R6司法試験 再現答案 倒産法


第1問
第1 設問1
1 A社は代表取締役Bに対し、その弟への独断による1000万円の貸付及びそれにかかる借入金の返済見込みがないことについて、任務懈怠による損害賠償請求権(会社法423条1項)を有する。同権利は「破産手続開始の時に」A社が有したものであり「破産財団」を構成する(破産法(以下法名省略)34条1項)。そのため、「破産管財人」Dは、これについて「原告」となってBに対して訴訟上請求しうる(80条)。
2 「法人」であるA社について「破産手続開始の決定」があり、Bの有するA社株式は経済上無価値になっているうえ、Bは上記請求を逃れるために財産の隠匿等を行う恐れがあるので、Bの財産を保全する「必要がある」(177条1項)。そこで、Dは、A社「取締役」たるBに対する上記のその「責任に基づく損害賠償請求権」について、Bの財産に対する「保全処分」の「申立て」を行う。DはBがA社からの報酬の振込先口座をE銀行の預金口座と指定していたことを把握しており、同預金に対する保全処分は実効性があると考えられる。
 かかる保全処分の制度趣旨は、法人が破産するに至った場合、その役員には会社の経営に関して不適切な行為を行い、それにつき法人が役員に対する損害賠償請求権を有することが多いところ、役員が責任逃れのために財産を隠匿等する恐れがあり、これを防いで同請求権の実現を確保するという点にある。
3 また、Dは、上記Bに対する損害賠償請求権について、「役員責任査定決定」の「申立て」(178条1項)を行う。そして、同決定について1月以内に異議の訴え(180条1項)が提起されないか、その訴えが却下された場合には、同決定に「給付を命ずる確定判決と同一の効力」としての執行力が生じる(181条)から、同決定を債務名義として上記請求権についてBに対して強制執行を行う。
 かかる制度の趣旨は、破産手続は早期の終結が期待されるところ、破産手続外の民事訴訟手続きを経由せずに、破産手続上で役員に対する損害賠償請求権の存在を確定し、速やかにその強制執行を完了させ、破産手続の迅速な終結を図るという点にある。
第2 設問2
1 「破産管財人」Dは、Bの財産の価額評定において、Bを立ち合わせることができる(153条1項)
2 裁判所は、Dの作成したBの財産目録の提出(同条2項)をDに求め、さらに、Dに対し、「破産者及び破産財団に関する経過及び現状」(157条1項2号)を記載した報告書の提出(同項柱書)を求めることができる。
3 「破産者」(40条1項1号)たるBは、「破産管財人」Dに対して破産手続上「必要」な「説明」を行う義務を負う(同項柱書本文)。DのもとにはBが財産の隠匿をし、また、多額の遊興費を支出しているとの情報が入っていきているので、DはBに対し、それらの事実の有無を含む、その資産状況等についての説明を「請求」することができる。
4 「破産者」Bはその所有する現金等の重要財産開示義務を裁判所に対し負っており(41条)、裁判所は、Bの有する重要財産を記載した書面の提出をBに求めることができる。これにBが応じない場合、裁判所は、「必要」性を認め、Bの引致を命じ(38条1項)、上記書面の提出を求めることができる。
第3 設問3
1 ①の場合
(1) Dは本件事業譲渡について161条1項に基づいて否認権を行使することができるか。
ア A社は本件事業譲渡において、その「相手方」E社から本件事業譲渡の対象となった4店舗の事業価値である4000万円という「相当の対価」を取得している(同項柱書)。
イ 本件の4店舗は事業目的で構成された財産の集合体であり、直ちに換価、隠匿することが困難な財産である。一方で、その対価たる4000万円は流通性の極めて高いといえる現金であって、その隠匿や無償の供与は容易である。そのため、本件事業譲渡は、「財産の種類の変更により」、破産者による「隠匿等の処分」をするおそれを現に生じさせる(同項1号)。
ウ 法人の「意思」はその代表取締役の意思を基準に判断すべきと解する。
  本件事業譲渡の際、A社はFから5000万円を借り入れており、その返済期限が到来していた。同社代表取締役Bは、上記代金4000万円を、これをE社から受領した同日において同借入れへの弁済としてFに支払っている。その上、4000万円という金額は5000万円の借入債務を大きく減少させるのに資する額である。そうすると、Bは本件事業譲渡当時、「対価」たる「金銭」4000万円をFへの弁済という「隠匿等の処分」をする「意思」を有していたと考えられる。
 そのため、かかる「意思」がA社に認められる(同項2号)。
エ Fは法人たるA社の「取締役」(同条2項)であるから「相手方」FはA社の上記「意思」を有することを「知っていた」と推定され、これを覆す事情はない。
(2) よって、Dの上記否認は認められる。
2 ②の場合
(1) Dは本件事業譲渡について160条1項1号に基づき否認権を行使できるか。
ア 本件事業譲渡は4000万円相当の4店舗をその価値よりも著しく低い1000万円で譲渡するものであり、A社はこれにより破産債権者を害することを「知って」いた(同号本文)といえる。そして、これにより利益を受けたG社は、本件事業譲渡に際し、A社が債務超過の状態にあり資金繰りに窮していること、及び、他の店舗は閉店してA社が事業を停止することの説明を同社から受けていたから、破産債権者を害することを知っていた(同号但書)といえる。したがって、上記否認は認められるとも思える。
イ もっとも、同号の趣旨は、破産者の行為が破産債権者を害する(有害性)場合にこれを否認して破産債権者を保護する点にある。そこで、有害性を欠く行為は同号によって否認することはできないと解する。
 確かに、上述の通り、本件事業譲渡の対価は1000万円であり、上記4店舗の相当額より3000万円少ない。しかし、本件事業譲渡に際しては、G社はA社のHに対する借入金債務3000万円について債務引受けをしている。そして、上記代金は同債務引受けが行われることに対応して、同債務額を4000万円から控除して定められたものである。そうだとすれば、本件事業譲渡と上記債務引受けは密接に関連する一体的行為であり、両者を全体としてみれば、A社の責任財産の減少はなく、有害性がない。
(2) よって、Dの上記否認は認められない。

