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その聲を、もう一度

"少しだけでいいから……その声を聞かせて"




ツー……

『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』


ひかる:もしもし、ひかるだけど……元気にしてる?そっちは天気どうだった?こっちはね、土砂降りの晴天だったよ笑……意味わかんないよね、ごめん…


やめないと、この行為に意味なんてないのに…


ひかる:そっちに天気なんてあるのかな…?わかんないや笑……


つらくなるだけでしょ?過去を恨むだけでしょ?


ひかる:っていうかそっちから全然連絡くれないじゃん笑、私のこと嫌いになっちゃったのかなぁ……なんて思ってみたり…えへへ……


だめだよ、言っちゃだめ……

もう心はズタズタなのに

それでもまだ壊そうとするの?


ひかる:………会いたいよ…



最近、彼氏とうまくいってない……

○○が仕事を始めだしてから、お互いにすれ違うことが多くなって

最後にちゃんとデートしたのっていつだっけ?

わかってる……○○の仕事が忙しいのは

でもさ


ひかる:少しくらい…かまってよ……


携帯の着信音がなる

画面には○○の名前

憂鬱な気分で電話をとる


ひかる:…もしもし


『もしもし、ごめんひかる!今日も…』


ひかる:いいよ、お仕事忙しんでしょ?無理しなくていいから……


『本当にごめん……』


ひかる:ううん、謝らないで?私は大丈夫だから


『うん…それとさ……』


ひかる:ん?なに?


『その……明日も…無理かも』


ひかる:………


○○は悪くない

それはわかってるはず

でもこの気持ちはとても正直で

今まで抑えてきたものが……


ひかる:……なんでよ


『…ひかる……その』


ひかる:いつも、いつも…仕事、仕事って


抑えなきゃ

彼を責めたところで何も変わらない

いや、もう溢れ出してしまった

……無理…か


ひかる:私より仕事の方が大事なの!?少しくらい…私を優先してくれたっていいじゃん!!!


『そんなことない!僕はひかるを…』


ひかる:もう信じれないよ…!いつもそう言って逃げてばっか


『ひかる……』


ひかる:私はいつまで待ち続ければいいの!?いつまでこんなことが続くの!?我慢だっていっぱいしたよ!でも、もう無理だよ……


『……僕だってやりたくない業務を押し付けられてんだよ!』


ひかる:っ!?


初めてだった

彼のこんな声を聞いたのは


『僕だってひかるとの時間を優先したいよ!でもそう簡単にいくものでもないんだって!』


ひかる:……


謝らなきゃ

これは私が悪いから

はやく…


ひかる:……もういいよ…


なんで?

なんで「ごめん」が言えないの

簡単なことのはずじゃん


ひかる:○○のことを考えたくもない、顔も見たくない、声だって…聞きたくない


『…ひ、ひかる?』


ひかる:……さよなら


『ひか


プツっ


ひかる:…なんで……私…


とめどなく涙が溢れてくる

静寂はより孤独を引き立てる


ひかる:○○…ごめん、ごめんね……



○○:ひかる!


プツっ


○○:あぁ、くそっ!


なんであんなこと言ったんだ

ひかるだって苦しい思いをしてたのに…

自分に腹が立つ


○○:……明日


携帯のカレンダーを確認する

7月10日

ひかるの誕生日であり、2人にとっての記念日


○○:…よし



7月10日

18:00

定時、退勤する者は…もちろんいない

ある1人を除いて


○○:部長!定時なんで失礼します!


部長:は!?帰れると思ってんのか?まだまだ仕事は残ってんだぞ!


○○:自分のやることはもう終わってますんで、じゃ失礼します!


部長:おいっ!待て!


そうだ、最初からこうすればよかった

もう止まらないよ

最愛の人に…君に会うために

とその前に…


○○:まだあるかな…


ひかるが前々から食べたがっていた

駅前にあるケーキ屋の1番人気

よく売り切れになっているのを見かけるが


○○:はぁ…!はぁ…!


ケーキ屋の扉を……静かに開ける


店員:いらっしゃいませ〜


○○:あの、1番人気のヤツって…まだありますかね?


店員:ホールのほうはご用意できなのですが、カットしてあるものでしたらひとつだけご用意できます!


○○:それで大丈夫です!


ケーキ屋を後にし、足早に彼女の元へ

まだ怒ってるよな……

昨日は酷いことも言ってしまったし


○○:ちゃんと謝ろ


携帯にひとつの通知がはいる

送り主は…ひかる


「今、時間大丈夫かな?」


急な連絡に心臓が暴れている

返事を返すのがいいのか、それとも返さずサプライズ的なことをした方がいいのか

いや、もしかすると……別れb


○○:いやだね、そんなの信じない……素直に返すか


「うん!大丈


その瞬間、目の前の景色が鮮やかな白に染まる


○○:え


それとほぼ同時、今まで感じたことのない衝撃が体中を伝う

何が起こったかもわからない

痛み?

それがやってくるのは状況を理解してからだった


○○:…………ぁ……あ……


男:き、救急車っ…!


女:大丈夫ですか!?


