ずしも不合理な弁解ともいえない。したがって、上記被害品の近接所持の事実の有するAの犯人性の推認力は限定的であり、これのみではAの犯人性の認定にあたり不十分であるとPは考えた。

第2 設問2

1 小問(1)

(1) 甲の手続き

勾留理由開示請求は、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という)207条1項本文・82条1項に基づく。勾留理由の開示がなされても、必ずしもAの身体拘束が解かれるとは限らないから、Bは上記手続きを採らなかった。

(2) 乙の手続き

保釈請求は、刑訴法88条1項に基づく。保釈については同207条1項本文が準用していない(同項但書)から、保釈請求は被疑者に認められていない。したがって、Bは上記手続きを採らなかった。

2 小問(2)

勾留に対する準抗告の申立ては刑訴法429条1項柱書き、同項2号に基づく。これが認容され、Aの勾留の裁判が取り消された場合、直ちにAの身体拘束は解かれる。したがって、Bは上記手続きを採った。

第3 設問3

1 PはAの行った暴行が「暴行」(刑法238条)にあたり、Aが「強盗」(240条前段)にあたることの立証が困難だと考え、強盗致傷ではなく立証の容易な窃盗及び暴行の公訴事実で公判請求した。

2 「暴行」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行をいう。

 Aは65歳と体力の衰え始める年齢であり、身長168センチメートル、体重55キログラムと小柄な体型で力は強くないと考えられる。これに対し、Vは、身長175センチメートル、体重75キログラムと屈強な体格である。さらに、Vは、とび職人という力仕事を主にする職業に就き建築現場で稼働しており、週4回はジムでトレーニングする者なので、その力は相当に強いはずである。そのため、両者の力、体格差は大きい。また、確かに、Aは右手を勢いよく後ろに振り、これがVの鼻という顔の部位にあたっている。しかし、AはVの鼻に当てるべく右手を振ったわけではなく、Vへの衝撃は強いものの、一定程度にとどまると考えられる。以上からすれば、AのVに対する上記暴行はVの反抗を抑圧するに足りる程度に達しておらず、「暴行」当たらない可能性が高い。

3 よって、Pは「暴行」の立証困難性から上記の公判請求をした。

第4 設問4

1 小問(1)

(1) Vの検察官面前調書は、その立証趣旨が被害状況等であるから、公判廷外の供述を内容とする証拠のうち、その内容の真実性の証明に用いられるものといえ、伝聞証拠(320条1項)にあたり、同意(326条1項)なき限り原則として証拠能力が否定される。そして、Bは不同意の意見を述べているから、Vの検面調書は証拠能力が原則否定される。

(2) Pは、一度、同検面調書の証拠調べ請求を撤回し、これにつき伝聞例外(321条1項2号)を満たしその証拠能力を肯定させるべく、まず、Vの証人尋問の証拠調べ請求を行う。次に、Vが証言を拒絶するなどして伝聞例外(同号)が満たされた場合には、再度、同検面調書の証拠調べ請求を行う。

2 小問(2)

(1) Bの異議の法的性質は、証拠調べに関する異議(刑訴法309条1項、刑事訴訟規則(以下「規則」という)205条1項)である。異議の理由は、本件の写真に関連性がないというものである。

(2) 確かに、AはVの胸を押したにすぎず、写真のVの左足首の様子は関連性がないとも思える。しかし、VはAに押されたことで転び、その際に左足首を捻ったのであるから、関連性は認められる。したがって、Bの異議に理由がなく、裁判所はこれを決定で棄却する(規則205条の5)。

以上

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