R5予備論文 倒産法(A評価)

第1 設問1(1)

1 仕入先20社の未払売買代金債権は、令和5年2月末日までに納品した商品に関するものなので、同年3月8日のA社「再生手続開始」よりも「前の原因」に基づき生じた「再生債権」(民事再生法(以下法名省略)84条1項)である。そのため、上記未払売買代金債権について個別的に「弁済」することは許されないのが原則である(85条1項)。

2 もっとも、上記未払売買代金債権は「少額」(85条5項後段)の再生債権として裁判所の「許可」のもと例外的に弁済が許されないか。

(1) まず、A社の負債総額は2億円であるが、その大部分は金融機関3社に対する債務で構成されていると考えられ、仕入先20社の債権額は金融機関の債権額に比してかなり小さいといえるから、「少額」といえる。

(2) 次に、上記未払売買代金債権を早期に弁済しなければA社の「事業の継続に著しい支障を来す」といえるか。

ア 同項後段の趣旨は、再生債権者間の平等(155条1項本文)を害してでも特定の債権者への弁済を認めることで再生債務者の事業を継続させるという点にある。そこで、「事業の継続に著しい支障を来す」とは、再生債権者間の平等を犠牲にしてでも回避しなければならない事業上の支障が生じる場合をいうと解する。

イ 販売商品の仕入先20社は、いずれも他の仕入先を見つけることも可能な取引先であり、代替性は高く、取引継続の必要性は高くない。そのため、上記未払売買代金債権を早期に弁済しなくとも、再生債権者間の平等を犠牲にしてでも回避しなければならない事業上の支障は生じない。したがって、「事業の継続に著しい支障を来す」といえない。

(3) よって、A社は仕入先20社に対し未払売買代金支払うことができない。

第2 設問1(2)

1 クーポン券保有者の権利について

(1) クーポン券は額面1000円で、A社の店舗で金券として使用できる。その法的性質は、A社の店舗で商品を購入等する場合に限って行使できる行使条件付きの金銭債権である。商品等購入時にクーポン券保有者は、その額面の上記金銭債権を行使でき、その結果、事実上、本来の代金額からクーポン券の金額分だけ値引きされたのと同様の結果を得る。

(2) そして、クーポン券は令和5年2月末日までに配布されている。そのため、クーポン券保有者の権利である上記金銭債権は、「再生手続開始前の原因」に基づき生じた再生債権(84条1項)となって、個別的権利行使を原則的に禁止される(85条1項)という取扱いを受ける。

2 もっとも、「再生手続」の「円滑」な「進行」(85条5項前段)のため、例外的にクーポン券の使用を認められないか。

(1) クーポン券保有者の金銭債権は「少額」(同項前段)といえるか。

ア 同項前段の趣旨は、再生債権者間の平等を害してでも円滑な再生手続の進行を図るという点にある。そこで、「少額」かは、債権額自体だけでなく、他の債権者の債権額との大小、債権総額に対する割合等を考慮して判断する。

イ クーポン券の額面は1000円と極めて小さい。また、最も多くのクーポン券を保有する者でもその額面合計は1万円に過ぎない。A社の負債総額は2億円であるところ、これは金融機関3社への債務が大半を占めると考えられるが、クーポン保有者の上記債権額はそれに比して著しく小さい。加えて、保有されているクーポン券の額面総額は100万円であって、これが負債総額2億円に占める割合は0.5%と極めて小さい。また、各クーポン保有者の債権額は、弁済禁止の保全処分の対象外とされた10万円以下の債権である。

ウ 以上より、クーポン券保有者の金銭債権は「少額」といえる。

(2) そして、クーポン券保有者の保護者は、クーポン券の使用に支障が出るのかについて不安があるようであり、複数の学校において保護者からの問い合わせが相次いでいる。そして、クーポン券が使用できない場合には、店舗での混乱も予想された。さらに、クーポン券保有者は300人もの多数にのぼる。そうすると、クーポン券保有者のクーポン券使用を認めることで「再生手続を円滑に進行することができる」。

(3) よって、裁判所の「許可」のもと、A社は保護者に対しクーポン券を使用させることができる。

第3 設問1(3)

1 まず、D社らの未払委託料債権は令和5年2月末日までの納品に関する「再生手続開始前の原因」に基づく再生債権(84条1項)であるから、個別の「弁済」は原則的に禁止される(85条1項)。

2 もっとも、「少額」(85条5項後段)の再生債権として裁判所の「許可」のもと例外的に弁済が許されないか。

(1) 「少額」かはその額だけでなく負債総額に対する割合等を考慮して決する。

 D、E、F社に対する未払委託料は60万円、70万円、80万円と大きくはない額である。また、A社の負債総額は2億円であり、これに比して上記各額は著しく小さい。

 したがって、D社らの未払委託料債権は「少額」である。

(2)  D社らの未払委託料債権を早期に弁済しなければA社の「事業の継続に著しい支障を来す」といえるか。前述の基準により判断する。

 D社らはその技術の高さから早期に代替先を確保することが難しい委託先であり、A社の顧客層維持のため不可欠な取引先である。そして、D社らは約定期限までに未払委託料が支払われなければ新たな取引をしないとの意向を示している。そのため、D社らに未払委託料を支払わなければ、再生債権者間の平等を犠牲にしてでも回避しなければならない事業上の支障が生じるといえ、「事業の継続に著しい支障を来す」といえる。

(3) よって、A社は裁判所の「許可」のもと、D社らに対し未払委託料を支払うことができる。

第4 設問2

1 A社は裁判所の「許可」(42条1項柱書き)のもと、G社に対し事業の全部譲渡(42条1項1号)を行うことができる。事業価値劣化により譲渡代金の低下や弁済率の低下も予想されたから、A社の「事業の再生のために必要」といえ、裁判所の「許可」は得られる。この場合、裁判所は知れている債権者の意見を聞かなければならない(同条2項)。

 また、事業譲渡のためにはA社株主総会の特別決議が必要である(会社法467条1項1号、309条2項14号)が、株式の40%たる40株を有するCが事業譲渡に反対しており、特別決議が得られる見込みがない。そこで、A社は決議による承認に代わる裁判所の「許可」(43条1項本文)を得る必要がある。上述の通り、上記事業譲渡が「事業の継続のために必要」(同項但書)なので、その「許可」は得られる。

 よって、A社は事業譲渡できる。

以上

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