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コーヒーとハムサンド(食べものの思い出)


陶芸作家のギャラリーへ
主人と二人訪れたときのこと

エジプト文明を思い出させる
ロングヘアーの女性が案内役

ギャラリーは作家そのもの
通されたその場所は
上品で繊細
情熱と愛情
どの作品も
美しく生きていた

奥の応接スペースもどうぞと
見せて下さる


棚に飾られてあった一つの作品に
目が止まる


レトロで艶を保つ深紅
ピカピカ輝き
わたしたちを
誘惑するコーヒーカップ

素敵ね
いいねぇ

ふわふわ
ワクワク


わたしたちの心中は踊っていた

踊りながらわたしは
思い出していた



特別な朝にしか行くことができない喫茶店
それを楽しみにしていた
日曜日の朝

叔母の家に泊まった次の日朝に
必ず連れて行ってもらえたあのお店

カウンターに丸椅子が向き合うお店
秘密の部屋
秘密の花園
秘密の扉の向こう側
秘密というより
見つけてはならない
秘密の喫茶店だったのかも…

特別な日曜日の朝には
特別な朝食

コーヒーとハムサンド


辛子とマヨネーズ
薄切りのきゅうりが挟んであって
塩のふり加減が毎回違う
ハムサンド


辛子マヨネーズではなくて
辛子とマヨネーズは別で塗る
辛子の広がり方が絶妙だった


子供のころのできごと
鮮明に残っている記憶





わたしは生意気にコーヒーを頼んで
丸椅子に乗り
ハムサンドができる工程を
じっと見つめてワクワクしていた


小学校一年生のわたし
特別な日曜日の朝食
特別な思い出

上品で繊細
情熱と愛情
コーヒーとハムサンドは
美しく生きていた


レトロで艶を保つ深紅
ピカピカ輝きながら
誘惑してくるコーヒーカップ


その誘惑に誘い出てきた
わたしの記憶

山奥にある
秘密という言葉がよく似合う
秘密ではない素敵なギャラリーに

迷いながら辿り着き
蚊に刺されながら楽しんだ
暑い夏の日の思い出





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