R5予備論文 刑法(A評価)


第1 設問1

1 Xのいる小屋の出入口扉を外側からロープで縛った行為に監禁罪(刑法(以下法名省略)220条後段)が成立しないか。

(1) 「監禁」とは、人の身体を間接的場所的に拘束してその身体活動の自由を奪うことをいう。上記小屋は木造平屋建てで、窓はなく、出入口は上記扉1箇所のみであったから、上記行為により、Xは上記小屋から脱出することができなくなった。そのため、上記行為は、「人」たるXの身体を間接的場所的に拘束してその身体活動の自由を奪う行為といえ、「監禁」といえる。

(2) したがって、上記行為に監禁罪が成立しそうである。

2 もっとも、上記行為時点でXは熟睡しており、甲が上記ロープを解くまでの間、一度も目を覚ましていないので、上記行為は「監禁」にあたらないとの主張がありうる。身体拘束の認識の要否が問題となる。

(1) 監禁罪の保護法益は、可能的自由、すなわち行動したい時に行動できる自由である。そして、被害者に身体拘束の認識がない場合であっても、かかる自由を奪うことができる。そのため、かかる場合であっても、人の身体活動の自由を奪うことができ、これを奪う行為は「監禁」にあたると解する。

(2) したがって、上述の通りXが熟睡しておりその身体が拘束されたことを認識していなかったとしても、上記行為は「監禁」にあたる。

(3) よって、上記主張は認められず、1の通り、上記行為に監禁罪が成立する。

第2 設問2

1 Xの上着からその携帯電話機を取り出し自分のリュックサックに入れた行為に窃盗罪(235条)が成立するか。

(1) 上記行為は、「他人の財物」たるXの携帯電話機をXの意思に反して自己の占有下に移転する行為であり、「窃取」といえる。

(2) 甲はXの携帯電話機を捨てる目的を有しているが窃盗罪が成立するか。

ア 不可罰的な使用窃盗や毀棄罪と窃盗罪の区別のため、窃盗罪の成立には不法領得の意思が必要である。その内容は、①権利者排除意思および②利用処分意思である。

イ 上記携帯電話機の占有移転は通常Xは許容しないものであるので①が認められる。また、確かに、Xは同携帯電話機を捨てる目的であり、②が認められないとも思える。しかし、甲は、Xの死体から遠く離れた場所にその携帯電話機を捨てておけば、そのGPS機能により発信される位置情報をXの親族等が取得してもXの死体の発見を困難にでき、その上、Xが滑落したと装う犯跡隠蔽に使えると考えている。そのため、Xの携帯電話機から生じる上記の効用を享受する意思があり、②も認められる。

ウ したがって、不法領得の意思がある。

(3) よって、上記行為に窃盗罪が成立する。

2 Xの首を両手で締め付けた行為に殺人罪(199条)が成立するか。

(1) 首という呼吸を司る身体の部位を締め付ける上記行為はXの窒息死という結果発生の現実的危険性を有する殺人罪の実行行為である。Xは死亡している。

(2) Xは上記行為自体によっては死亡しておらず、崖下への落下により死亡している。因果関係はあるか。

ア 因果関係は①条件関係を前提に②行為に含まれる危険が結果へと現実化した場合に認められる。②は、行為後の全ての介在事情を基礎として、その結果に対する因果的寄与度および異常性を考慮して判断する。

イ 上記行為がなければXは死亡しなかったから条件関係がある(①)。また、確かに、Xは上記行為自体によっては死亡していない。その後に甲がXを崖下に落とすという介在事情が存在し、これが頭部外傷という直接の死因を形成した。そのため、その結果に対する因果的寄与度は大きい。しかし、殺人行為を行った者が証拠隠滅目的で被害者を崖下に落とすことも通常考えられるから、上記介在事情の異常性は低く、上記行為にはXが崖下への落下により死亡する危険が含まれていたといえる。そのため、上記行為の危険が結果へと現実化したといえる(②)。

ウ したがって、因果関係も認められる。

(3) 故意(38条1項)は、行為者の主観と客観が同一構成要件の範囲内で符合する限り、規範の直面があり、これが認められる。甲は上記行為によりXが窒息死することを認識していたが、上記客観とは因果関係が認められる点で同一構成要件の範囲内で符合しており故意が認められる。

(4) よって、上記行為に殺人罪が成立する。

3 Xを崖下に落とした行為によりXは死亡しているから上記行為は殺人罪(199条)の客観的構成要件に該当する。しかし、甲はXがすでに死亡していると思い込んでおり死体遺棄罪(190条)の故意である。そして、両罪は、対象が生きた人か死体か、保護法益が人の生命か国民の宗教感情かという点で異なり構成要件の重なり合いがない。したがって、甲に殺人罪の故意がなく、上記行為に殺人罪が成立しない。

4 もっとも、甲にはXが既に死亡していると軽信した点で「過失」があり、これ「により」Xが「死亡」しているから、上記行為に過失致死罪(210条)が成立する。

5 Xの首を絞めた上記行為に強盗殺人罪(240条後段)が成立するか。

(1) 上記行為はXの反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であり「暴行」(236条1項)といえるとも思える。しかし、「暴行」とは財物奪取に向けられた暴行をいい、暴行後に奪取意思を生じた場合には、新たな財物奪取に向けた暴行がない限り「暴行」は認められない。甲は、上記行為後に3万円の奪取意思を生じている。そして、その後Xに対する新たな暴行はない。そのため、「暴行」は認められない。

(2) 以上より、甲は「強盗」(240条後段)にあたらず、上記行為に強盗殺人罪は成立しない。

6 Xの財布から3万円を抜き取った行為に窃盗罪(235条)が成立するか。

(1) 上記行為時Xは生きていたから、甲は、同3万円という「他人の財物」をXの意思に反して自己の占有下に移転して「窃取」した。

(2) 甲はXが死亡していると誤信していたが、同3万円の占有移転を認識し故意(38条1項)があったといえるか。

ア ①被害者を死亡させた犯人との関係では②その死亡との時間的場所的近接性が認められる限り、その生前の占有がなお刑法上保護に値し、財物の占有移転が認められる。

イ 甲はXが既に死亡したと誤信しており、自己がXを殺した犯人であると認識していた(①)。また、上記行為は、甲がXを殺したと認識していた時点から5分しか経っていない時点において、小屋というX殺害行為と同一の場所で行われた。そのため、甲の誤信したXの死亡と上記行為は時間的場所的近接性がある(②)。

ウ したがって、甲は同3万円にかかるXの生前の占有の移転を認識しており故意が認められる。

(3) 不法領得の意思もある。

(4) よって、上記行為に窃盗罪が成立する。

7 Xの携帯電話機を捨てた行為は、その効用を侵害する行為として「損壊」(261条)にあたる。しかし、同行為による所有権侵害は窃盗罪の成立により評価し尽くされており、上記行為は不可罰的事後行為であるといえ、器物損壊罪(同条)は成立しない。

8 よって、窃盗罪、殺人罪、過失致死罪、窃盗罪が成立し、これらは併合罪(45条前段)となり、甲はその罪責を負う。

以上

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