見出し画像

生誕100年!!アルフレッド・リードを録音で語る(1)

吹奏楽界ではその経歴を語ることも必要なく、その名を知らない人がいないであろうアルフレッド・リード。2021年は生誕100周年と言うことで日本では多くのコンサートが企画されています。

リードにクローズアップと言うと2005年、惜しむらくも84歳の生涯を閉じられた時に追悼プログラムということでの機会がありましたが、あの時は代表作を中心とした深く迫る。と言う状態ではなく皆さんの心に残るアルフレッド・リードという色合いが強かったのではないでしょうか。

その当時を鑑みても今回のメモリアルイヤーは、それぞれいろいろな形でリードにスポットを当てていて、演奏会はもちろん、バンドジャーナル紙上では2021年5月・6月号にまたがり、特集を組んでいます。さらにyoutubeでも番組が放映されたり。時代の進歩を感じさせますね。

その5月号で、読者が選ぶ名演奏。という事で特集記事がありましたが、それよりもう少しより深く、皆さんにぜひ聞いてもらいたい、アルフレッド・リード作品の音盤を紹介してみよう。という事を考え、初noteの記事を書いてみました。

まずリードを語るならこの音盤は外せません。             

画像1

(KOCD-3502 G.C.シリーズ① A.リード&東京佼成ウィンドオーケストラ)

リード初来日の東京佼成ウインドオーケストラ(以下TKWO)との録音。 1981年、新宿文化センターでの第28回定期のゲストコンダクターとして初めて招かれたリードは自作のみならず、パリのアメリカ人(保科洋編曲)など、どういう意図があったかは不明ですが、バラエティあふれる選曲で日本デビューを果たしました。

その来日の中、普門館でセッションレコーディングを行い、定期のライブ録音と合わせてのアルバムが出来上がりました。その中でもコンサートのオープナーとして演奏された「音楽祭のプレリュード」は初来日コンサートの熱狂が拍手を通じてありありと伝わります。ブラボーも出ずひたすら熱い拍手。新宿文化センターが満員で、入れなかった人々が続出したリード初来日狂騒曲。貴重な記録として、この録音を挙げないわけにはいきません。演奏自体はおそらく、もっと良い盤はあると思います。ただこの記録。という価値は不変のものであるといえるでしょう。

この盤は、後日リマスタリングとトラッキング作業が行われた盤として再販されたこちらの盤や、

画像2

(佼成出版社: KOCD-2301  A.リード&東京佼成ウィンドオーケストラ )

初出のLPに収録されており、CD化された際に収録されなかった、「リードは語る 作曲を志した動機」の肉声インタビューがあります。こちらは後日復刻されたフェイバリット・パスト・アルバムシリーズのアルメニアン・ダンスに収録されました。

画像3

(佼成出版社: KOCD-0307  アルメニアン・ダンス )

その後、佼成出版社との自作自演シリーズは1995年録音のミニ・ウインズまで12枚の録音を残しました。このコンビでの録音は桂冠指揮者であったフェネルとの録音に次いでの数です。いかに90年代まで、このコンビのレコーディングによる共演回数が多かったかを物語っています。

80年代のTKWOとの共演の後、90年代には西のプロバンド、大阪市音楽団と4回にわたる演奏会での共演をしています。そこからライブ録音集として2005年に3枚のCDがフォンテックからリリースされました。TKWOと自作自演を残していない第6組曲や、バーンハウスでのクラシック小品の録音もさることながら、2000年に毎日放送の委嘱で放送テーマ音楽として作曲された「ミュージック・イン・ジ・エアー!」の初演セッションレコーディング(この曲のみ定期のライブ録音ではない)が音源としての記録として残されました。リード逝去時に毎日放送でも曲に併せてリードの訃報を伝えました。

画像4

(Fontec: FOCD9219 リード!×3 Vol.2)

1988年からは洗足学園音楽大学での客員教授の任にもありました。これはマイアミ大学での任務を終える前、リードとしては第二の人生ともいえるステージに世界へ出向くことになった動きの一部です。
1995年にはWASBE浜松大会にて次作を含むプログラムを指揮し、その後ケルクラーデでのWMCやミッドウェストクリニックでもその任に当たりました。いわば洗足学園と海外を繋ぐ架け橋としての音楽家、リードのもう一つの側面が伺えますね。その中でも海外向けの初舞台でのステージにて初演された第5交響曲「さくら」を紹介しましょう。海外の方がイメージする日本はやはりさくらは欠かせられない要素です。あまり日本のバンドが取り上げないのはやはりテーマがストレートすぎるからでしょうか。せっかくリードが日本を意識して、さらに海外の方に目を向けさせるためにリスペクトして書かれた委嘱作品、委嘱元の積極的な再演も含め脚光が当たる機会があってもよいと思いますが…。

画像5

 (Victor: PRCD-5161 第5交響曲「さくら」)


日本ではプロバンドのみならずアマチュアでの支持は相当高く、非常に多くの共演を重ねました。その取り組みの中で、最も理想的な取り組みが音の輪ウインドシンフォニカでの活動でしょう。1989年から2005年まで、リードを愛する者たちが集いリードの下に共に音楽をする演奏会を行ってきました。マネジメントするAPIからの音盤も出ていますが、その録音はアメリカのklavier社でも販売されており、一つのイベントバンドがリードと共に海を渡るまでになった素晴らしい企画といえるでしょう。リード没後もこの活動は続いており、2021年5月の演奏会の盛況も記憶に新しいところです。

画像16

(Klavier: Alfred Reed Live! Vol. 3 Giligia K11118)

画像17

(API: 音の輪コンサートベストセレクションVol.2 API-0102)

