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その聲を、もう一度
"少しだけでいいから……その声を聞かせて"
ツー……
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
ひかる:もしもし、ひかるだけど……元気にしてる?そっちは天気どうだった?こっちはね、土砂降りの晴天だったよ笑……意味わかんないよね、ごめん…
やめないと、この行為に意味なんてないのに…
ひかる:そっちに天気なんてあるのかな…?わかんないや笑……
つらくなるだけでしょ?過去を恨むだけでしょ?
ひかる:っていうかそっちから全然連絡くれないじゃん笑、私のこと嫌いになっちゃったのかなぁ……なんて思ってみたり…えへへ……
だめだよ、言っちゃだめ……
もう心はズタズタなのに
それでもまだ壊そうとするの?
ひかる:………会いたいよ…
◇
最近、彼氏とうまくいってない……
○○が仕事を始めだしてから、お互いにすれ違うことが多くなって
最後にちゃんとデートしたのっていつだっけ?
わかってる……○○の仕事が忙しいのは
でもさ
ひかる:少しくらい…かまってよ……
携帯の着信音がなる
画面には○○の名前
憂鬱な気分で電話をとる
ひかる:…もしもし
『もしもし、ごめんひかる!今日も…』
ひかる:いいよ、お仕事忙しんでしょ?無理しなくていいから……
『本当にごめん……』
ひかる:ううん、謝らないで?私は大丈夫だから
『うん…それとさ……』
ひかる:ん?なに?
『その……明日も…無理かも』
ひかる:………
○○は悪くない
それはわかってるはず
でもこの気持ちはとても正直で
今まで抑えてきたものが……
ひかる:……なんでよ
『…ひかる……その』
ひかる:いつも、いつも…仕事、仕事って
抑えなきゃ
彼を責めたところで何も変わらない
いや、もう溢れ出してしまった
……無理…か
ひかる:私より仕事の方が大事なの!?少しくらい…私を優先してくれたっていいじゃん!!!
『そんなことない!僕はひかるを…』
ひかる:もう信じれないよ…!いつもそう言って逃げてばっか
『ひかる……』
ひかる:私はいつまで待ち続ければいいの!?いつまでこんなことが続くの!?我慢だっていっぱいしたよ!でも、もう無理だよ……
『……僕だってやりたくない業務を押し付けられてんだよ!』
ひかる:っ!?
初めてだった
彼のこんな声を聞いたのは
『僕だってひかるとの時間を優先したいよ!でもそう簡単にいくものでもないんだって!』
ひかる:……
謝らなきゃ
これは私が悪いから
はやく…
ひかる:……もういいよ…
なんで?
なんで「ごめん」が言えないの
簡単なことのはずじゃん
ひかる:○○のことを考えたくもない、顔も見たくない、声だって…聞きたくない
『…ひ、ひかる?』
ひかる:……さよなら
『ひか
プツっ
ひかる:…なんで……私…
とめどなく涙が溢れてくる
静寂はより孤独を引き立てる
ひかる:○○…ごめん、ごめんね……
◇
○○:ひかる!
プツっ
○○:あぁ、くそっ!
なんであんなこと言ったんだ
ひかるだって苦しい思いをしてたのに…
自分に腹が立つ
○○:……明日
携帯のカレンダーを確認する
7月10日
ひかるの誕生日であり、2人にとっての記念日
○○:…よし
◇
7月10日
18:00
定時、退勤する者は…もちろんいない
ある1人を除いて
○○:部長!定時なんで失礼します!
部長:は!?帰れると思ってんのか?まだまだ仕事は残ってんだぞ!
○○:自分のやることはもう終わってますんで、じゃ失礼します!
部長:おいっ!待て!
そうだ、最初からこうすればよかった
もう止まらないよ
最愛の人に…君に会うために
とその前に…
○○:まだあるかな…
ひかるが前々から食べたがっていた
駅前にあるケーキ屋の1番人気
よく売り切れになっているのを見かけるが
○○:はぁ…!はぁ…!
ケーキ屋の扉を……静かに開ける
店員:いらっしゃいませ〜
○○:あの、1番人気のヤツって…まだありますかね?
店員:ホールのほうはご用意できなのですが、カットしてあるものでしたらひとつだけご用意できます!
○○:それで大丈夫です!
ケーキ屋を後にし、足早に彼女の元へ
まだ怒ってるよな……
昨日は酷いことも言ってしまったし
○○:ちゃんと謝ろ
携帯にひとつの通知がはいる
送り主は…ひかる
「今、時間大丈夫かな?」
急な連絡に心臓が暴れている
返事を返すのがいいのか、それとも返さずサプライズ的なことをした方がいいのか
いや、もしかすると……別れb
○○:いやだね、そんなの信じない……素直に返すか
「うん!大丈
その瞬間、目の前の景色が鮮やかな白に染まる
○○:え
それとほぼ同時、今まで感じたことのない衝撃が体中を伝う
何が起こったかもわからない
痛み?
それがやってくるのは状況を理解してからだった
○○:…………ぁ……あ……
男:き、救急車っ…!
女:大丈夫ですか!?
