R5予備論文 民事実務基礎(A評価)


第1 設問1

1 小問(1) 保証契約に基づく保証債務履行請求権

2 小問(2) 被告は、原告に対し、220万円を支払え。

3 小問(3) 

① Xは、令和4年8月17日、Aに対し、本件車両を240万円で売った。

② Xは、Yとの間で、同日、Yが①のAのXに対する売買代金支払債務につき保証する旨の合意をした。

③ ②は本件契約書という書面により行われた。

4 小問(4)

① 下線部の事実は記載不要である。

② 上記の①②③の事実によってXのYに対する240万円全額の請求権の存在が基礎付けられる。これに対して、Yは分割払の約定の存在を①②③と両立し、かつその法律効果の発生を障害する抗弁事実として主張しうる。かかる主張がされて初めて、Xは、Aの期限の利益の喪失事由である、Aが支払を怠った事実としての下線部の事実を、抗弁事実と両立しその法律効果の発生を障害し①②③の法律効果を復活させる再抗弁事実として主張する必要が生じるに過ぎない。

5 小問(5)

 仮差押命令は「強制執行をすることができなくなるおそれ」(民事保全法20条1項)がある場合にすることができる。α銀行では預金債権に対する仮差押えは銀行借入れがあった場合にその期限の利益喪失事由とされている。そのため、仮にYが銀行借入れをしていた場合には、Yの預金債権はα銀行による貸金債権を自動債権とする相殺によって消滅するおそれがあるといえ、預金債権差押えの実効性は低い。そして、自宅不動産には2年前に被担保債権を3000万円とする抵当権が設定されている。Yの自宅不動産の時価が前記被担保債権額を超えている場合には、その超過分が抵当権実行による競売後にYの手元に残り、そこからXは弁済を受けられる。そのため、自宅不動産の時価は「強制執行をすることができなくなるおそれ」の有無に影響を与える。

第2 設問2

1 小問(1)

① 本件車両は保安基準に適合していない

② 本件車両は保安基準に適合している

③ 220万円の支払いを拒絶する

2 小問(2)

保証人は主債務者が取消権行使により免れる限度で保証債務の履行を拒める(民法457条3項)が、これは権利抗弁なので、権利主張の事実として(う)が必要となる。

第3 設問3

1 小問(1)

 ④ 令和4年9月の月末に本件売買契約に基づく代金債務の履行として10万円を支払った。

2 小問(2)

 (ア)はAの本件車両にかかる錯誤が「消滅」し、Aが「取消権を有することを知った」(民法124条1項)事実である。そして、本件車両が保安基準に適合しないことを知りながら代金債務を履行した(イ)の事実は、本件売買契約の黙示の「追認」(同項)である。これにより、Aは取消権を失う(同122条)。したがって、(ア)と(イ)の事実は、Yの抗弁事実と両立しその法律効果の発生を障害し、請求原因事実の法律効果を復活させる再抗弁として機能する。

第4 設問4

1 小問(1)

⑤ Yの実印による

⑥ Yの意思に基づく押印により顕出された

2 小問(2)

(1) 本件契約書のY作成部分の成立の真正

 本件契約書は、その文書の上で本件保証契約締結の意思表示がされている処分証書であるから、その成立の真正が認められれば当然に実質的証拠力も認められ、本件保証契約締結の事実が立証される。

Yは本件契約書のY名義の印影がYの実印によるというYに不利な事実を認めているから、これは真実であると考えられる。印章を重用する本国の風土において自己の印章を他者に預けることは通常ないから、経験則上、上記Y名義の印影はYの意思に基づく押印により顕出したと推認される。そして、「本人…の…押印」とは本人の意思に基づく押印をいうところ、Yの意思に基づく押印があるといえるから、本件契約書の成立の真正が推定される(民事訴訟法228条4項)。

これに対して、Yは、AがYの実印を冒用したとして、上記Y名義の印影がYの意思に基づく押印によることを否認している。しかし、かかるYの主張は認められない。

確かに、類型的に信用性が認められる文書である金銭消費貸借契約書や年金振込通知書によれば、Yは既にAの200万円の借入れの保証人となっており、当時Yは月15万円の年金暮らしで生活に余裕がなかった。そのため、Yが新たに保証契約を締結する本件契約書に押印するはずはなく、AがYの実印を冒用したものとも思える。しかし、YはAの実父であり、その緊密な身分関係からすれば、YがAのため新たに保証契約を結ぶことも不自然でなく、AがYの実印を冒用したということはできない。また、Yの日記には「保証は流石に断る」と記載されているが、日記は信用性の低い報告証書に過ぎず、これを以て実印の冒用を推認することはできない。

さらに、Xが令和4年8月17日に電話でYに本件保証契約の成立を報告した際に、Yは、「Aからも聞いているので問題ない」と応じた。そのため、Yは本件保証契約締結の意思を有しており、実印冒用の事実はない。これに対して、Yは、Xを不動産仲介業者と勘違いして適当に相槌を打ったと説明している。しかし、信用性が認められるAの住民票によれば、AがY宅から引っ越したのは令和4年12月15日であり、その4ヶ月も前の上記電話においてYが上記勘違いをすることは不自然であり、Yの説明は虚偽である。

また、Yは、自己はAのアパートの賃貸借契約の保証人になる際にAにその実印を預け、Aがこれを冒用したと主張するが、これは上記の事実と整合せず、認められない。

したがって、Yの主張は認められず、上述の通り、本件契約書のY作成部分の成立の真正が認められる。

(2) よって、本件保証契約が締結された事実が認められる。

以上

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