さて、海外に目を向けてみましょう。
リードの代表作、アルメニアンダンスの委嘱者とそのバンドの初演と称されるディスクが残っています。ハリー・べギアン指揮のイリノイ大学の演奏です。この演奏には諸説あり、completeと書かれながらも初演はそれぞれ異なるのですが、明らかに所謂パート1とパート2の音質が異なるのです。
また、生前のリードと初来日からの縁で、国内におけるリード研究の第一認者であるバルトーク・レコードの村上泰裕氏もリードにこれが初演の音である。と渡された音源が同一と言うことで有ったと言うことから、この音源が世界初演の音として考えて良いでしょう。その後販売されたBegian Years Vol.19ではパート1が単独で収録されています。同一音源ですが聞き比べもまた一興です。
イリノイ大とはその後、1990年のABA総会で初演されたエルサレム讃歌、そしてべギアンの追悼として書かれたギリギア(追憶の歌)と続きました。ギリギアはアルメニアンダンスのモチーフも使われ、べギアンとの邂逅がリードの人生に大きな影響を与えたことがわかります。

画像21

(MarkCustom: The Begian Years - Volume I 1210-MCD )

画像10

  (Mark Custom: The Begian Years - Volume XIX 4889-MCD)

画像10

画像9

 (MarkCustom: The 56th Annual ABA Convention ABA90-2)

90年代は前出の日本の他に、ヨーロッパでの活動も多くなってきました。
特筆すべきはケルクラーデの1993年WMCの課題曲として書かれた交響曲第4番でしょう。3楽章わずか18分の交響曲としてはコンパクトサイズな部類に入りますが、密度はしっかりとリード節。優勝の栄誉に輝いたトルン聖ミカエル吹奏楽団の演奏が大変素晴らしく語りぐさになる演奏となっています。

画像12

(WolrdWindMusic: Harmonie-Orkest St.Michael Thorn 番号なし)

画像13

(Mirasound: Highlights WMC 1993 399154/399155)

そのヨーロッパでの活動の中で、オランダ陸軍軍楽隊(KMK)の自作自演も外せません。前出の交響曲をはじめとして、エル・カミーノ・レアルの豊かなtutti、ポラッツイの美しさ、KMKの全盛期の音色がリード作品の色彩感と相まってセッション盤とはいえライブっぽい熱さも兼ね備えた自作自演の中でもベストな録音としておすすめできる盤と言えます。

画像14

画像15

(KMK: Portrait of Alfred Reed KMK006)

アメリカ、ヨーロッパと紹介しましたが、他にもイタリアでのコミュニティバンドでの自作自演や台湾、韓国、スイスなど数を挙げればきりがありませんが、全世界でリードの作品は愛好されている証しといえるでしょう。

画像20

(TAWA INTERNATIONAL: Banda Civica Musicale di Soncino CD43-01)

画像20

(NAXOS: Armenian Dances 8.573028)

さて、舞台はもう一度日本に戻ります。

日本での吹奏楽の発展に寄与したもう一人の人物、それがマエストロ・フェネル。アメリカではマイアミ大学での指揮者の歴代として繋がりはありましたが、録音のところに関しては縁がありません。日本でのコロムビアの吹奏楽名曲選で80年代に数曲、その後日本人のラブコールに漸く応じた96年のリアル・フェネルシリーズでアルメニアンダンス全曲の収録がなされたのみです。これについてもフェネルは多くを語らず、解説にも、同時期に出版されたインタビューや単行本にも明確な記載はなく、これだけ両者が日本で手兵のTKWOを率いても表立った交流がないのもまた不思議なものです。どちらも物故者となってしまい、真意は墓場まで持っていかれてしまいました。

画像6

(東芝EMI TOCZ-9282(初版)/TOCF-90013(再版) アルメニアン・ダンス全曲)

最後にリードの没後に発売された音盤を紹介しましょう。

日本のオケを数多く指揮し、広島ではオーケストラと吹奏楽団の両方のポストにつく、世界的にも珍しい野心的な試みを行う下野竜也。広島ウインドオーケストラとのライブで収録されたアルメニアンダンス全曲は録音の素晴らしさと、奥行きのある見通しの良い下野らしい音楽作りが抜群に良いです。
2021年5月にはリードオンリーの定期を開催、その後、CDも作成されるそうなのでこちらも期待したいところです。

画像19

 (BRAIN  風の国 BOCD-7366)

そしてやはりこの方は外せません。2021年現在、TKWOの正指揮者を務める大井剛史。TKWO正指揮者就任のライブであるアルメニアンダンス全曲に始まり、リードが普門館での定期演奏会で取り上げたプログラムをそのまま持ってきた第二交響曲のライブであったりと、数多くの作品を取り上げています。TKWOの他にも東京藝大ウィンドオーケストラを指揮したジャパンバンドクリニックでのエル・カミーノ・レアルにおける藝大生の高いポテンシャルを気持ち良く引き出せた演奏など、しっかりと後進にも演奏させることでリードの魅力を肌で感じさせています。現代におけるリードの伝道師といっても過言ではないはず(盛りすぎか笑)

画像19

 (PONY CANYON: アルメニアン・ダンス(全曲) PCCL-50012)

画像19

(CAFUA: 2018 JAPAN BAND CLINIC イブニング コンサート CACJ-1802)

改めて、ここまで録音の多さがある作曲家は後にも先にもリードだけでしょう。とりわけ国内盤だけをみてもレコードの時代から相当作品が収録されています。まだまだ話は尽きません。


ここで5000字オーバー。本当はもっともっと書きたいことがあるのですが、
吹奏楽というジャンルにおいて、とりあえず一度ひと段落。想定していなかったエクストラ。としましょう。
もう2回くらい。書けるかも・・・・。



                             (つづく)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?