あぁ、そうか……僕は
体は動かない
意識も朦朧としている
あれ?目が見えなくなってきた
もう君の笑顔も見ることができないのか
…久しく笑顔なんて見てなかったな
ホントに……こんな彼氏でごめんね
幸せを届けられなかった
○○:……ごめ…んね……ひかる………
◇
既読はついてる…
でも返信がない
おかしいな
彼は既読無視するタイプじゃないのに…
ダメもとで電話をかける
プルルルル…プルルルル…
ひかる:……なんで出ないの…
嫌われちゃったのかな…
でも既読はついてるし…
ひかる:あとでかけ直そ……
はやく謝りたい
○○のことばかり考えてる
顔を見たい
声を聞きたい
ひかる:…○○……
部屋の隅で1人、涙をこぼす
◇
時計の針が21:00をさす頃
1本の電話がはいる
ひかる:…○○のお母さん?
珍しい…まだ1回しか電話で喋ったことない…
でもなんでこのタイミングなんだろう?
気まずいな…喧嘩中なんて言えるはずもないし
ひかる:…はい、もしもし
『あーひかるちゃん、ごめんねこんな時間に』
ひかる:い、いえ…全然、大丈夫です
『……早速で悪いんだけどね、○○のことなんだけど』
嫌な予感がした
既読がついたのに電話に出ない
そして彼の母からの急な電話
………まさかね
『○○ね……亡くなったの…』
ひかる:………え?
『交通事故でね…救急車が到着した時にはもう…』
嫌だ……いやだ、いやだ、いやだ
信じない、信じない、信じない
だってまだ…
ひかる:謝ってないよ……
『ひかるちゃん…今から□□病院来れる?』
ひかる:はい!すぐ行きます…
◇
まだ、信じてないよ
信じれるわけないじゃん
○母:あっ、ひかるちゃん……
私の眼前、そこには…確かに
ひかる:い、いや…いやぁ……
私がこの人生で唯一、愛した人が
ひかる:あぁ……ぁ……あ"ぁ"ぁぁあ!!!
安置室に響き渡る号哭
何もかもが走馬灯のように脳裏を走る
ホントに○○は死んじゃったんだ
もうこれ以上、思い出を作れないってこと?
ダメだよ…そんなの……
私を孤独にしないで……
◇
もうあれから1年経つのか…
時が経つのは早いね
ツー……
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
ひかる:ねぇ○○?もう1年だって…早いね
また今日もこうやって過去に縋るのか
ひかる:私さ、1歳年とっちゃったよ笑……
涙が頬を流れる
どれだけ涙を流そうが、後悔を洗い流すことなんて出来ないのに
ひかる:ねぇ…お願い……声だけでもいいから…聞かせてよ……
大好きだったはずの声が不思議と思い出せないの…
嫌だよ…あなたの声を忘れたくない…
すると携帯から着信音がなる
ひかる:……え?
かかってくるはずのない電話番号
それは紛れも無い○○の番号だった
ひかる:もしもし!○○…?
『ひかる……待たせちゃったね、ごめん』
忘れかけていたその声
確かに○○の声だ
ひかる:っ……ごめん!私、あの時酷いこと言ったよね…
『………』
ひかる:ずっと後悔してた、ずっと謝りたかった…○○だって苦しい思いしてたのに…自分勝手なことばかりで…
『ひかる』
ひかる:う、うん…ごめん
『…こっちこそごめんね、ひかるのこと幸せに出来なかった』
ひかる:っ!そんなことない!○○が存在するだけでも幸せだったのに…それに気づけなかった私が悪いよ……
『じゃあ、やっぱり僕が悪いや』
ひかる:…どうして……?
『僕は…もう存在しないから』
そんなこと言わないで…
電話越しだとしてもここにいるから
『そろそろ…時間みたい…』
ひかる:えっ?嫌だ!待って、お願い……
伝えなきゃ
ありがとうって
大好きだって
言葉にしなくちゃ
でも…溢れる涙が邪魔をするんだ
ひかる:○○……私……私は…
『ひかる…』
ひかる:うまく言葉にできない……どうして…
○○:ひかる!
ひかる:っ!?
振り向くとそこには
今も変わることのない愛する人が
ひかる:○○………○○!!
私は彼を抱きしめようとするが
ひかる:なんで……触れらない…
○○:まぁ、僕は死んでるからね笑
ひかる:……○○
○○:なに?
ひかる:私、○○のこと大好きだよ
○○:…うん、僕もひかるが大好き
ひかる:今までも、これからもずっと…
○○:………
ひかる:私さ、この先生きていけるのかなって不安でさ
○○:うん……
ひかる:○○がいない世界に、私の存在意義なんてないような気がして…
○○:ひかる
ひかる:え?
彼は私を優しく抱きしめる…
触れることはできないけど
そこには温もりがあった
○○:僕は今日、消えてしまうけど…ずっとひかるのことを見守ってるからね
ひかる:……うん
○○:だから……ひかるは自分の好きなように生きればいいんだよ?
ひかる:…うんっ
○○:お誕生日おめでとう、あの日伝えれなかったから
ひかる:えへへ笑……ありがと
○○:じゃあね、ひかる
ひかる:うん、また会えるよね…?
○○:…きっとどこかで会えるよ
最期に交わしたその口付けは微かに触れている気がしたんだ
◇
ひかる:やばいっ!遅刻する〜!
急いで身支度をすませ、玄関を開ける
ひかる:今日の天気は〜……土砂降り…
ここ最近、雨多いよ…
ひかる:でも大丈夫だよ○○
私の心は"晴れ"てるから
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