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マイクロキャダム vs AutoCAD(1)

手書き製図からパソコンCADへ移行するとき、何かと比較されたマイクロキャダムとAutoCADを比較してみたいとおもいます。30年前の話ですが、意外と今の時代にも通じるところがあるのでまとめてみました。温故知新になればよいと思います。

当時、選定候補にあがったのがIBM製のパソコンで動くマイクロキャダムとMS-DOSで動くAutoCADでした。いろいろあって、AutoCADを選択しました。

マイクロキャダムとは

当時のIBM製のPC(マルチステーション5550)で動くようにスペシャルチューンされた日本製のCADです。ロッキード社の開発したCADAMをベースにしていますが中身は随分と違うものと聞いていました。機械設計(もちろん2D)用に特化したもので、当時(1980年代後半)は機械設計用のパソコンCADとして多くの会社で使われていました。

AutoCADとは

オートデスク社が開発した汎用でオープンな3次元CADで、米国の主なPC、日本ではNECのPC9801で動きました。MS-DOSで動きます。機械設計とか建築設計とかに特化せず、コアのCADの機能にフォーカスし、ベンダーが開発した機械設計用、建築設計用のアプリケーションを組み込んで使うというスタイルでした。米国の建築設計でよく使われているという話をベンダー経由で聞くくらいで、マイナーな存在でした。

価格の比較

マイクロキャダムの方は、ソフト本体も高ければハードウェアも高く、1システム(PC本体、モニター、外部入力装置など)で計400万円くらい。もっとしたかも。

AutoCADの方は、そこそこ安価で1システム(PC9801 DA21 本体、演算プロセッサ、高解像度(と言っても1024x768)のモニターとグラフィックドライバ、12インチタブレット、機械設計用アプリ)で確か300万円。ちなみに。AutoCADだけだと当時は120万円。

AutoCAD選択の経緯

一番惹かれたのはオープンなアーキテクチャです。すべての設定がエンドユーザに公開され、カスタマイズ用の言語、APIも無償で公開されており、機械設計用の機能をユーザ側でカスタマイズ、拡張できる点です。
ハード周りにも、ハードディスクの増設、ペンプロッタとの接続などにも自由度がありました。

一方のマイクロキャダムは、クローズドアーキテクチャでした。機械設計用に最適にチューニングしたものをそのまま使いなさいというスタイルでした。ハード周りも同じ、お仕着せを選択するしかありません。

当時、同時進行で電子ファイリングシステムの導入も検討しており、将来的な自動出図を考えると、自社開発で安く作るか、ベンダーにお任せで高くなるか、と言ったことも考えると、結局、AutoCADが良いということになりました。

マイクロキャダムが使われている理由として一番多いのは、「関係する会社が使っている。」「一番ユーザ数が多い。」というもので、機能面を一番に押すことは無かったように思います。

テクノロジー比較

以下の説明は、その後オートデスク社でマイクロキャダムの有力ベンダーのエンジニアと技術交流会をしたときに得た知識に基づいています。理解がたらず、誤りがあれば指摘ください。

精度

AutoCADは、倍精度実数(有効桁数16桁)の3次元座標。正確性にフォーカス。マイクロキャダムは単精度実数(有効桁数6桁)の2次元座標。高速性にフォーカス。

パフォーマンス

マイクロキャダムは応答速度が0.5秒以下を売りにしていました。その秘密は、編集対象のみをメモリに実装するというものでした。メモリバンクみたいなものかと理解してます。マイクロキャダムは、最初に、正面図、側面図などのビューを配置しますが、ビュー単位でメモリ管理もしているのだと理解しました。他に、子図という機能があり、全体を一度に納められないくらいオブジェクトが増えたら子図に分割するという機能もあるようです。

AutoCADは、dwgファイル内のすべてのオブジェクトを一度にメモリ上にロードする、というのが基本なので、ファイルを開くのに時間がかかる、再表示に時間がかかる、というのが欠点でした。そのため、グラフィックボードに表示用のメモリを置き、再表示(REDRAW)は、ハードウェアで行う機能で補っていました。ただし、再作図(REGEN)は大変に遅いのが弱点でした。精度の違いもあって、速度に関しては大きな差がありました。

ただし、1990年代後半にリリースした R14では、再表示も再作図も劇的に高速になり、以後、遅いとはあまり言われなくなりました。現在では、使えるメモリも格段に増え、グラフィックも高速になりました。

当時の応答速度を上げるという工夫が、技術の向上により、意味のない機能になっていると言えます。逆に、有効桁数が少ない分正確な数値が表現できないのがデメリットになりました。

