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MIXの鬼門、蠱惑のMS処理

諸刃の剣、MS処理

MS処理、皆さんはやったことありますか?
僕が作曲を始めて2年くらいした時、MS処理が異様にブームになっていた印象があり、広がりのある欧米MIXの探究者である僕は、当然飛びついたわけです。
欧米ではMS処理をしているからあの広がり、奥行きが表現できているのだと…
もちろんMS処理なんて聞いたことのないアテクシ。
これさえやれば欧米のような音がこの手のうちに!!
と、早速MS処理をやってみたものの…

崩壊したMIX

MS処理はドラッグと同じです。
なんか最初はすっごい広がりが出て、きたー!!きもちええー!!って思うのですが、本当にあっという間にやりすぎるんですね。
当時は最高の音源ができたと思ってましたが、今聴くと完全に崩壊したMIXになっちゃってます。

何事も塩梅が大事!

すーぐやりすぎちゃうのもMS処理の危険なところなんですよね。
ステレオエンハンサーとかもそうですが、料理で言うところの塩みたいなものなので、ほんとちょっとでいいんですよね。
そして、なんでやりすぎてしまったか。
耳が育ってなかったのもあるんですが、MSというものを根本から勘違いしていたと言う致命的なミスもありましたので、ここで少し自分の経験を元にMSを解説できればと思います。

本題はここから!

MSはセンターとサイド…ではない!!

MS処理ってしようとすると、『真ん中』(便宜上センターと呼びます)と『左右』(便宜上サイドと呼びます)にわかれますよね。
大体のプラグインがそうだと思います。
でも、だとしたらスピーカーが3個ないとおかしいですよね?
左の音を出すスピーカー、センターの音を出すスピーカー、右の音を出すスピーカー…
しかし、皆さんの目の前にあるスピーカーは、ヘッドホンは、音の出る場所は何個ありますか?
2個ですよね!(ウーファーとかAtmosとかやめてください!!)
実際は左右のスピーカーで何がどれくらいの音量差で音が出ているか、しか表現できないはずなんです!
なのになぜセンターとサイドがあるように感じるのか…
これには『位相』が関係しています!

位相

試しに全く同じサイン波を出すトラック(オーディオでもソフトシンセでも)を二つ用意してみてください。
そのトラックのPANをLとRにそれぞれ振り切ってみてください!
どのようにきこえますか?
広がりなんてないですよね?
センターから聞こえてると思います!
そう!
位相が左右のスピーカーから出る『同位相の波形』がセンターに聞こえるんです!

次に、2つあるトラックのうち、どっちかの音程なり、タイミングなり、音質なりを少し変えてみてください。
どうですか?
広がりを感じませんか!?
そうなんです!
左右のスピーカーから『違う音が出てる』と耳が感じれば、人間はそれを『広がり』と認識するんです!

例えると、今あなたは道を歩いています。
前から2人の人間が歩いてきました。
その2人が『同じような小太りのおじさん』だった時と、『小太りのおじさん』と『美少女』だった時…どっちの方が見分けつきますか?って話なんです!(違うかも…)
もし『小太りのおじさん』と『男子大学生』だったら?
もし『小太りのおじさん』と『イケオジ』だったら?
だんだんイメージがセンターに寄ってきませんか?😆笑
左右から出てくる音が違えば違うだけ左右に、似てればセンターに寄ってくるんですね。
これを音楽的に言うと、『同位相はセンターになる』と言うことになります。

で、さっきのイメージの話に戻るんですけど、さっきは登場人物がみんな人間でしたよね?
人間という共通項がありましたよね。
音楽的に言うと、こうした『音の共通項』は『位相が同じ』と言い換えることができます。
例えばベースとシンバルの音をそれぞれ左右に振ると、位相の被りが少ないのでほぼ完全に右左分かれて聞こえますが、似たような音色のベースを左右に降っても、先ほどよりは広がりを感じにくいと思います。
これは位相の被りが先ほどよりも多いためです。
高音域に比べ、低域は『1秒間に発生する波の数』(物理だと波数とかいいますね)が少ないので位相が被りやすいのです。
つまり、完全に左右に音を振ったところで、特に低域は位相が被りやすく、センターに音が寄ってしまいがちなのです。

これが、MIXの際に音圧が上がりにくかったり、広がりを感じさせにくくする大きな原因の一つなんじゃないかなと僕は思っています!

これを対処するために僕の考えた方法が、『バンドサウンドにおけるMS処理を考える』というnoteの記事になります。
ざっくり言うと、同位相で被ってしまったセンター成分は、EQでカットしてしまおう!という方法論です。
キックとベースのいるセンターの〜200Hzくらいまでは、MS処理できるEQでMの部分だけバイパスフィルターをかけて削っちゃってみてください。
すると低域の濁りも解消しながら、位相被りのない低域がサイドに残るので、左右の広がりもしっかり感じられるのではないかと思います。

まだ試してないですが、多分シンセ系でも同じことが言えて、重厚なシンセリフやシンセベースの低域の質感を残しつつ左右に広げたり、低音域をしっかり綺麗に聴かせたい場合は、上記のような作業でどうにかなるんじゃないかと思います。

長くなっちゃいましたが、『バンドサウンドにおけるMS処理』の記事で端折ったMSの本質に切り込んでみました。
これで結構MSの処理のイメージがつきやすくなったのではないでしょうか?
最初に書いた『スピーカー3つあるMSの考え方』をすると、LRに完全に振った音はセンターにいないという勘違いが生まれてしまい、誤った処理をしてしまいがちです。
おぼろげながらもちょっと位相の考え方を頭に入れておくことで、より高音質なMIXができるようになると思いますので、ぜひ試してみてください!

ではでは!


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