R5予備論文 民法(A評価)

第1 設問1

1 BはAに対して本件請負契約(民法(以下法名省略)632条)に基づく報酬請求として250万円の支払いを求めている。

(1) これに対し、Aは同契約締結時点で本件損傷により甲の修復は不能であったから、同契約は無効であり、250万円の支払い債務を負わないと反論する。

ア 412条の2第2項は、契約に基づく債務が原始的に履行不能であった場合でも、その履行不能に基づく損害賠償請求(415条1項本文)を認めており、法は、かかる場合でも契約が有効であることを前提としている。そこで、債務が原始的に履行不能の場合も契約は有効と解する。

イ したがって、本件請負契約は、甲の修復が原始的に不能であったとしても有効であり、Aの反論は認められない。

(2) さらに、Aは甲の修復債務が履行不能であるから、反対給付としての上記250万円の支払いを拒むと反論する(536条1項)。これに対して、Bは、上記履行不能は「債権者」たるAの「責めに帰すべき事由によ」るから、Aは250万円の支払いを拒めないと再反論しうる。これは認められるか。

ア 「責めに帰すべき事由によ」るといえるかは、 債務の内容、契約締結に至る経緯、当事者の主観、属性等を総合的に考慮して決する。

イ 本件請負契約の債務の内容は、Bが甲の汚損を鑑賞可能な程度に修復することである。そのため、同契約では甲が修復可能であることがその締結の前提となっていた。また、AがBに甲の修復を持ちかけた際、Bは甲の保存状態が悪いことから「考え直した方がよい」と述べている。それにもかかわらず、Aがいくら費用がかかっても修復したいと強く主張したために、同契約が締結されるに至っている。Bは、掛け軸等の修理等を行う専門業者であるから、甲の保管状況等について十分に注意することが求められる。Bは同契約交渉過程において、数回に渡り、甲の状態や保管方法についてAに問い合わせており、甲の保管状況等を十分に確認したといえる。それなのに、Aは甲の状態を確認しないまま、Bの問い合わせに対し「問題ない」と答えるだけであった。同契約を締結するにあたっても、Bは、蓋を開けてみたら甲が修復不能なほどに傷んでいたと言われても知らないとAに念を押している。もっとも、実際には、Aは個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反して甲を保管しており、これにより、同契約締結時点までに甲は原型をとどめないまでに腐敗し、修復不能となった。また、Aの上記虚偽の返答によりBはこれに気づいておらず、Bは甲の状態について如何ともし難かった。

ウ 以上から、甲の修復不能はAの「責めに帰すべき事由によ」るといえ、Bの再反論は認められる。

(3) また、確かに、Bは甲を修復することを免れたが、修復に要する費用一切として40万円を現実に支払い済みであるから、250万円の報酬額から40万円が差し引かれるべきとのAの主張も認められない。

2 よって、Bの上記請求は250万円全額について認められる。

第2 設問2(1)

1 DはCに対し所有権(206条)に基づく返還請求として乙の引き渡しを求めている。Dは乙の所有権を有するか。

(1) DはBから乙を200万円で買っている。もっとも、かかる売買当時の乙の所有者はCであった。また、確かに、BはCから乙をBの名で販売する権限を与えられており(本件委託契約(1))、その販売により乙の所有権はCからBに直ちに移転するものとされていた(本件委託契約(2))。しかし、上記売買に先立って、CがBに乙の返還請求通知を発しこれがBに到達したから、Bの上記販売権限は失われていた(本件委託契約(3))。そのため、上記BD間売買は他人物売買(561条)であり、これによってDが乙の所有権を取得しないのが原則である。

(2) 上記BD間売買によりDは乙を即時取得(192条)しないか。

ア 「平穏」かつ「公然」といえること、Dが「善意」であることが推定され(186条1項)、Dの無過失も推定される(188条)。これを覆す事情はない。DはBD間売買という「取引行為」に基づき「動産」乙の引き渡しを受けた。

イ しかし、占有改定(183条)による引渡しでは「占有を始めた」といえないと解されるところ、BはDに対し、乙は以後DのためBが保管すると告げて占有改定によりDに引き渡したに過ぎず、「占有を始めた」といえない。

ウ したがって、乙の即時取得は認められない。

2 よって、Dは乙の所有権を有さず、上記請求は認められない。

第3 設問2(2)

1  DはCに対し所有権(206条)に基づく返還請求として乙の引き渡しを求めている。Dは乙の所有権を有するか。

(1) Bは乙の販売権限を有しておらず、BD間売買が他人物売買(561条)であって、これによっては Dが乙の所有権を取得しないのが原則であることは上述の通りである。

(2) 112条1項によりBD間売買の効果がCに帰属しDは乙の所有権を取得しないか。

ア CがBに与えたのは、乙をCではなくBの名において販売する権限であって、「代理権」(同項)でないから、同項は直接に適用されない。

イ もっとも、同項の趣旨は他者に代理権を与えたという外観の作出につき帰責性のある本人の犠牲のもとそのような外観を信頼した者の取引の安全を保護する点にあるところ、かかる趣旨は本人が他者に処分権限を授与した場合にも妥当する。そこで、かかる場合には同項が類推適用されると解する。

 上述の通り、Cは「他人」BにBの名で乙を販売する処分権限を「与えた」。そして、CがBに乙の返還請求通知を発しこれがBに到達したから、Bの処分権限は「消滅」した。その「後」、同処分権限の「範囲内」でBは乙をDに売った。同売買当時、Dは、Bが上記処分権限を有すると信じており、善意といえる(112条1項本文類推適用)。また、BはDに本件委託契約の契約書を示し、乙の処分権限を有する旨説明しているから、上記信頼についてDに「過失」(同項但書類推適用)はない。

ウ したがって、Dは乙の所有権を取得する。

(3) また、乙はCが占有している。

2 よって、上記請求は認められる。

以上

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