第2問
第1 設問1
1 小問(1)
(1) 再生計画案の可決要件は、「議決権者…の過半数の同意」(頭数要件 民事再生法(以下法名省略)172条の3第1項1号)及び「議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意」(議決権額要件 同項2号)の両方(同項柱書)の充足である
(2) かかる要件を要求する趣旨は、多数破産債権者により少数破産債権者が害されるのを防ぐ点にある。
2 小問(2)
(1) 売掛金500万円及び再生手続開始の前日までの遅延損害金10万円は、87条1項1ないし3号に掲げるもの以外の債権として、その債権額合計510万円が議決権額として定められる(同項4号)。
(2) 500万円に対する再生手続開始後から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金(84条2項2号)については、「再生債務者」A社に対して行うことがある「将来の請求権」として、「再生手続開始の時におけるその評価額」が議決権額として定められる。
3 小問(3)
(1) 海外ワイナリーのCは「外国法人」であるが、本件「再生手続」において日本法人と同一の地位に立つ(3条)。
(2) そして、Cの売掛金はユーロという「外国の通貨」(87条1項3号ニ)をもって定められているので、「再生開始手続開始の時」の1ユーロ140円のレートに基づく「評価額」である2億8000万円が議決権額として定められる。
4 小問(4)
(1) 再生債権の「届出」がなかった800人については、再生手続に参加することができず(94条1
項)、再生計画案の決議においてその議決権を行使することができない(171条1項2号参照)。
(2) 再生債権の届出がなかった800人の再生債権のうち、799人のそれについては、A社がこれらを再生債権として自認する旨を認否書に記載している(101条3項)。かかる799人の権利については、再生計画認可決定の確定によって、再生計画の定めに従い変更される(179条1項)。
 認否書への記載のないDの再生債権については免責される(178条1項)とも思えるが、同債権はA社がその存在を知りつつそれを自認する旨の認否書への記載をしなかったもの(181条1項3号)であるから、これも再生計画の定めに従い変更される(同項柱書)。
第2 設問2
1 小問(1)
(1) Eは、A社を相手方として、調査期間の末日から1月以内に(105条2項)、自己の届出再生債権1200万円について裁判所に対し、「査定の申立て」(105条1項本文)をする必要がある。
(2) Eは、前記査定の申立てにかかる裁判に不服がある場合は、その送達を受けた日から1月以内に「異議の訴え」(106条1項)を提起する。
2 小問(2)
(1) 違約金条項は、その内容が著しく不合理であれば無効となる。
   確かに、本件違約金条項による違約金額は1200万円と高額である。また、Eの生産する野菜は容易に他の取引先に販売できるから本件売買契約の即時解除によってもEに損害は発生しない見込みである。しかし、本件違約金条項も本件売買契約の当事者間のリスク配分として(途中答案)

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