R6司法試験 再現答案 憲法
第1 規制①
1 規制①は犬猫の販売業を営む自由(以下「自由1」という)を侵害し違憲ではないか。
(1) まず、憲法(以下法名省略)22条1項は、職業選択の自由のみならず、職業遂行の自由をも保障している。そして、犬猫の販売はペットショップ経営という職業にかかる業態の一つに過ぎず、自由1は職業遂行の自由により保障されるにとどまるとの見解がある。しかし、ペットとして動物を飼育している者のうち、犬猫を飼育する者は合計60%という大きな割合を占めているため、犬猫の販売をできなければ、ペットショップ業自体を断念せざるを得ない場合もあり得る。そのため、自由1は職業選択の自由として保障される。
(2) 次に、規制①は犬猫販売業を免許制としており、自由①が制約されている。
(3) かかる制約は公共の福祉(22条1項)のための制約として正当化されるか。
ア 自由1は職業選択の自由として保障されているところ、職業は生計を維持するための手段であるのみならず、分業社会のもと各人がその個性を全うすべき場といえるのであり、個人の人格的価値とも密接不可分の関連を有する。そのため、自由1は重要な権利である。一方で、職業は社会的相互関連性が強く、社会的利益のための特別の制約に服しやすい性質を有する(薬事法距離制限違憲判決)。
また、権利の制約態様について、規制①は犬猫の販売に免許を要求する許可制であり、事前規制であるから強度な制約であるとの見解がある。しかし、本件法案の骨子(以下「骨子」という)2条柱書は、同条各号のいずれかに該当する場合に「免許を与えない」とし、免許を与えることを原則としている。さらに、「できる」との文言から、不許可事由が認められたとしても免許が与えられないとは限らない。そうすると、上記規制は強度とまではいえない。
そして、いわゆる目的二分論について、規制目的が消極は積極かは相対的である上、両者が併存することもあり得る。そこで、規制目的が専ら積極目的である場合にのみ、立法府の裁量を特に尊重すべきと解する。規制①の目的はア犬猫の遺棄の防止及びイ犬猫シェルターへの持込み抑制であって、いずれも積極目的といえない。そのため、立法府の裁量を特に尊重することはできない。
そこで、①目的が重要であり、②手段が目的と実質的関連性を有する場合には上記制約が正当化されると解する。
イ 規制①の目的は上記ア及びイである。アについて、販売業者や飼い主による犬猫の遺棄が社会問題化しており、そのような遺棄は命の軽視にもつながる。そのため、アは重要である(①)。イについて、犬猫シェルターにも収容能力に限界があり、持ち込まれる犬猫の数を抑制しなければ犬猫シェルターを維持できなくなる。同シェルターの運営には公費による助成がされるので、シェルターの公益性は高いといえ、その維持の必要性も高い。そのため、イも重要である(①)。
また、許可要件の一つに販売業者の犬猫飼養施設の状況がある(骨子2条1号)。販売業者が犬猫の販売頭数に応じた飼養施設を有することにより、売れ残った犬猫を販売業者が遺棄することを回避できるので、同号は目的アと適合する。さらに、確かに、犬猫飼養施設にかかる基準は動物愛護法上にも存在している。同号は犬猫の体長・体高に合わせたケージ等につき現行の基準よりも厳しいので過度であるとも思える。しかし、現行の基準によっては販売業者のよる犬猫の遺棄を防ぎきれておらず、より厳しい基準が必要である。また、同号の基準は国際的に認められている基準の範囲内であるから、販売業者に過度な負担を課すともいえず、相当性もある(②)。
次に、同条2号は当該都道府県内の犬猫の需給均衡を許可要件とする。犬猫が売れ残ればこれが遺棄されてしまうから犬猫の供給過剰を防ぐことでその遺棄を防げる。需給均衡の要件については各都道府県が基準を定めるとされているところ、各都道府県内の需給状況は当該都道府県が最もよく把握しており、各都道府県が基準を定めることはアに適合する。これに対して、規制すべきなのは犬猫が売れ残ること自体ではなく、売れ残った犬猫の扱い方の適切性であるとの見解がある。しかし、日本では子犬や子猫の人気が高く、体の大きさがほぼ成体と同じになる生後6ヶ月
を過ぎると値引きをしても売れなくなる。そうすると販売業者は結局犬猫を遺棄せざるを得なくなる。そのため、売れ残り防止のため、需給均衡を許可要件とする必要性がある(②)。
