R6司法試験 再現答案 行政法

第1 設問1(1)
1 本件事業計画変更認可は「処分」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)3条2項)に当たるか。
(1) 「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体の行う行為のうち(①公権力性)、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの(②法効果性)をいう。
(2) まず、本件事業計画変更認可はQ県知事が法38条1項を根拠としてその優越的地位に基づき一方的に行うものといえ公権力性が認められる(①)。
 次に、本件事業計画変更認可にかかる公告がされた後には、施行地区内の宅地所有者は、当該変更後の本件事業の施行の障害となるおそれのある土地の形質の変更等を行うのにR市長の許可が必要となる。そのため、本件事業計画変更認可がされることにより、施行地区内の宅地所有者にはその宅地の使用収益権について上記の新たな制約が生じるという法的効果が生じる。
 さらに、第一種市街地再開発事業においては、施行地区内の宅地所有者にはそれぞれの所有者の有する宅地の価額の割合に応じて再開発ビルの敷地の共有持分権が与えられ、当該敷地への地上権設定に対する補償として再開発ビルの区分所有権が与えられる。そうすると、本件事業計画変更認可によって、本件事業にかかる施行区域にC地区が加わることで、B地区内の宅地の所有権者が有する宅地の価額割合に変更が生じる。そのため、本件事業計画変更認可によって、B地区内の宅地所有権者の権利床を配分されうる権利について、配分される権利床の大きさの増減という点で変更が生じるという法的効果が生じる。
 したがって、法効果性も認められる(②)。
2 よって、本件事業計画変更認可は「処分」にあたる。
第2 設問1(2)
1 Dは、Q県知事の、本件都市計画変更が都市計画法13条1項13号の要件を満たすと判断したことに裁量の逸脱濫用(行訴法30条)があり、本件事業計画変更認可は違法であるとして、以下の通り主張する。
(1) 都市計画法13条1項13号は「必要がある」という抽象的な文言を使用している。また、市街地開発事業は当該地域に精通したQ県知事の都市区域の利用状況等諸般の事情を総合的に考慮してする専門的政策的判断によるべきである。そうすると、同号の要件についてQ県知事に要件裁量が認められる。
(2) そして、行政庁の判断が①重要な事実の基礎を欠くか又は②社会通念上著しく妥当を欠く場合には裁量の逸脱濫用が認められる。
(3) 上記要件の判断においては、土地の立地関係や利用状況等を考慮すべきである。
 本件事業の施行区域に編入されたC地区は、B地区からみて河川を越えた対岸にあり、両土地には土地としての連続性が欠けている。そのため、両者を一体的に再開発することは困難であるのに、これを考慮していない点で考慮不尽がある。
 また、C地区は、河川沿いの細長い形状の空き地であり、地区周辺の人通りも少なかった。さらに、C地区周辺からB地区側に橋がかかっていないためにC地区にB地区から人が流入することは期待できず、A駅方面にはかなりの遠回りをしなければならない状況であった。そのため、C地区は土地としての利便性が低く、市民による利用も盛んでない。しかも、B地区は約2万平方メートルであるのに対し、C地区はその10分の1の2千平方メートルにすぎない。これらを考慮していない点でも考慮不尽がある。
 さらに、C地区内の宅地を全て所有するEは、同土地の活用に長年苦慮しており、R市長やB地区組合の理事らに対し、C地区の本件事業の施行区域に編入するよう働きかけを行っていた。Eの働きかけはC地区をB地区と一体的に開発する必要性と無関係であるのにこれを考慮した点で他事考慮がある。
(4) したがって、②が認められ、本件事業計画変更認可は違法である。
2 Dは、本件都市計画変更は法3条4号の要件を充足しないから、本件事業計画変更認可は違法であると主張する。
(1) 事業計画では設計の概要が定められ、これは設計説明書及び設計図を作成して定められる。前者には、再開発ビルの概要等が記載され、後者は、再開発ビルの各階の柱等の位置を示す平面図等から構成される。また、第一種市街地再開発事業においては、施行地区内に再開発ビルが建設されることを前提に権利変換が予定されている。そこで、「土地の高度利用」(同号)とは、再開発ビルおよびそれに付随して設置される公共施設のための土地の利用をいうと解すべきである。
 C地区は、公共施設である公園とするとされている。そして、C地区は前記の通り、B地区の河川を挟んで対岸にあり、両地区に一体性はない。そうすると、C地区の公園は再開発ビルに付随して設置される公共施設ということはできず、「土地の高度利用」は認められない。
(2) したがって、本件事業計画変更認可は違法である。
第3 設問2
1 Dは、本件取消訴訟において、本件事業計画変更認可の違法性を主張することができるか。いわゆる違法性の承継が問題となる。
(1) 違法性の承継は認められないのが原則であるが、①先行処分と後行処分とが連続した一連の手続きを構成し、一定の法効果の発生を目指すものであり、②先行処分の段階でその違法を争うだけの手続保障が与えられていなかった場合には、違法性の承継が例外的に認められる。②は法の仕組みから客観的に判断する。
(2) 本件事業計画変更認可がされると、それにかかる施行地区について権利変換計画が立てられ、これが認可されるとこれにしたがって本件権利変換処分がされる。そして、権利変換がされて初めて、土地の明渡しを経て実際の工事が着手される。そうすると、本件事業計画変更認可と本件権利変換処分は、本件事業の完了という同一目的の達成のために行われ、両者が相結合して初めてその効果を発揮するものといえ、①が認められる。
 また、確かに、本件事業計画変更認可がされると、これについて公告され(法38条2項・19条1項)、施行地区に関して生じた変更の内容(法施行規則11条3項2号)及び権利変更を希望しない旨の申出をすることができる期限(同項5号)が周知される。これにより、本件事業の施行地区内の宅地所有権者は、施行地区の範囲に変更が生じたことを知ることができ、本件事業計画変更認可の違法を争うことができるとも思える。しかし、本件都市計画変更は、「軽微な変更」にあたり、上記公告がなされない(法38条2項括弧書き)ので、施行地区の範囲の変更を知り得ず、上記違法を争うだけの手続保障が充足していたといえない(②)。
2 よって、Dは、本件取消訴訟において、本件事業計画変更認可の違法性を主張することができる。
                                         以上

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