信本さんの名前を見て、ビバップとボンズを思い出す。

先日、脚本家の信本敬子氏の訃報が伝えられた。
私が一番好きなアニメ「カウボーイビバップ(1998)」の脚本にかかわっていた方だ。

ビバップが放送していたとき、私は小学生だった。
当時、平日の18時台にあのOPを見て「現在放送されている作品とは一線を画する!」と興奮したものだ。小学生なんでこんな言い方はしていないが。

ビバップはハイコンテクスな作品だった。
なにがどうハイコンテクストかというと、1話目から世界観の説明なしにいきなり物語が始まる。見方によっては不親切な設計だ。
なんだかスパイクとジェットという男が近未来の世界で賞金稼ぎをしている。それだけだった。

当時はだいたいの作品が2クールか4クールで、捨て回というか日常回は必ずあったが、ビバップは全てが日常回というような構成だった。
ストーリーというストーリーはないのだ。地上波放送が打ち切りというのもかなり影響していると思う。

確固たるストーリーがないのが新鮮だった。
普通は主人公がトラブルに巻き込まれたりして、あれよあれよと話が進んでいって、最後に何らかしらの最終回を迎える物だ。
主人公が能動的にイベントを引き起こす場合もあるが、たいがいの作品は巻き込まれ型主人公の作品が多い気がする。近年は特にそうだ。

確かにビバップも自らトラブルに飛び込んでいく話が多い。しかし、それは「賞金稼ぎ」という職業上、能動的に活動しなければ生活できないからだ。まぁ降って湧いたトラブルにボコボコにされる話もあるが。
20話「道化師の鎮魂歌」とか。あれは完全に貰い事故話である。

ともあれ、小学生の私は「なんなんだ、このアニメは」と驚きを持って鑑賞した。それには菅野よう子の音楽も影響している。

ジャズというかブルースというか民族音楽というか、実際のそれを聴けばだいぶアニメ向けにアレンジされているのだが、私には新鮮に映った。
当時はそれ系の音楽を使用している作品がほとんどなかった、というのも大いにあるだろう。

ここまで書いておいてなんだが、ビバップは私の一番好きな作品であるとともに、思い出というフィルターの中で燦然と輝く作品なのだ。
だから全て良いのだ。文句はない。
ついでに菅野よう子狂信者なので、菅野よう子が作る音楽は全て良い。異論は認めない。少ない小遣いでサントラを買った思い出がある。CD-BOXが出るという情報が出た時は金を貯めた。

2020年の「YOKO KANNO SEATBELTS オンライン七夕まつり」は良かった。金を払って見る価値があった。スティーブ・コンテさんと山根麻衣さんの「RAIN」のデュオは最高だった。
RAINはOST1作目にスティーブ・コンテ版が、OST3のシークレットに山根麻衣版が収録されている。

映像の方もDVD-BOXの時は金欠で見逃したがBD-BOXは購入した。永久保存版である。
アニメ自体はネトフリなどの配信で見ることができるが、そういう意味ではないのである。

あまりにもハマり過ぎて、サントラの曲がどの話のどのシーンに使われているか探したりもした。
私のビバップ熱最盛期は各シーンのBGM名を諳んじられた。各話の内容も仔細漏らさず語れた。

これほどハマった作品はない。
今でもぼーっとするとネトフリで好きな回を見ているのだが、故人を偲んで1話からブルーレイで見ようかと思う。
私の思い出なのだ。

ビバップの話をしようと思うと、次から次に思い出して何もまとまらなくなる。
初めてOPを見た時の衝撃、見えないストーリー、一癖も二癖もあるキャラクター、魅力的なゲストキャラ、各話のパッとしない終わり、哀愁あるモノトーンのとめ絵ED、打ち切りと知った事実、レンタルでVHSを借りてベビーローテンションする日々、サントラを延々にループ再生した休日、本編とは何の関係もないシューティングゲーム、横手美智子さんのノベライズ、行きたかったシートベルツのライブ、客席に3人しかいなかった劇場版、言葉にできない想いも全て思い出なのだ。

いつもだったら、いつかビバップまとめでも記事にしようかと書くところだが、まったく構成が思いつかない。
酒でも酌み交わしながら語るのであれば、幾晩あっても足りない。
そんな思いだ。

各話ごとの記事であればいけるかとも思ったが、ビバップは2クールの流れの中で語ってこそ意味があるように思う。
1話1話を区切って話しても、その面白さは半減してしまう。

この備忘録もネタがないときはビバップの好きな回の話でも書こうか。
たぶんいくらでも書ける。


話は戻って、私が信本さんと次に出会ったのは「WOLF'S RAIN(2003年)」である。

これは深夜アニメだったので放送時間が遅かった。
当時は深夜アニメを見るようになっていて、ある程度数をこなしていた私は「今期の新作か、起きてるの面倒クセェ」とビデオデッキで録画した。

翌日、学校から帰宅し再生してから自分の愚かさに絶望した「なぜOPだけでも見なかったのか」と。
15秒見れば「これはリアルタイム視聴するべき作品だ」と気づいたはずだ。
まだ日が昇っているうちに録画で見る作品ではなかった。

当時の深夜アニメは一人で眠い目を擦りながらでも視聴するべき作品があった。作品のテイストにも視聴時間を意識するような創りがあったと回顧する。
私の中での筆頭は「Witch Hunter ROBIN」と「TEXHNOLYZE」である。「ガングレイブ」と「ヒートガイジェイ」も捨てがたい。

今の私はそういった視聴者置いてきぼりのハイコンテクスト作品を求めているのかもしれない。
世界観の説明は追々していけば良いのであって、私を非日常にいきなり拉致ってくれるものを求めているのか。

それはそれとして、WOLF'S RAINはサンライズから独立したボンズの制作であった。この当時はほとんどビバップ制作メンバーだったのでハマらないわけなかった。
監督は 渡辺信一郎さんから岡村天斎さんに代わっていたが、脚本信本敬子、音楽菅野よう子だった。

WOLF'S RAINはビバップ以上にハイコンテクスト作品だった。
「全部見ればなんとなく分かるよ」という不親切設計。作中である程度解説されるが説明不足。
そして怒涛の4話総集編で地上波未完。2クール頑張った視聴者に何たる仕打ち。
まぁ、私はもちろん「完結編」のOVAを買いましたとも。少ない小遣い叩いて。

地上波の最終回、26話のEDで流れた「Tell Me What The Rain Knows 」はグッときた。
アレはアレで良かった。今でも聞いている。

実はというか、WOLF'S RAINは見直していない。
録画の各話を3回以上見ているのだが、改めて見直していない。
これも見直さばならない作品だ。

で、それを制作したボンズの話であるが、今でもボンズは元気にアニメ制作していて、話題になる作品も多い。
しかし全ては見ていない。

以前、サンライズ出身のスタッフさんと話す機会があった。ビバップの制作にも関わっていた方だ。
その中で好きな作品の話をしていて「逢坂さんが亡くなったのショックでした」といったら、「あの人は良い人だったよ」と返してくれた。

もしかしたら、ボンズで私の琴線に触れた作品は逢坂浩司さんが大きくかかわっていたものかもしれない。

亡くなった方の話になってしまったが、今もバリバリ活動している人の評価というか心象は難しい。

今もって作り続けているから、我々は新しいものを受け取るしかない。
それを見る私たちも生きて経験を積んでいるので、思い出の中の作品とは評価基準が変わる。
生きている以上、仕方のないことである。

これを書きながら酒がまわり過ぎたので終わりにする。
とりあえず、ビバップとウルフズレインは見直す。

今日はそれで良い。

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