校舎裏の魔物

夏の雷が鳴った。この雷をきくとそれだけでドキドキしてしまう。ワクワクのほうの、ドキドキだ。
あいにく私は雷が怖いタイプの人間ではないので、怖くてドキドキするという訳では無い。そして、雷が落ちるんじゃないか、とか大雨になるんじゃないか、とかいうワクワクでもない。

夏の雷によるドキドキは紛れもなく小学生の時に感じた非日常へのワクワクによるドキドキの後遺症だ。

下校時間に校内放送がなる。
全校児童が薄暗い多目的ホールに集められる。窓を殴る雨。昼の暑さとのギャップ。怖がるこの声。先生の話。
下校時間をすぎても雨が落ち着かないので、まだ少し学校にいて下さいね。といわれ、その場で待機する。みんなのヒソヒソ声。
そのなんとも非日常感にどうしようもなくワクワクした。夕立の匂いにドキドキした。
どこからともなく塩素の匂いもした。そんな気がする。記憶の中の匂いだ。

結構な確率で、色んな人がこのような経験をしているのだと思っている。

私はその時の湿度、気配、隣の友人の吐く息すらを思い出すことが出来ると思う。

実際に上記のことはそれほど頻繁にあった訳では無い。多分、6年間で10回もなかった気がする。でも、夏の雷をきくと、夕立がくると、このことを思い出すよりも前にドキドキする。細胞に刷り込まれているんじゃないかというレベルで。

もしかしたら、ほんとうに細胞レベルの反応なのかもしれない。ほんとうは、そんな記憶がなくてもドキドキするのかもしれない。

私達は(達なのかはわからないが)無い記憶を懐かしむことができる。行ったことない場所なのに、なんでこんなにも懐かしいんだろう、というアレ。初めて聞く曲なのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう。いわゆる懐メロが懐メロでなかった当時を生きていないのに、どうして懐メロをきいてセンチメンタルな気持ちになれるのだろう。

分からないけど、夏の雷によるドキドキって、もしかしたらそれらにちかいのかもしれない。もしかしたら。
あの子は夕立の匂いがする。

2020.5.28


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