あぁ、そうか……僕は

体は動かない

意識も朦朧としている

あれ?目が見えなくなってきた

もう君の笑顔も見ることができないのか

…久しく笑顔なんて見てなかったな

ホントに……こんな彼氏でごめんね

幸せを届けられなかった


○○:……ごめ…んね……ひかる………



既読はついてる…

でも返信がない

おかしいな

彼は既読無視するタイプじゃないのに…

ダメもとで電話をかける


プルルルル…プルルルル…


ひかる:……なんで出ないの…


嫌われちゃったのかな…

でも既読はついてるし…


ひかる:あとでかけ直そ……


はやく謝りたい

○○のことばかり考えてる

顔を見たい

声を聞きたい


ひかる:…○○……


部屋の隅で1人、涙をこぼす



時計の針が21:00をさす頃

1本の電話がはいる


ひかる:…○○のお母さん?


珍しい…まだ1回しか電話で喋ったことない…

でもなんでこのタイミングなんだろう?

気まずいな…喧嘩中なんて言えるはずもないし


ひかる:…はい、もしもし


『あーひかるちゃん、ごめんねこんな時間に』


ひかる:い、いえ…全然、大丈夫です


『……早速で悪いんだけどね、○○のことなんだけど』


嫌な予感がした

既読がついたのに電話に出ない

そして彼の母からの急な電話

………まさかね


『○○ね……亡くなったの…』


ひかる:………え?


『交通事故でね…救急車が到着した時にはもう…』


嫌だ……いやだ、いやだ、いやだ

信じない、信じない、信じない

だってまだ…


ひかる:謝ってないよ……


『ひかるちゃん…今から□□病院来れる?』


ひかる:はい!すぐ行きます…



まだ、信じてないよ

信じれるわけないじゃん


○母:あっ、ひかるちゃん……


私の眼前、そこには…確かに


ひかる:い、いや…いやぁ……


私がこの人生で唯一、愛した人が


ひかる:あぁ……ぁ……あ"ぁ"ぁぁあ!!!


安置室に響き渡る号哭

何もかもが走馬灯のように脳裏を走る

ホントに○○は死んじゃったんだ

もうこれ以上、思い出を作れないってこと?

ダメだよ…そんなの……


私を孤独ひとりにしないで……



もうあれから1年経つのか…

時が経つのは早いね


ツー……

『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』


ひかる:ねぇ○○?もう1年だって…早いね


また今日もこうやって過去に縋るのか


ひかる:私さ、1歳年とっちゃったよ笑……


涙が頬を流れる

どれだけ涙を流そうが、後悔を洗い流すことなんて出来ないのに


ひかる:ねぇ…お願い……声だけでもいいから…聞かせてよ……


大好きだったはずの声が不思議と思い出せないの…

嫌だよ…あなたの声を忘れたくない…


すると携帯から着信音がなる


ひかる:……え?


かかってくるはずのない電話番号

それは紛れも無い○○の番号だった


ひかる:もしもし!○○…?


『ひかる……待たせちゃったね、ごめん』


忘れかけていたその声

確かに○○の声だ


ひかる:っ……ごめん!私、あの時酷いこと言ったよね…


『………』


ひかる:ずっと後悔してた、ずっと謝りたかった…○○だって苦しい思いしてたのに…自分勝手なことばかりで…


『ひかる』


ひかる:う、うん…ごめん


『…こっちこそごめんね、ひかるのこと幸せに出来なかった』


ひかる:っ!そんなことない!○○が存在するだけでも幸せだったのに…それに気づけなかった私が悪いよ……


『じゃあ、やっぱり僕が悪いや』


ひかる:…どうして……?


『僕は…もう存在しないから』


そんなこと言わないで…

電話越しだとしてもここにいるから


『そろそろ…時間みたい…』


ひかる:えっ?嫌だ!待って、お願い……


伝えなきゃ

ありがとうって

大好きだって

言葉にしなくちゃ

でも…溢れる涙が邪魔をするんだ


ひかる:○○……私……私は…


『ひかる…』


ひかる:うまく言葉にできない……どうして…


○○:ひかる!


ひかる:っ!?


振り向くとそこには

今も変わることのない愛する人が


ひかる:○○………○○!!


私は彼を抱きしめようとするが


ひかる:なんで……触れらない…


○○:まぁ、僕は死んでるからね笑


ひかる:……○○


○○:なに?


ひかる:私、○○のこと大好きだよ


○○:…うん、僕もひかるが大好き


ひかる:今までも、これからもずっと…


○○:………


ひかる:私さ、この先生きていけるのかなって不安でさ


○○:うん……


ひかる:○○がいない世界に、私の存在意義なんてないような気がして…


○○:ひかる


ひかる:え?


彼は私を優しく抱きしめる…

触れることはできないけど

そこには温もりがあった


○○:僕は今日、消えてしまうけど…ずっとひかるのことを見守ってるからね


ひかる:……うん


○○:だから……ひかるは自分の好きなように生きればいいんだよ?


ひかる:…うんっ


○○:お誕生日おめでとう、あの日伝えれなかったから


ひかる:えへへ笑……ありがと


○○:じゃあね、ひかる


ひかる:うん、また会えるよね…?


○○:…きっとどこかで会えるよ


最期に交わしたその口付けは微かに触れている気がしたんだ



ひかる:やばいっ!遅刻する〜!


急いで身支度をすませ、玄関を開ける


ひかる:今日の天気は〜……土砂降り…


ここ最近、雨多いよ…


ひかる:でも大丈夫だよ○○






私の心は"晴れ"てるから


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