そして、同条3号は、犬猫シェルターの収容要件を許可基準とする。犬猫シェルターは犬猫販売業者からの引き取りを拒否できるから、業者からの持込みによってシェルターが圧迫されることはない。そして、飼い主による持込みが増加しても、それは直接的には販売業者のせいではないから、同号の許可要件はイに適合しないという見解がある。しかし、犬猫販売業者が売れ残りを減らそうとして無理に犬猫を販売することも飼い主による犬猫シェルターへの持込みを増加させる原因になっている。そのため、同号の要件は目的イに適合する。また、確かに、飼い主による持込みについて、飼い主個人の意識改革を図ることで対応可能であるとの見解もあるが、かかる方法には限界がある。そして、犬猫シェルターでの収容頭数が現在地方公共団体で引き取っている頭数を超えないようにするための方策をとってほしいとの要望が多くの都道府県から寄せられている。そのため、同号の要件を設ける必要性がある。さらに犬猫販売免許の発行数限定により新規参入ができなくなるだけでなく、既存の犬猫のペットショップにも犬猫の販売を行えなくなるという不利益が生じる。しかし、犬猫以外の多種多様なペットを飼う者も増え、その割合は50%近くにもなるから、犬猫以外を売る業態によってペット販売業自体は継続することができ、不利益は緩和されている。確かに、ペット飼育者のうち犬猫を飼育する者の割合は合計60%にもなり、上述の通り、犬猫を販売できなければペット販売業の経営自体を断念せざるを得なくなることも予測される。しかし、犬猫販売業の規制により得られる利益が大きく、かかる不利益もやむを得ないので、相当性もある(②)。
2 よって、規制①は正当化され、合憲である。
第2 規制②
1 規制②は犬猫のイラスト、写真及び動画(以下「イラスト等」という)を用いて犬猫の販売に関する広告をする自由(以下「自由2」という)を侵害し違憲ではないか。
(1) 広告は営利的表現であり、自由2は表現の自由(21条1項)ではなく、職業選択の自由の一環として22条1項で保障されるに過ぎないとも思える。しかし、「一切の」との文言から、営利的表現であっても表現の自由により保護され、自由2は21条1項により保障される。
(2) 骨子4条はイラスト等を用いた犬猫販売の広告を禁止しており、自由2が制約されている。
(3) かかる制約は公共の福祉(12条後段、13条後段)のための制約として正当化されるか。
ア イラスト等による広告にもその自由な言論活動を通じて自己の人格を発展させるという自己実現の価値があり、自由2は極めて重要とも思える。しかし、営利的表現には民主政治を発展させるという自己統治の価値は希薄であり、自由2の重要性は低下する。
制約態様について、骨子4条は一律にイラスト等による表現を禁止しており、強度の制約とも思える。しかし、かかる制約はイラスト等を用いるという表現の手段に着目した内容中立規制であるから、強度な制約とまではいえない。
そこで、①目的が重要であり、②手段が目的と実質的関連性を有する場合に上記制約が正当化される。
イ 規制目的は、飼い主による犬猫の遺棄の防止である。上述の通り、かかる目的は重要である(①)。イラスト等による広告は消費者の購買意欲を殊更に刺激するものである。これを目にした者は十分な準備と覚悟のないまま犬猫を購入し、結局これらを遺棄してしまうことがあり、イラスト等による広告の規制は上記目的に適合する。また、確かに、イラスト等の情報それ自体に問題があるわけではないから、これらを規制するのは過度であるとも思える。しかし、文字情報と比べてイラスト等は視覚に訴えることで上述の通り十分な準備と覚悟のない犬猫の購入につながるからこれらを規制する必要がある。また、犬猫販売業者は犬猫販売の際に、購入者に対し、対面で適切な飼育のための情報を提供し、さらに、犬猫の現状を直接見せることが義務付けられる(骨子3条)。これにより安易な犬猫の購入を防げるから上記規制は不要とも思える。しかし、かかる規制は動物愛護管理法によって従来なされていたものであるところ、その規制のもとで犬猫の遺棄が社会問題化したから、かかる制約では不十分であり、規制②が必要といえる。また、イラスト等による広告ができない犬猫販売業者の不利益は大きいが、品種等を文字により広告することは妨げられず、販売業者の不利益は緩和される。そのため相当性もある(②)。
2 よって、規制②は正当化され、合憲である。
以上
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