R6司法試験 再現答案 商法

第1 設問1小問1
1 弁護士は、以下のように回答すべきである。
2 Dは、会社法(以下法名省略)385条1項に基づき、本件臨時株主総会1の開催の差止請求をするという手段をとることが考えられる。
(1) 本件臨時株主総会1の開催には「法令…違反」(同項)がある。
(2) 本件各議題の内容は、甲社取締役3名及び監査役3名の解任と新たな甲社取締役3名及び監査役3名の選任である。会社役員は会社の運営に直接に関わる重要な役職者であるから、その全員を入れ替えることは、会社運営に対して重大な影響を生じさせる。そうすると、本件臨時株主総会1の開催によって、甲社に「著しい損害が生ずるおそれ」があると判断される可能性が高い。
(3) もっとも、同項は行為主体を「取締役」に限定しているところ、本件臨時株主総会1の開催は甲社株主の乙社が行おうとしており、同項を直接適用することはできない。
3 本件に同項の類推適用が認められるか。
(1) 同項の趣旨は、会社経営は取締役の業務執行に依存しているところ、取締役が適切性を欠く行為を行った場合には会社に損害が生じうることから、監査役の差止めによる取締役の行為統制を図り、上記損害が生じるのを防ぐという点にある。そして、本来取締役が行うべき行為を株主が取締役に代わって適法に行う場合には、その行為は取締役の行為と同視することができ、その行為の統制を図るべき上記趣旨が妥当する。そこで、かかる場合には同項を類推適用することができると解する。
(2) 株主総会の招集は本来取締役が行うべき行為である(296条3項)が、本件臨時株主総会1の招集は、甲社取締役に代わって株主たる乙社が行っている。乙社は、甲社の「総株主の議決権の100分の3…以上」たる20%の議決権を「6ヶ月…前から」引き続き有する株主である。乙社は甲社取締役に対して、本件各議題を「目的」とする株主総会の招集を請求した(297条1項)。しかし、甲社は株主総会の招集通知を発しなかったから、「遅滞なく招集の手続が行われな」かった(同条4項1号)といえ、そのために、乙社は、「裁判所の許可」(同項柱書き)を得て本件臨時株主総会1の招集を自ら行ったものである。そのため、かかる招集は適法である。
(3) したがって、乙社の行為は甲社取締役の行為と同視され、385条1項の類推適用を受ける。
4 よって、Dは、上記差止という手段を採りうる。
第2 設問1小問2
1 Eは、本件臨時株主総会1の招集通知に同封された本件書面の内容が120条1項に反し、招集手続に法令違反(831条1項1号)があると主張する。
(1) 本件書面には、「乙社提案の各議案のいずれにも賛成していただいた方には、後日、1000円相当の商品券を郵送にて贈呈させていただきます」とあり、議決権行使という「株主の権利…の行使に関し」、上記商品券という「財産上の利益の供与」を記載している。
(2) しかし、本件書面を招集通知に同封したのは甲社ではなく、その株主である乙社であるから、同項は直接適用されない。同項の類推適用は認められるか。
ア 利益供与の禁止を定める同項の趣旨は、企業経営の健全性確保及び会社財産の浪費防止である。そして、会社ではなく株主が利益供与を行う場合であっても、当該株主を会社と同視できる場合には、上記趣旨が妥当する。そこで、株主の行う行為の内容及び株主の会社に与える影響力の大きさ等を考慮して株主と会社を同視できる場合には、同項が類推適用されると解する。
イ 乙社は、上述の通り、本来甲社取締役の行うべき本件臨時株主総会1の招集を自ら適法に行っている。さらに、乙社は、甲社の発行済株式総数の20%を保有する甲社の筆頭株主であり、甲社に対して大きな影響力を有していた。そうすると、乙社は甲社と同視することができ、同項が本件に類推適用される。したがって、上記主張は認められるとも思える。
(3) もっとも、例外的に同項に反しないといえないか。
ア いわゆる委任状勧誘の事例において、①利益供与の目的が株主の議決権行使に不当な影響を与えない正当なものであり、②供与される利益の額が相当であって、③供与される利益の総額が相当である場合には、同項に反しないとの見解がある。もっとも、利益の供与主体が会社ではなく株主である場合には、利益供与により会社財産が減少することはないから、上記の同項の趣旨のうち、会社財産の浪費防止は妥当しない。そこで、①及び②が満たされる場合には、例外的に同項に反しないと解する。
