R5予備論文 商法(B評価)
第1 設問1
1 まず、乙社は、本件決議の取消しの訴え(会社法(以下法名省略)831条1項柱書)において、甲社が乙社の議案要領通知請求(305条1項)を無視した点で招集手続の法令違反(831条1項1号)があると主張する。
(1) 乙社の議案要領通知請求の適法性
甲社の「株主」たる乙社は、代表「取締役」Aに対し、本件総会の日の「8週間…前まで」といえる令和5年4月10日にFを新たに取締役に選任する旨の「議案の要領」を本件総会招集通知に「記載」することを「請求」した(305条1項本文)。また、乙社は甲社株式1000株を有するところ、甲社は発行済株式総数1万株、議決権総数1万個で種類株式を発行していないので、乙社は「300個…以上」たる1000個の「議決権」を有する。乙社は上記株式を令和4年6月頃から引き続き有しており、上記請求の「6ヶ月…前から」といえる(同項但書)。したがって、乙社の議案要領通知請求は適法である。
(2) 甲社は乙社提案のFを取締役に選任する旨の議案の要領を本件招集通知に記載しなかったから、305条1項に反する招集手続の法令違反が認められる。
(3) また、議案要領通知請求権は、会社の実質的所有者である株主が会社経営について意見を表明するための手段である上、他の株主が議決権を適切に行使することに資するから重要な株主権といえ、上記違反は「重大」である。そのため、裁量棄却(831条2項)はなされない。
(4) よって、上記主張は本件決議の取消事由として認められる。
2 次に、乙社は、甲社が乙社代理人Eによる本件総会での議決権行使を拒んだことが310条1項に違反し、決議方法の法令違反(831条1項1号)があると主張する。
(1) Aは、株主以外の者による代理出席は認めないとの定款を根拠にEによる議決権の代理行使を拒んでいる。
ア そもそも、310条1項は、①合理的理由があり、かつ②株主の議決権行使の機会を奪わない相当な範囲である限り、議決権行使にかかる代理人の範囲の定款による制限を許容していると解される。
イ 甲社の定款は議決権行使の代理人を株主に制限している。かかる制限により、会社と無関係な者による株主総会のかく乱を防ぐことができるから、上記制限には合理的理由がある(①)。また、株主は他の株主に議決権行使の代理権を与えることでその議決権行使の機会を確保できるので上記制限は相当な範囲内である(②)。
ウ したがって、上記定款の定めは有効であり、上記拒絶が310条1項に反しないとも思える。
(2) しかし、①当該代理人に議決権の代理行使を認めても株主総会かく乱のおそれがなく、②その代理行使を認めなければ株主の議決権行使の機会が奪われる場合には、当該代理人には定款による代理権制限が及ばないと解される。
Eは乙社の従業員である上、乙社取締役Dの実子である。そのため、Eに議決権代理行使を認めても本件総会をかく乱するおそれはなかった(①)。また、Dが乙社を代表して本件総会に出席することはスケジュール上できなかったから、Eに議決権の代理行使を認めなければ乙社の議決権行使の機会が奪われることになったといえる(②)。
したがって、Eに上記定款の定めは及ばない。
(3) 以上より、甲社はEの議決権代理行使を認めるべきであったのにこれを拒んだといえ、その取扱いは310条1項に違反する。
(4) また、議決権の代理行使は、議決権という極めて基本的な株主権の行使の機会を実質化するものであり、これを拒んだ違法は「重大」であって、裁量棄却(831条2項)は認められない。
(5) よって、上記主張も本件決議の取消事由として認められる。
第2 設問2
1 乙社は本件発行の無効の訴え(828条1項2号)において以下の主張をする。
(1) 有利発行の主張
ア 「特に有利な金額」(199条3項)とは、時価を基準とした公正価額よりも低い価額をいう。公正価額とは、資金調達目的を達せられる限度で既存株主にとって最も有利な価額をいう。本件発行の公正払込金額は1株20万円であったのに、実際の払込金額はその半分の1株あたり10万円とされたから、時価を基準とした公正価額よりも低い価額といえ、「特に有利な金額」に当たる。そのため、本件発行を行うには株主総会特別決議が必要であった(201条1項、199条2項、同条3項、309条2項5号)のに、これがなされていない。
イ 上記特別決議が欠けたことは無効事由となるか。
無効事由は法定されていないが、取引の安全のため、重大な法令定款違反に限られる。公開会社では株式の転々流通が予定され取引の安全を図る必要性が高い。また、有利発行による既存株主の損害は、取締役への損害賠償請求(429条1項)により救済可能である。そこで、有利発行における特別決議欠缺は無効事由とならないと解する。したがって、上記主張は認められない。
(2) 不公正発行の主張
ア 「著しく不公正な方法によ」(210条2号)る場合とは、不当な目的達成の手段として新株が発行される場合をいう。そして、被選任者たる取締役が選任者たる株主の構成を操作して自己の会社支配権維持を図ることは機関権限を分配した法の趣旨に反するから、会社支配権維持を主要な目的とする株式発行は、それを正当化する特段の事情のなきかぎり、不当な目的達成の手段として「著しく不公正な方法によ」るといえる。
乙社は甲社株式2400株を有する大株主で、A、Cの取締役再任に反対し対立候補擁立の意思を表明していた。また、甲社には特段の資金需要がなかったのに本件発行がされている。さらに、本件発行後には甲社の長年の取引先の丙社が6000株を有することになり、乙社の持株比率は24%から16%に低下する。以上から、本件発行の主要な目的は甲社取締役の会社支配権維持であると推認され、上記特段の事情もない。したがって、本件発行は「著しく不公正な方法によ」る。
イ もっとも、不公正発行に当たることは会社の内部事情に過ぎないし、株主には差止請求による権利救済の機会があった。また、取引の安全を図る必要もある。そこで、不公正発行に当たることは無効事由でないと解する。したがって、上記主張は認められない。
(3) 通知広告欠缺の主張
ア 本件発行は株主に対する通知(201条3項)、広告(同4項)なくされている。
イ そして、通知広告が要求される趣旨は、株主に対して差止めの機会を与えることにあるところ、通知広告を欠くとかかる趣旨を没却する。そこで、通知広告を欠いた場合は、差止事由不存在を会社が立証しない限り無効事由となると解する。本件では通知広告を欠いており、上述の通り差止事由が存在する。したがって、本件で無効事由がある。
2 よって、上記(3)の主張は認められる。
以上
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?