現在のマイクロキャダムがどのようになっているのかは知りません。

オープン性

AutoCADの場合、MS-DOS版と並行して、UNIX版、Windows NT版など、様々なハードウェアで動きました。また、NEC PC-9801 以外でもIBM互換機で日本語版のAutoCADが動きました。

また、OS上で動くアプリケーションなので、AutoCADから子プロセスで、MS-DOSコマンドを実行したり、エディタを実行し、その結果をテキストに戻したりといった応用的な運用が可能でした。CADのファイルもDwg形式のファイルなので、OSの機能を使って、ファイルを閲覧したり、コピーしたりができました。

ファイルの中身もオープンで、テキスト形式のDXFファイルを見れば何が書いてあるか容易に解析出来ました。

マイクロキャダムは、マイクロキャダム自体が一つのOSです。ファイルの閲覧、移動といった操作はすべて、マイクロキャダムから行います。当然、ファイルの中身は見ることが出来ず、用意されたプロパティのみ表示できます。ブラックボックスです。ただ、これも見方を変えると、用意された機能だけを使って設計の仕事が完結する場合、余分なことを考える必要がありません。設計業務に変化がない時は、これはこれで良いかもしれません。

オブジェクト指向

AutoCADはR13から、オブジェクト指向モデルとなりました。詳しい説明は除きますが、これにより、新しいCADオブジェクト(例えば、ソリッド、点群、LWポリライン)を容易に実装できるようになりました。

真意は定かではありませんが、マイクロキャダムはオブジェクト指向化をしないか、あるいは失敗したので、機能が変わらないままと聞いています。

カスタマイズ

AutoCADは、AutoLisp(Visual Lisp)というカスタマイズよう言語が標準で提供されています。今では、AutoLispの他に、VBA、.NET、ObjectARX と、ユーザのスキルと要求に合わせて多くの開発環境が用意されています。(すべて無償)

マイクロキャダムは有償サポート。

温故知新とは

故きを温ねて新しきを知るとは、「昔のことをよく研究し、それを参考に今つき当たっている問題や新しいことがらについて考えること。」 です。
今は、3次元CADの時代にですが、当時の事を振り返りながら、CADの評価基準についてまとめてみました。

価格

当時は、AutoCADの価格が相対的に高かった代わりに、永久ライセンスで、しかもバージョンアップが無償でした。

現在は、オートデスク製品の場合、サブスクリプション契約が主になっています。1か月、1年、3年のどれかの期間を選ぶようになっています。一部の大手顧客向けには、日別で、使った日だけトークン(チケット)が消費される仕組みになっています。つまり、使った分だけ課金するという、ユーザにとって都合の良い課金になりつつあると言えます。

サブスクリプション契約はユーザには評判悪いですが、バージョンアップに関係なく、安定して収入を見込めるというのはメーカーにとっては悪い話ではありません。また、サブスクリプション契約にすると、メーカーにとっては、売って終わりではなく、契約を継続してもらうことが重要です。サポートや更新プログラムに力を入れる様になります。

テクノロジー

どれだけ、テクノロジーの開発に投資できる余裕があるかというのも重要なファクターになると思います。

日本の機械設計用途ではマイクロキャダムに負けていましたが、全世界でみると多くのシェアを持っているために、オブジェクト指向の様に思い切った開発が出来たように思います。

どんなに画期的なテクノロジーであっても、グローバル(地理的、業界的)にシェアが取れていないと、先行きに不安があると言えます。

オープン性

Windowsにだけ対応していれば良い時代は終わり、現在は、クラウド対応が求めれています。

昔は2次元の情報だけで良かったものが、今では、3次元でしかも、自由曲面、ソリッド、パラメトリックなど様々なオブジェクトに対応する必要あります。ここで、情報をクローズしてデータを囲い込もうとする営業戦略はもう古いとおもいます。

まとめ

過去の遺物かのように説明したマイクロキャダムですが、現在でも、最新のハードウェア、OSに対応したものが販売されていて、顧客数もそれなりにいます。2次元図面で完結する設計業務をいまだに行っている会社であれば、マイクロキャダムを使い続けるという戦略もありだと思います。

同じように、3次元CADで必要な機能は、これとこれとこれ、このCADにはこれが全て整っているから、この3DCADを使うというのも戦略だと思います。例えば、産業機械、設備機械にフォーカスしたiCADです。

とは言え、この戦略が将来にわたって通用するのはごく一部である事は、マイクロキャダムがどうなったかを見ると明らかです。
自社の業務との関連、将来の動向、スキルアップを見据えた戦略で3次元CADを考え、お仕着せでない、将来性のあるシステムを作って欲しいとおもいます。

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