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くだらない君へ

ごめんね。

ずっと一緒にいたかった…



○○:僕と付き合ってください!


愛季:…はい、喜んで!


僕たちは幼馴染で、ずっと抱え込んでいたこの気持ちをやっと伝えることができた

そんなよくある夏の日のこと

僕らの物語はここから始まった



愛季:ねぇ○○?今日はなんの日でしょうか!


○○:えー?なんの日だったかなー?


愛季:え…お、覚えてないの……?


○○:ごめん、ごめん笑…今日は記念日だね


愛季:も〜!からかわないでよ〜!


○○:ごめんね


愛季:謝っても許さないんだから!


○○:ん〜…どうしたら許してくれるかな?


愛季:……ぎゅ…


○○:ん?


愛季:ぎゅーしてくれたら……許しても…いいかもね…?


○○:ふふ笑、ぎゅーー


愛季:えへへ///


こんなくだらない日々も

僕たちにとっては幸せな日々だから


愛季:ねぇ、海行きたい!


○○:海?泳ぐの?


愛季:ううん、海辺を歩くだけ


○○:???



かなり歩いたな

もう気づけば夕暮れ時


○○:誰もいないね…


愛季:知る人ぞ知る場所だもん!


沈んでゆく太陽、海へ向かって歩いて行く君

その景色があまりにも綺麗で……

すると君は振り向き、僕に駆け寄ってきた


愛季:大丈夫!?何かあったの?


○○:え?


愛季:○○…泣いてるから


頬に手をやると確かに涙が流れていた

それもそうか

あんなにも綺麗なものを見てしまったんだ


○○:愛季がとても綺麗だからつい…


愛季:っ///…ほ、ほらいこ!


僕の腕を掴んで走り出す

靴を脱ぎ捨て、足には冷たい感覚

目の前には大きな夕焼け


愛季:……これからもずっと側にいてね


○○:うん、約束する……愛季が大好きだから


愛季:………えいっ!


○○:うわっ!?


火照っていた体に、心地よい冷たさが襲う

ホントにくだらない

だけれどそのくだらなさに夢中になってしまうんだ


○○:っ……やったな〜!ほらっ!


愛季:きゃ〜!


なんだかんだ楽しいんだよ、君がいるから



日が落ちて、暗い海を見つめる二人


○○:そろそろ帰ろうか


愛季:うん、そうだね


また来ようねと告げ、立ち上がる


○○:…あれ?


足に力が入らず、その場に倒れ込んでしまう


愛季:○○!?どうしたの!?


おかしい、手足が麻痺しているような

だんだんと頭痛もしだした

体も震えている

言葉もうまく出てこない


愛季:救急車…!


○○:……ぁ…


そこからはあまり覚えていない

救急車で搬送されている途中

彼女は何度も言葉を投げかけていたようだけど



脳腫瘍。

かなり進行しているらしく

手術で取り除くのはほぼ不可能

余命はもって数ヶ月

突然告げられた現実

受け入れることなんて出来なかった



あれから数日

病室で一人、孤独を仰ぐ

体は日に日に衰弱していく

怖い、怖い、怖い

……死にたくない


愛季:○○!可愛い彼女がお見舞いにきたよ〜


○○:ホントだ!僕の可愛くてご自慢の彼女さんだ!


愛季:えへへ///


この照れた顔も見ることができなくなるのか

嫌だなぁ

まだやり残したことがいっぱいあるのに

君ともっと……


愛季:……ねぇ○○〜見て〜


○○:ん?



愛季:……ひげ……


○○:………ぷっ、何それ笑


愛季:やった〜笑った!面白いでしょ?


こんなくだらないことでいつまでも笑っていたかった

二人でバカみたいにはしゃいでいたかった


○○:ホントにくだらないね笑


愛季:……それでもいいでしょ?


○○:うん、それがいいんだよ


彼女の大きな瞳から、自然と涙が溢れ出る


愛季:…○○……大丈夫だよね…?


○○:………


愛季:約束したもんね…ずっと側にいるって……


○○:…うん、ずっと側にいるよ


愛季:…○○……


○○:おいで?愛季


その細くなった腕で彼女を抱き寄せる


愛季:……暖かいね、○○は


○○:愛季もね


愛季:優しいね、○○は


○○:愛季こそ、たくさんの優しさをくれてありがとう


愛季:ふふふ///……愛してる


○○:僕も……これからもずっと愛してる



愛季:……ひげ


○○:なんでこのタイミング!?


愛季:あははは笑


くだらないな、ホントに…

でもそのくだらなさが

優しさが

温もりが

君の眩しい笑顔が

僕にとって何よりも大切で


幸せだったよ……



1年後。

海辺で一人、孤独を仰ぐ

目の前には大きな大きな夕焼け

花を一輪、海へと放つ


愛季:約束したから、また来ようって


涙が溢れ、それに夕日が反射する

まるで宝石のように輝いていた


愛季:…また、会おうね……


太陽に背を向け、歩き出す君

するとその顔は笑みを浮かべる


愛季:いいじゃん笑、別に……


『くだらないよ』

そう微笑みかけられた気がした


くだらなくもその景色は



この世で最も、美しかった


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