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櫻蕊降りて恋を成す〜向井純葉〜

夏の匂いが香り始める頃。

誰もいない。ここには誰も


純葉:…綺麗


海にカメラを向け、彼女はそう呟く

シャッター音と共に一瞬は永遠として切り取られる

この瞬間が私は好きだ


純葉:ふふっ、いいね


今日は一枚で満足できた

写真を眺めながら帰路につこうとした時

誰もいないはずの此処に


純葉:ん?……ひと?


私から少し離れた場所で海を眺める子が一人

私の通う学校の制服…

男子かな?


純葉:……


気づけばカメラを向けていた

なぜだろう……とても儚いと感じてしまった

しかし、シャッターを切ることができなかった

彼の時間を切り取ることになってしまう


純葉:…またね


また会える気がする

その時は喋りかけようかな…



気づいたら、此処にいる

目的があるわけでもない


○○:……綺麗だな、ホントに


何度見ただろうか、この景色を

このちっぽけな命を飲み込んでしまうような

この広大な景色を


○○…ん?


此処には僕以外のひとはいないと思ってた

後ろ姿しか見えなかったが

おそらく同じ学校だろう

ポニーテールがゆったりと揺れていた


○○:…まぁいいか……



今日も来てしまった

あのひとはいるかな?

昨日と同じ場所に彼はいた

ゆっくりと歩み寄る


純葉:……綺麗ですよね

○○:……来ると思った…

純葉:…えっ!?

○○:ちょっと…うるさいよ…

純葉:ご、ごめん……いひひっ


それからたくさん喋った

なんと同い年だったのだ!

クラスは違うけど……


○○:…てかさ、なしてカメラ持っとん?

純葉:え?○○って…流行に疎いん?

○○:ん?

純葉:純葉らの学校で流行っとるがん!

○○:あー……そうなんじゃ…

純葉:撮ってあげようか?

○○:いや、いい…

純葉:え〜なんでぇ?


彼は撮られること対してに嫌悪感を抱いてる

でもいつか収めたい

すぐ消えてしまいそうなほどに

あなたが透き通っていたから


純葉:ねぇ!学校でも会おうや!

○○:……学校では会えんよ…

純葉:え?

○○:…会いとうないわ、うるさいけぇ

純葉:なんなんよぉ、純葉傷つくんじゃけどぉ

○○:……ぷっ…あはははっ!


彼の笑顔を初めて見た

多分、バカにされたはずなのに

なぜだか心地よい苦しさを運んでくる

好きという感情なのだろうか?

よくわからない


純葉:……あっ、もうこんな時間…

○○:ホントだ

純葉:明日も会える?

○○:…うん、ここにいるよ

純葉:わかった!じゃあね!


去り際にこっそりカメラを向けようとしたが

彼の背中が拒絶しているように感じて…



純葉:やっほー!○○!

○○:相変わらず元気すぎるな…

純葉:元気なのはいいことじゃろ!


なにを話すわけでもないが

ただこの空間が好きだから…

あなたが好きだから


純葉:○○って、好きなひとおるん?

○○:…好きって感情なんかな?
わからんけど…気になってるひとなら

純葉:えっ!?おるん!?


期待と不安で胸が張り裂けそうだ

…誰だろう?

私だったらいいなぁ…なんて


純葉:…誰なん?

○○:……教えない

純葉:んえぇ〜?

○○:ふふっ


彼のその微笑みを逃したくはなかった

カメラは彼に向けられ

シャッター音と共にその瞬間を切り取った


○○:っ!?ちょっと!?

純葉:いひひひっ、撮ってしもうた〜


撮れた写真を確認するが…


純葉:……え?

○○:………


確かに捉えたはずの彼の微笑みは

その写真に写り込んでいなかった

理解ができなかった

いや

理解はできたはずだが、したくなかった

だってそれはつまり


純葉:○○……?

○○:…だから撮るなって言ったのに…


彼はそういうと真実を語り出した


○○:僕ね、もう死んどるんよ

純葉:……

○○:4年ほど前かな?この時期にここでね

純葉:…そんな……

○○:何もかもが嫌になって、この海に身を投げたんよ


もうやめてよ…

そんな悲しそうな顔見たくないよ


○○:未練があってここにおったんじゃろうけど、肝心の未練とやらが何かわからんかったんよね

純葉:…未練

○○:でもね、わかったんよ

純葉:……なに?

○○:…恋……したかったんだ


ふと彼の表情が緩んだ気がした

……いやだ

それは未練がなくなったってことでしょ?

まだ…私の気持ちも伝えれてないのに


○○:もう…いいかな

純葉:……


あぁ…涙が溢れてくる

こんなにも思ってるのに

もう終わってしまうなんて


○○:…純葉

純葉:……なに…?

○○:……好きだよ

純葉:………え…?

○○:じゃあね!

純葉:っ!?待っt


彼の笑顔と共に強い風が私を襲う

咄嗟に目を瞑ってしまった

目を開けたそこにはただ海が広がるだけ


純葉:…純葉の想いを置いていかんでよ……


こんなにも両想いであることが

苦しい、寂しいのなら

好きになんてならなければよかった



相変わらず、今日も此処に

いないはずの彼を探して


純葉:…綺麗だね


終わることのない恋をした

今日もカメラ越しにあなたを想う

いつか一瞬の中にいるあなたを

その尊く、儚いあなたを

大好きな君を

永遠とするために


私はその一瞬を切り取り続ける



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