R5予備論文 刑事訴訟法(A評価)

第1 設問1

1 まず、本件住居侵入・強盗致傷の事実(以下「事実a」という)について勾留の理由(刑事訴訟法(以下法名省略)207条1項本文・60条1項柱書き、同項各号)および勾留の必要性が認められ、勾留の要件が充足する。また、甲は事実aについて通常逮捕されている。そのため、事実aで甲を勾留することはできる。

2 次に、本件暴行の事実(以下「事実b」という) について勾留の理由および勾留の必要性が認められ、勾留の要件が充足する。もっとも、事実bについて甲は逮捕されていない。事実bでの勾留は逮捕前置主義(207条1項本文参照)に反し許されないのではないか。

(1) 「前三条の規定による」(同項本文)との文言から、勾留を行うためには逮捕が先行していることを要すると解される(逮捕前置主義 207条1項本文参照)。その趣旨は、身体拘束期間の短い逮捕を先行させることで、勾留という長期の身体拘束による人権侵害を最小限にするという点にある。そして、逮捕勾留の効力は令状記載の被疑事実についてのみ及ぶと解される(事件単位の原則 200条1項、207条1項本文・64条1項参照)。そこで、逮捕が先行しているかは被疑事実の同一性を基準に判断すべきであると解する。逮捕勾留は刑罰権の実現のための手続きであるから、被疑事実の同一性は、刑罰権の及ぶ範囲すなわち「公訴事実の同一性」(312条1項)により判断される。そして、「公訴事実の同一性」は、事実が同一性または単一性を有する場合に認められ、単一性は、事実が両立しかつ実体法上一罪を構成する場合に認められる。

(2) 甲は事実aで逮捕されている。事実aは令和4年8月20日のV方におけるVを被害者とする住居侵入・強盗致傷事件である。そして、事実bは同年7月1日のH県内飲食店における同店店員を被害者とする暴行事件である。両事実は時、場所、被害者を異にする別個の犯罪事実であり、両立する。しかし、両事実は実体法上併合罪(刑法45条前段)となり、実体法上一罪でない。そのため、両事実は単一性を欠き、被疑事実の同一性が認められない。そのため、事実aによる逮捕を以て事実bによる勾留のための逮捕が先行しているといえない。

(3) したがって、事実bによる勾留は逮捕前置主義に反し許されないのが原則である。

3 もっとも、検察官は事実aに事実bを付加して甲の勾留請求をしているから、例外的に事実bによる勾留も許されないか。

(1) 逮捕前置主義の趣旨は、前述の通り、勾留という長期の身体拘束による人権侵害の最小化にある。そして、ある事実(以下「事実A」という)について適法に勾留がなされる場合に、別の事実(以下「事実B」という)を付加して勾留したとしても、勾留期間は事実A単独で勾留を行う場合と変わらないから被疑者に不利とならない。寧ろ、これにより、事実Bによる再度の勾留が原則禁止されるから、被疑者にとって有利である。そこで、事実Aにより適法に勾留する場合に事実Bを付加して勾留することは逮捕前置主義に反せず許されると解する。

(2) 事実aによる勾留は、上述のように適法である。そして、検察官は、事実aに事実bを付加して甲の勾留を請求している。

(3) したがって、事実bによる勾留は逮捕前置主義に反しない。

4 よって、裁判官は事実a、bで甲を勾留することができる。

第2 設問2

1 勾留の一般的要件

(1) 嫌疑の相当性(207条1項本文・60条1項柱書き)

乙が本件住居侵入・強盗致傷について、甲と相談し、乙が実行し、甲が換金する旨の役割分担をしたことを供述した。そして、乙の携帯電話機に記録されたメッセージから、乙と甲との上記共謀の存在が裏付けられた。そのため、甲に嫌疑の相当性が認められる。

(2) 60条各号

 被疑事実は住居侵入・強盗致傷と重大であるから、甲の罪証隠滅のおそれ(207条1項本文・60条1項2号)および逃亡のおそれ(207条1項本文・60条1項3号)も認められる。

(3) 以上より、本件住居侵入・強盗致傷の事実での勾留が認められるとも思える。

2 しかし、甲は上記被疑事実で一度勾留されているので、本件の勾留は再勾留にあたる。それでも勾留が認められるか。

(1) 法は勾留の身体拘束期間について厳格な時間制限を設けている(208条以下)ところ、その趣旨は、身体拘束による人権侵害を最小限にする点にある。そして、再勾留を認めるとかかる趣旨を没却するから、再勾留は認められないのが原則である(再勾留禁止の原則)。しかし、再逮捕は法が予定している(199条3項、刑事訴訟規則142条1項8号)から一定の要件のもと認められる。そして、逮捕前置主義(207条1項本文参照)のもと、再逮捕が認められる以上、再勾留も認められると解する。具体的には、①新たな証拠の発見等の事情の変動があり、②再勾留による被疑者の不利益を考慮してもなお再勾留が必要であって、再勾留が先行する勾留の不当な蒸し返しといえない場合に例外的に認められる。

(2) 先行する勾留の段階では、事件発生直後に実行犯と容貌が異なる甲が被害品の時計を売却した事実が明らかとなっていた。もっとも、甲の携帯電話機やパソコン等の解析や甲と交友関係にある者の取り調べ等の捜査をしても実行犯の氏名や前記時計が甲に渡った状況等が判明しなかった。これに対し、甲の釈放後、乙が別事件で逮捕され、本件住居侵入・強盗致傷について共謀を行い甲が換金の役割を分担したことを供述した。そして、かかる供述は、乙の携帯電話機に記録されたメッセージから裏付けられた。そのため、新たな証拠の発見という事情の変動がある(①)。また、確かに、先行する勾留は勾留延長期間の満了日まで継続しており、その上で新たな勾留により身体を拘束される甲の不利益は大きい。しかし、被疑事件は住居侵入・強盗致傷と重大である。さらに、乙の供述を完全に信頼することはできず、甲が上記事件の共犯者であるかについて、甲の身体を拘束した状態で更なる捜査をする必要がある。加えて、先行勾留時点でPは可能な捜査を尽くしており、甲が一貫して黙秘したことで捜査が困難となっていた。そうすると、甲の不利益を考慮してもなお再勾留が必要であって、再勾留は先行勾留の不当な蒸し返しといえない(②)。

(3) よって、裁判官は甲を勾留することができる。

以上

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