くだらない君へ
ごめんね。
ずっと一緒にいたかった…
◇
○○:僕と付き合ってください!
愛季:…はい、喜んで!
僕たちは幼馴染で、ずっと抱え込んでいたこの気持ちをやっと伝えることができた
そんなよくある夏の日のこと
僕らの物語はここから始まった
◇
愛季:ねぇ○○?今日はなんの日でしょうか!
○○:えー?なんの日だったかなー?
愛季:え…お、覚えてないの……?
○○:ごめん、ごめん笑…今日は記念日だね
愛季:も〜!からかわないでよ〜!
○○:ごめんね
愛季:謝っても許さないんだから!
○○:ん〜…どうしたら許してくれるかな?
愛季:……ぎゅ…
○○:ん?
愛季:ぎゅーしてくれたら……許しても…いいかもね…?
○○:ふふ笑、ぎゅーー
愛季:えへへ///
こんなくだらない日々も
僕たちにとっては幸せな日々だから
愛季:ねぇ、海行きたい!
○○:海?泳ぐの?
愛季:ううん、海辺を歩くだけ
○○:???
◇
かなり歩いたな
もう気づけば夕暮れ時
○○:誰もいないね…
愛季:知る人ぞ知る場所だもん!
沈んでゆく太陽、海へ向かって歩いて行く君
その景色があまりにも綺麗で……
すると君は振り向き、僕に駆け寄ってきた
愛季:大丈夫!?何かあったの?
○○:え?
愛季:○○…泣いてるから
頬に手をやると確かに涙が流れていた
それもそうか
あんなにも綺麗なものを見てしまったんだ
○○:愛季がとても綺麗だからつい…
愛季:っ///…ほ、ほらいこ!
僕の腕を掴んで走り出す
靴を脱ぎ捨て、足には冷たい感覚
目の前には大きな夕焼け
愛季:……これからもずっと側にいてね
○○:うん、約束する……愛季が大好きだから
愛季:………えいっ!
○○:うわっ!?
火照っていた体に、心地よい冷たさが襲う
ホントにくだらない
だけれどそのくだらなさに夢中になってしまうんだ
○○:っ……やったな〜!ほらっ!
愛季:きゃ〜!
なんだかんだ楽しいんだよ、君がいるから
◇
日が落ちて、暗い海を見つめる二人
○○:そろそろ帰ろうか
愛季:うん、そうだね
また来ようねと告げ、立ち上がる
○○:…あれ?
足に力が入らず、その場に倒れ込んでしまう
愛季:○○!?どうしたの!?
おかしい、手足が麻痺しているような
だんだんと頭痛もしだした
体も震えている
言葉もうまく出てこない
愛季:救急車…!
○○:……ぁ…
そこからはあまり覚えていない
救急車で搬送されている途中
彼女は何度も言葉を投げかけていたようだけど
◇
脳腫瘍。
かなり進行しているらしく
手術で取り除くのはほぼ不可能
余命はもって数ヶ月
突然告げられた現実
受け入れることなんて出来なかった
◇
あれから数日
病室で一人、孤独を仰ぐ
体は日に日に衰弱していく
怖い、怖い、怖い
……死にたくない
愛季:○○!可愛い彼女がお見舞いにきたよ〜
○○:ホントだ!僕の可愛くてご自慢の彼女さんだ!
愛季:えへへ///
この照れた顔も見ることができなくなるのか
嫌だなぁ
まだやり残したことがいっぱいあるのに
君ともっと……
愛季:……ねぇ○○〜見て〜
○○:ん?
愛季:……ひげ……
○○:………ぷっ、何それ笑
愛季:やった〜笑った!面白いでしょ?
こんなくだらないことでいつまでも笑っていたかった
二人でバカみたいにはしゃいでいたかった
○○:ホントにくだらないね笑
愛季:……それでもいいでしょ?
○○:うん、それがいいんだよ
彼女の大きな瞳から、自然と涙が溢れ出る
愛季:…○○……大丈夫だよね…?
○○:………
愛季:約束したもんね…ずっと側にいるって……
○○:…うん、ずっと側にいるよ
愛季:…○○……
○○:おいで?愛季
その細くなった腕で彼女を抱き寄せる
愛季:……暖かいね、○○は
○○:愛季もね
愛季:優しいね、○○は
○○:愛季こそ、たくさんの優しさをくれてありがとう
愛季:ふふふ///……愛してる
○○:僕も……これからもずっと愛してる
愛季:……ひげ
○○:なんでこのタイミング!?
愛季:あははは笑
くだらないな、ホントに…
でもそのくだらなさが
優しさが
温もりが
君の眩しい笑顔が
僕にとって何よりも大切で
幸せだったよ……
◇
1年後。
海辺で一人、孤独を仰ぐ
目の前には大きな大きな夕焼け
花を一輪、海へと放つ
愛季:約束したから、また来ようって
涙が溢れ、それに夕日が反射する
まるで宝石のように輝いていた
愛季:…また、会おうね……
太陽に背を向け、歩き出す君
するとその顔は笑みを浮かべる
愛季:いいじゃん笑、別に……
『くだらないよ』
そう微笑みかけられた気がした
くだらなくもその景色は
この世で最も、美しかった
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