5月のかさぶた

ふと思い立って、お風呂上がりに髪を乾かすのもそこそこに(もちろんすっぴんで)、スーパーへでかけた。これは一昨日の出来事だ。

この日は本当に本当に暑くて、日中は1歩も外へでなかった。夜になって涼しくなったかな、と思ったけど、全くそんなことは無かった。全身をこうヌルッとした風が撫で付けるというか。熱帯夜なのかなこれは。

私は酷く不安だった。なぜか外へ出たら訳の分からない不安に駆られた。家からスーパーまでの間に踏切がある。ちょうど電車が通った。いつもならそんなことないのに、この日、この時は、通り過ぎる電車が本当に怖かった。音もスピードも振動も、私が感じるその全てが怖かった。なんでなんだろうか。

ひとつの理由として、私はその時化粧をしてなかったし、くたびれたスウェットとジャージを着てたし、髪の毛はセットしてない(というか生乾きだった)し、つまりなんというかいつも生きている時よりも、戦闘力が低かったからだ、というものがあげられる。
馬鹿げた話だが、私は日々化粧や、服や、その他もろもろで戦闘力(便宜上、こう呼ぶ)を上げてから外へ出ている。その全てをなくして、外へ出るのはここ1、2年はほぼなかったから、きっとそれで弱気になっていたのだと、思う。

スーパーへは徒歩で5分もかからない。私はレモンと、オレンジと、烏龍茶を買った。それらをバッグに入れて、外へ出た時、私は得も言われぬ高揚感に襲われた。私は今、最強になってしまった、と。

レモンとオレンジと烏龍茶、それだけが入っているバッグを持っているだけだ。それだけで、なぜか自分が今この夜で1番強いと感じてしまった。

何も怖くなかった。何も不安じゃなかった。急に、世界の全てが私に影響してくるみたいな、世界の全てに私が影響するみたいな、よくわからない。

それから30分くらい歩いて、遠くの百均へいった。初めて行くそこは、まるで異世界みたいな、ここにも生活があったんだ、と思ってしまうようなそんな感じだった。
全員知らない人間で(当たり前だが)この場で私しか本物じゃないみたいな(きっと私は本当に暑さでやられていたのかも知れない)

帰りの30分も、そんなに夜中じゃないのに、人っ子一人いなくて、車も通らなくて、火の用心の鐘の音だけは聞こえてきて。

信用できるのはこのバッグの重さと、信号機だけだった。

お家に帰って、蜂蜜レモンとみかん酢を仕込んだ。

本当に訳が分からないかつ、鮮やかで、ちょっと怖くて、これ以上ない体験をしてしまった。この日はなんだったのだろう。


2019.5.28

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