彼らの幸せを祈る
東京で10年半タクシードライバーをしていた。
とある年末の繁忙期。
西新宿、小滝橋通りで若いスーツ姿の男性の手が上がる。
「一人酔い潰れてる人を乗せたいですけど良いですか?」
基本的には酔い潰れたお客様は目的地に辿り着けない、着いても代金をいただくまで苦労する。大概警察官を呼んで対応しなければならないなど一筋縄ではいかないのでお断りしたいのだが、付き添いありなら良いですよとしている。
「大丈夫です。」とのことなのでお店の前まで行くと頭から青のゴミ袋被せた若者が抱えられながらやってきた。笑
会社の忘年会だったらしく、助手席には先輩であろう女性が乗り込み後部座席には酔い潰れた男性と手を挙げた男性が乗車した。
田端までと告げられ車を走り出すと介抱している後輩男子が先輩女子に「上司に連絡どうします?」と聞いた。
やっぱ連絡入れといた方が良いよねって事で後輩男子は先輩女子に携帯を渡し代わりにLINE送ってくれと頼む。
「なんて送る?」
先輩女子が尋ねる。
「お疲れ様です。からかな?」
そう後輩男子が言って先輩女子が「お」と打ち込もうとしたその瞬間に後輩男子は突然叫んだ。
「おって打てば予測変換で『おっパブ』って出るから止めて!!」
口に出して言った時点でアウトである。
冬の東京の凍てつく冷気が増幅したような空気感はあったが、むしろ私の心はワクワクが止まらない。東京の冬は青森の春のような感覚があるのでこの時期は毎日ワクワクしている。
さて、話を戻すと先輩女子が試しに[お」を入力してみた。
先輩女子「おっパブ出ないよ?w」
綺麗めなぽっちゃり女子先輩にそんな言葉を言わせてしまうのかー。
一瞬の安堵感と先輩女子のエロスが車内に広がった瞬間。
次の「つ」を入力した。
予測変換は【おっパブ】だった。
それはまるで9回2アウトでサヨナラ決めたぐらいのざわめきが車内を駆け巡り感動の渦であったように感じる。
誰も予測出来なかった予測変換。
彼らの未来が幸せであれ!!
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