イ 本件書面で議決権行使に対する対価として示された利益は、1000円相当の商品券である。1000円という金額は高額ということはできず、その額は相当である(②)。また、確かに、乙社は、本件書面に「甲社の改革の実現に御協力をお願い申し上げます」と記載している。そのため、上記利益供与の目的は甲社の立て直しを図ることが含まれている。しかし、本件各議題は、上述の通り、甲社の取締役及び監査役を全て入れ替えるという内容であって、甲社の運営に著しい変更をもたらすものである。そして、乙社は甲社株主に対し全ての議題について同封した議決権行使書面の「賛」の欄に◯印を付けるよう求めている。そのため、乙社には、利益供与により甲社株主の議決権行使をコントロールして甲社役員の入替えを図るという、正当でない目的を有していた(①不充足)。
ウ したがって、本件臨時株主総会1の招集手続に法令違反がある(120条1項類推適用)。
(4) 上記違法は、企業経営の健全性を失わせるもので「重大」である。
 また、本件臨時株主総会1では、出席した株主の議決権の数は例年の定時株主総会よりも30%も増加し、議案への賛成割合も例年の可決された議案への賛成割合よりも高かった。甲社においては、過去に議決権の行使やその内容を条件に株主等により商品券等が交付されたことはなかったから、乙社の利益供与によって、上記出席株主の議決権数の増加等が実現したといえる。そのため、上記違法が「決議に影響を及ぼさない」といえない。
 したがって、裁量棄却(830条2項)もされない。
2 よって、Eの主張は認められる。
第3 設問2
1 丙社は株式併合無効の訴えを提起する。
(1) 株式併合の無効事由は法定されていない。しかし、法的安定性の観点から無効事由は重大な瑕疵に限られる。株式併合を行うには特別決議を行う必要があり、その趣旨は、株式併合は端数株主が生じるおそれがあるため慎重に行うという点にある。そのため、特別決議を欠くことは重大な瑕疵である。また、株式併合にかかる特別決議の取消しは結局株式併合の効力を争うためのものであるから、これは株式併合無効の訴えで主張すべきである。そこで、上記特別決議に取消事由があることは重大な瑕疵として無効事由になると解する。
(2) 本件株式併合は300株を1株とするものであり、これにより、甲社株式300株を有するAのみが甲社株式を1株有し、他の株主は端数株主となる。そうすると、Aは、本件決議2の成立により、他の株主とは共通しない特殊な利益を得るといえ、特別利害関係株主(831条1項3号)にあたる。Aは甲社株式600株のうち半分に当たる300株を有していたから、Aの議決権行使「によって」本件決議2が成立した。
 また、会社支配権維持を主要な目的とする株式併合を行う決議は、株主の利益保護の観点からこれを正当化する特段の事情のない限り「著しく不当な決議」に当たる。
 AらとGは、甲社と丁社の業務提携について意見を対立させていた。さらに、本件計画の内容は、本件株式併合によりAのみを甲社の株主として残し、他の株主を端数株主とすることでキャッシュアウトした上で、本件株式分割及びB、Cに対する第三者割当てをすることで、A、B、Cがそれぞれ200株、100株、100株を有し、以前の株主構成から弊社のみを排除した状態にするというものである。また、Aらは、弊社を締め出すべきと考えていた。そうすると、本件株式併合は、Aらの会社支配権維持を主要な目的とするものといえる。
 確かに、端数株式については公正な価格により買い取られている。しかし、Gの案とAらの案は、甲社の企業価値の点では客観的に見てその優劣について見解の分かれる微妙なものであった。そのため、上記特段の事情は認められず、「著しく不当な決議」といえる。
2 よって、決議取消事由が認められるので、丙社の主張は認められる。
                                         以上

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