R5予備論文 行政法(A評価)


第1 設問1(1)

1 Cは本件許可の名宛人ではないが、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条1項)として本件取消訴訟の原告適格を有するか。同条2項に沿って検討する。

(1) 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのあるものをいう。そして、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益は法律上保護された利益に当たる。

(2) 本件許可によりDがCからの乗換客を獲得しつつあり、それによりCの売り上げは減少しているから、Cの主張する利益は経営上の利益を害されない利益である。本件許可の根拠法規は法7条1項である。法解釈の指針を示す目的規定たる法1条は、生活環境の保全および公衆衛生の向上を挙げるにとどまり、廃棄物処理事業者の経営上の利益に言及していない。法6条2項は一般廃棄物処理計画の記載事項として一般廃棄物の発生量等の見込み(同1号)や一般廃棄物排出抑制のための方策(同2号)を挙げるが、上記経営上の利益に関する記載事項を定めていない。同6条の2第1項も、生活環境の保全上の支障に配慮するだけである。さらに、7条5項3号の委任により許可(7条1項)の要件を定める法施行規則2条の2も、生活環境保全および公衆衛生向上の観点から処理事業者の施設(同1号)や能力(同2号)について定める一方、経営上の利益保護のための要件を定めていない。また、確かに、既存の一般廃棄物収集運搬業者によって適正な収集運搬がされていることを踏まえて一般廃棄物処理計画が策定されている場合には新規の同事業許可申請を7条5項2号の要件不充足として不許可とすることが適法とされている。しかし、かかる許可制度の運用目的は、事業者間の過当競争により経営状況が悪化し、それにより業務に支障が生じることを回避することで、生活環境や公衆衛生が悪化することを防ぐ点にある。そうすると、かかる運用は直接に事業者の経営上の利益の保護を目的とするものではないといえる。そのため、かかる運用を以て法が上記利益を保護するものとはいえない。以上からすると、法7条1項は経営上の利益を害されない利益を保護する趣旨を含まない。

2 よって、Cは「法律上の利益を有する者」でなく原告適格を有しない。

第2 設問1(2)

1 Cは、「処分…の取消しによって回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項括弧書き)があり本件取消訴訟の訴えの利益が認められるとして、以下のように主張する。

(1) 訴えの利益とは、当該処分を取り消す実際上の必要性をいい、その有無は当該処分にその取消しにより除去すべき法的効果が残存するか、取消判決により回復すべき法的利益が存在するかにより決する。

(2) 確かに、本件取消訴訟継続中に令和4年3月31日が経過し、本件許可の有効期間たる2年は満了した。しかし、同年4月1日付けで本件許可が更新されている。更新処分(法7条2項)は、許可処分(7条1項)が有効に存在したことを前提とする処分であるから、本件許可が取り消された場合、本件許可の更新処分はその前提を欠き、違法となる。そうすると、上記期間の満了後も、本件許可には本件許可の更新処分を適法ならしめるという法的効果が残存しているといえる。

また、確かに、本件許可の更新処分は実質的には新たな許可処分(7条1項)であり、許可要件(同条5項各号)を充足する限り、本件許可の取消しの有無に関わらず適法であるとも思える。しかし、法7条2項に基づく政令は許可の有効期間を2年と定めているのに対し、許可の更新の期間は1年を下らない期間とされている。両者の有効期間が異なる以上、本件許可の更新処分が実質的には新たな許可処分であるとはいえない。そのため、上記の通り本件許可にその取消しにより除去すべき法的効果が残存する。

2 よって、本件取消訴訟には訴えの利益が認められる。

第3 設問2

1 法7条5項2号に関する主張

(1) Cは、新計画の内容はA市長の裁量の範囲を超えており、その策定は違法無効であるところ、本件許可は旧計画に「適合」(同号)していないから、違法であると主張する。

(2) まず、法6条2項4号は「基本的事項」という抽象的な文言を用い、また、一般廃棄物処理事業の計画は一般廃棄物の排出量やその処理方法等に精通した市長による諸般の事情を総合的に考慮した専門的判断により策定されるべきものである。そのため、一般廃棄物処理計画の策定についてA市長に裁量が認められる。もっとも、A市長による新計画の策定には、裁量権の逸脱濫用(行訴法30条)があり、これが違法無効となる。

ア 行政庁の判断が①重要な事実の基礎を欠くか、または②社会通念上著しく妥当を欠く場合には裁量権の逸脱濫用が認められる。

イ A市長は、新計画の策定にあたり、公衆衛生保全のため、浄化槽汚泥の発生量や処理量に関わる事実を重視すべきであった。A市長は、競争原理を導入する必要性という、上記と無関係の事情を考慮しており他事考慮がある。さらに、確かに、浄化槽汚泥の発生量は浄化槽の設置世帯数に比例する。しかし、新計画策定時には旧計画策定時と同様に、将来の人口および総世帯数の減少が予測されており、これにより浄化槽汚泥の発生量、処理量は減少が予測される。そのため、A市長が浄化槽設置件数増加を考慮した点で他事考慮、将来の人口および総世帯数の減少を考慮しなかった点で考慮不尽がある。そのため、上記②が認められ、新計画策定は違法無効である。

(3) そして、Dの申請は「新たな許可は行わない」との旧計画に「適合」していないから、法7条5項2号に反している。それなのにA市長は本件許可を行った。よって、本件許可は違法である。

2 法7条5項3号に関する主張

(1) Cは、本件許可について、A市長に裁量の逸脱濫用(行訴法30条)があり、違法であると主張する。

ア 同号の委任する法施行令2条の2第1号、2号の文言は抽象的であり、一般廃棄物処理事業の計画はA市長の専門的判断に委ねられるべきであるから、A市長に裁量が認められる。

イ 裁量の逸脱濫用は上述の基準で判断する。

  Dの代表者はBの代表者の実弟であり、D、Bの営業所所在地は同一である上、D単独の社屋等は存在せず、D代表者はB営業所内で執務していた。さらに、BとDは業務提携契約を締結している。そのため、BとDは事実上同一の事業主体と評価される。また、B、Cの2者体制で適切な収集運搬体制が維持されており、しかも、Dの代表者に一般廃棄物収集運搬業の従事経験はなかったのに本件許可がされている。さらに、Dの参入によりCの顧客が流出し、Cの売り上げが減少している。以上から、A市長はBに特別の経済的利益を与える目的で本件許可を行ったと推認され、目的動機違反があり、上記②が認められる。

(2) よって、本件許可に裁量の逸脱濫用があり、違法である。

以上

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