ちくわぶがちくわになるまで。その3

ここから先は思い出すだけで涙がちょちょぎれるレベル。

夜の会社で一人こっそり書いていく。

父親が病院に行くと言い出すまで宣告を受けてから一年半くらいだったと思います。

最後は定期健診すらも避けていて大丈夫だ!とずっと言っていました。

母親はしんどそうにしている父親を見て、そんなに辛いなら病院いけばいいじゃない!と言っていたそうで非常に後悔していました。

入院してからはグングン調子が悪くなっていき、麻酔も強くなっていき最終的にはまったく意識があるようには見えない状態に。

入院中にとても覚えているのは、夕食に蕎麦が出たらしく、でも食べれなくて冷蔵庫に入れているから後で食べたいと言っていた事。

小さい頃はいっぱい凄い速さで食べる父親が好きで、一緒にご飯を食べている時凄く楽しかったのですが、ほんのちょっとの蕎麦が食べれずに早く食べたいと言っている父親の姿を見るのが凄く辛かった。

そもそも夕飯に食べたくないものが出てくると普通に食べない人が蕎麦を食べたい、残して次の朝に食べたいと言っているのが信じられなかった。

日に日に量の増えていく麻酔を見ながら首を傾げ、なんとも言えない表情をしていたり、段々と自分の病気について、これから先の事を話さなくなっていった。

恐らく自分でも気づいているんだろうな、と。

一週間もすると麻酔が強くなりすぎたせいか、完全に寝たきりになり、意思の疎通も図れなくなっていった。

ある時看病が姉ちゃんと二人になった時、どうしても二人きりにしてほしいと言った。

自分にはどうしても言いたいことがあった。

でもそれは父親に自分がもう助からないと悟らせてしまう言葉。

もしかしたら既に気づいているかもしれない、でも確信はないはずだった。

俺がその言葉を言ったらきっと確信に変わってしまう言葉。

今まで心配をかけてごめんなさい。

でも大丈夫、会社は俺が守るから。

もう既に意識がなく、もう何日も何の反応もしなかった父親が深くなんども頷いて涙を流した。

ただ自分が楽になるために発した言葉を父親は必死に受け止めてくれたのだ。

今自分も親になってわかる最愛の息子からアナタはもう助からない、と言われたのだ。

自分が小さい頃に夜中眠れなくなってリビングにいた父親と話した時、どんな流れかは覚えていないけど、俺は死ぬのが怖い、と言っていた人にあなたはもう助からないと言ったのだ。

自分が後悔しないために。

わかってる、自分がもう助からないと思っている時に自分の息子がそれを引き継いでくれると言ってくれたら悪い気持ちにならないなんてことはわかっている。

だけど、俺が宣告したのは事実。

他の家族が絶対大丈夫と励ますなかで俺は父親に宣告したのだ。

自分が与えたストレスのために死期を近づかせたのに。

そして父親は家族に見守られながら亡くなった。

最後まで全力で抵抗して。

兄がもう頑張らなくていいという時まで。

そして父親の死後、母親が父親の家族全員にあてた手紙をみつけた。

そこには姉の花嫁姿が見れないこと、結婚した兄の子供が見れないこと、すべてが残念だという事。死への恐怖が書かれていた。

そして自分が死んだら会社はたたむようにと。

俺には、一人前になった姿を見たかったと。

父親にとって、俺は一人前ですらなく会社を任せられる人間ではなかったのだ。

自分の行いを振り返ってみれば確かに認められるような人間ではないのはわかっていたが、父親の病気がわかってから死に物狂いで働き、少しは認めてもらえていると思っていた。

でもそうじゃなかった。

手紙にはこうも書かれていた。

お前は俺と同じ弱い人間だからと。

それからは自分の弱さを隠すために必死で働いた。

母親は会社を閉めるわけにはいかない、従業員の明日を守りたいと社長となり自分を頼ってくれた。

だけど変われなかった。

強くはなれなかった。

完全なキャパオーバーになり心が壊れた。

今思えば周りは助けを求めれば助けてくれたのに、誰にも助けることが出来ずに沈んでいった。

夜が来ると怖いのだ、朝が来たら仕事をしなければならない。朝が来るのが怖い。

朝が来てほしくないので眠れない、寝たら朝が来てしまう。

そしてそんな自分に嫌気がさした当時の彼女も去っていった。

暗い闇に沈みかけていたが、最後の最後に自分を踏みとどまらせていた言葉があった。

逃げるなよ

いつまでも脳裏について離れない父親の言葉

どんなに落ちていったとしても、もう絶対逃げない。

何度もこの言葉に救われた。

逃げようと思ったことは何度もあった。心も何度折れたかわからない。

でも逃げない

どんなに無様でも逃げることはしない、せめてその言葉だけは守りたかった。

こんなクズでも最後まで見捨てなった父親へ唯一できる恩返し。

闇に沈みかけていたけど、なんとか持ち直した。

そして父親からの手紙を読み直してみた。

時間が経ち、色々な経験をして同じ言葉でも感じ方が変わっていた。

再び読んだ手紙からは深い愛を感じた。

初めて手紙を読んだときはただひたすらに強くなろうと思った。

でも違った。

自分の中でも父親は決して強い人ではなかった。

でも最後の最後まで強くあろうとしていた。

それはきっと想像を絶するプレッシャーであったと思う。

弱い自分にも同じものを背負わせたくなったたんだと感じた。

だから自分も弱さを受け入れ逃げずに最後まで強くあろうと思った。

ずっと墓参りにはいけなかった。

法事も仕事だと言って逃げ回り兄に何度も怒られた。

母親は何かを察したのか何も言わなかったけど。

でもやっと墓参りに行こうと思った。

ちゃんと思いを伝えようと。

大好きだったけど、ずっと父親が飲めなかったエビスとプレミアムモルツを持って報告しに行った。

俺は弱いけどちゃんと最後まで逃げないから、安心して。

ちゃんと一人前になって会社守るから。

今回はここまで

正直色々思い出しすぎて涙ちょちょぎれた。

では



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