R6司法試験 再現答案 民事訴訟法
第1 設問1
1 課題1
(1) 任意的訴訟担当とは、当該訴訟物について自ら訴訟を追行することのできる者から授権を受けて、その者のために当該訴訟物について当事者として訴訟を追行することをいう。
(2) そもそも、弁護士代理の原則(民事訴訟法(以下法名省略)54条1項本文)及び訴訟信託の禁止(信託法10条)の趣旨は、非弁行為により当事者の利益が害されるのを防ぎ、また、訴訟の健全性を確保するという点にある。そこで、明文なき任意的訴訟担当は、①弁護士代理の原則及び訴訟信託の禁止の趣旨を回避潜脱するおそれがなく、②これを認める合理的必要性がある場合に許される。①は、具体的には、ア訴訟担当者に訴訟追行権限を含む包括的管理権が与えられており、イ権利義務主体と同程度以上に権利義務について知識を有していることをいう。
2 課題2
(1) 本件契約がAY間で締結され、死亡したAをXらが相続し、その全員が賃貸人となることとされた。そして、Xらの間で、本件契約の更新、賃料の領収及び受領、本件建物の明渡しに関する訴訟上あるいは訴訟外の業務という、賃貸借契約たる本件契約の関する事務のほとんどをX1が自己の名で行うことが取り決められた。また、X1には本件建物の明渡しに関する訴訟上の権利も与えられた。そのため、X1には訴訟追行権限を含む包括的管理権が与えられている(ア)。また、本件建物の明渡請求権は賃貸人たる地位を承継したXら全員に帰属しているところ、X1はその一員であるだけでなく、自ら本件契約の現状について調査し、賃料未払いの事実を把握している。そうすると、X1は権利帰属主体たるX2、X3と同程度以上に上記権利について知識を有している(イ)。
そのため、①が認められる。
また、確かに、X2、X3は、Yに対して本件建物の明渡しを求めることには賛成しているものの、自らが当事者になることは時間的・経済的負担が大きいことを理由にX1単独で訴訟提起することを望んでいる。そのため、明文なき任意的訴訟担当を認める一応の必要性は認められる。
しかし、Yに対して本件建物の明渡しを求めることは、X1のみが自らの権利を訴訟物として原告として訴えを提起することで実現可能である。また、最判昭和45年の事例では、民法上の組合契約に基づいて結成された共同体を契約当事者とする訴訟が問題となった。かかる共同体を当事者とする契約による権利義務関係は組合員に合有的に帰属する。そのため、かかる権利義務関係を訴訟物として訴えを提起する場合、組合員全員を当事者として初めて当事者適格の認められる固有必要的共同訴訟(40条1項)となる。その場合、各共同訴訟人の訴訟行為の効力が大きく制限され(同項参照)、訴訟活動が煩雑となるので、明文なき任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある。
これに対して、本件建物はXらの共有に属するにとどまる。上述の通り、本件ではX1単独で訴訟追行することが可能である。そのうえ、仮にXら全員が当事者となって共同訴訟を行ったとしても、これは通常共同訴訟になるのであって、共同訴訟人独立の原則(39条)から、上記のような訴訟手続の煩雑さは相当程度軽減される。そうだとすれば、本件で明文なき任意的訴訟担当を認める合理的必要性はない(②不充足)。
(2) よって、X1による明文なき任意的訴訟担当は認められない。
第2 設問2
1 裁判上の自白(179条参照)とは、期日等における、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実を認める旨の弁論としての陳述をいう。
これが成立するための要件について、まず、「事実」とは、当事者意思の尊重及び当事者に対する不意打ち防止という弁論主義の趣旨、機能のためには法律効果の判断に直接必要となる具体的事実たる主要事実に下記の拘束力を生じさせれば足ること、証拠と同様の機能を有する間接事実や補助事実に拘束力を認めると自由心象主義(247条)を害することから、主要事実のみをいうと解される。そして、規範的要件についてはそれを構成する具体的事実に審理が集中するから、かかる具体的事実が主要事実になる。
次に、「自己に不利益な」事実とは、基準としての明確性の観点から、相手方が証明責任を負っている事実をいい、証明責任は当該法律効果の発生を望む者がそれを定める法規の要件事実について負う。
また、当該陳述が、期日等において、弁論としてなされることも要件となる。
2 裁判上の自白の成否
(1) 本件陳述は、第1回弁論準備手続期日という「期日等」において、弁論としてなされた。
(2) Yは、本件陳述において、Yの妻が本件建物において何回か料理教室を無償で開いたという用法遵守義務違反に当たる事実を主張した。これは、用法遵守義務違反に基づくXらの本件契約の解除権の発生を基礎付ける、Xらの証明責任を負う主要事実であって、Yに「不利益な事実」にあたる。
(3) そのため、本件陳述はYによる先行自白であり、Xらはこれを援用しているから、本件陳述につき裁判上の自白が成立する。
3 撤回の可否
(1) 裁判上の自白が成立した事実については審判排除効が生じ(弁論主義第2テーゼ)、これにより不要証効(179条)が生じる。かかる訴訟上の有利な地位に対する相手方の期待を保護するため、信義則上、不可撤回効が生じる(禁反言の原則 2条)。もっとも、相手方のかかる地位に対する期待を保護する必要のない特段の事情のある場合には、例外的に自白の撤回が許されると解する。
(2) Yは上記自白を撤回できないのが原則である。しかし、本件陳述がなされたのは、口頭弁論期日ではなく、第1回弁論準備手続期日である。同期日においては、賃料不払いに基づく無催告解除の可否に関して、信頼関係破壊を基礎付ける事実関係の存否について当事者双方が口頭で自由に議論することが目的とされた。そのため、同期日における陳述に強い拘束力が生じることは予定されていない。また、、本件陳述は、X1夫婦がYの料理教室に参加した際に賃料の話は一切出なかったという、信頼関係破壊がないことを基礎付ける評価障害事実として、抗弁の形で主張されたに過ぎない。そうだとすれば、本件陳述について、用法遵守義務違反の事実にかかる上記訴訟上有利な地位に対するXらの期待を保護する必要はなく、上記特段の事情が認められる。
(3) よって、本件陳述の撤回は許される。
第3 設問3
1 既判力により基準時前の事由に関する主張が遮断される根拠
既判力の正当化根拠は、事実審口頭弁論終結時点までは、当事者は自己に有利な事実の主張や証拠の提出をすることができ、訴訟資料の提出について手続保障が充足しており、後訴においてこれらを主張、提出できないことについて自己責任を問いうるという点にある。そして、既判力という制度を認める趣旨、根拠は、紛争の蒸し返しを防止するという点にある。
2(1) 上記既判力の趣旨、根拠に照らし、当該主張を行うことが前訴にかかる紛争の蒸し返しということができない場合には、当該主張は既判力によって遮断されないと解する。
(2) 前訴では、賃料不払いに基づく本件契約解除が主張されたものの、本件判決がされた。そして、後訴では、本件セミナー開催にかかる用法遵守義務違反に基づく解除が主張される。確かに、賃料不払いも用法遵守義務違反もいずれも本件契約の解除権を基礎付ける事実であるから、後者の主張は前訴にかかる紛争の蒸し返しであるとの見解がありうる。
しかし、賃料不払いと用法遵守義務違反は性質の異なる別個の事実である。そのため、前者及び後者を原因とする本件契約の解除は、本件契約の終了原因としては別個の事由である。そうだとすれば、後訴において後者の主張をすることは、前訴とは別個の主張を行うものといえ、前訴の紛争の蒸し返しには当たらない。
(3) よって、解除権行使の主張は本件判決の既判力により遮断されない。
以上
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