禁酒関所 制作後記

https://m.youtube.com/watch?v=swNLJAIw3Nk

この記事で話す制作活動を経て完成した作品です。この記事を読む前につまらないものではありますが一度ご高覧いただければ幸いです。

始めに

僕が禁酒関所を初めて見たのは中学生の頃笑福亭鉄瓶さんの独演会でだった。
鉄瓶さんが噺す侍達が1回目、2回目、3回目とだんだん酔っていく様がとても面白かった。
これは歌舞伎で見てみたい。そう思った。

1,

歌舞伎として実際に上演するための作品にするためには一つ乗り越えないといけないものがあった。
それは落語だからこそ表現できた場面転換である。
このお話の構成としては
“関所を突破する為の作戦を立てる酒屋の場面”
そして“関所”の場面のこの二つの場面を行ったり来たりしている。これを歌舞伎でやろうとすると盆(舞台にある円形の切り込み。)の上に二つ道具(セット)を立て回り舞台で行ったり来たりしないといけない。
それも舞台装置の一つとして面白そうではあるがもっと工夫出来ないだろうか?
できれば一つの舞台で酒屋になったり関所になったり、なんなら酒屋の場面の時も侍達には関所で飲んでる様子を見せてもらいたい。そんな都合のいい表現方法が歌舞伎になかったか??
そこで思いついたのが『松羽目』である。
元々は能狂言を歌舞伎化する時に本家リスペクトの舞台装置の一つとして誕生した。
これは能狂言でもそうであるが、松羽目の上では演者がぐるっと回っただけで険阻な山になったり、大名屋敷の奥庭になったりするのである。
これこそ禁酒関所の物語の表現をするのに都合がいい。
そしてこのアイデアが思いついたと同時にもう一つのアイデアも浮かんだ。

2.

それは歌舞伎の松羽目物の先行作「勧進帳」をもじることだ。
禁酒関所も勧進帳も侍が守る関所をあの手この手で突破しようというお話である。それが勧進帳は成功して禁酒関所は失敗するというだけの違いである。むしろ、その違いが歌舞伎化した際の笑いにもなる。
一度とっかかりが見つかると後はするするとアイデアが出てくる。

関守二人が冨樫のように出てきて朗々と名乗りを上げる。この時の名乗りがカッコよければかっこいい程後々酔っぱらった時の落差も激しくなる。

そして勧進帳の中でも名曲として知られ、学校の教科書でも習う義経一行の出である。これを酒屋の面々に置き換えてみる。
落語の原作通りに行ってみると

義経→番頭
弁慶→丁稚
四天王→手代

となる。
ただ、何かしっくりこない。やはり義経の気品あるセリフをもじろうとするとどうしても貴公子の高貴な感じが出てしまう。何より義経は白塗り番頭は茶色だ。
ここから義経の代わりに置くのは若旦那とした。
この方が店を上げてという感じが出てよかったようにも思う。
それに合わせて最初に突破しようとして失敗する人を丁稚(落語)から番頭(妄想歌舞伎)に、最後に小便を飲ませることに成功する人を手代(落語)から丁稚(妄想歌舞伎)にした。
歌舞伎では番頭はちょっと抜けた三枚目として描かれることもあり、丁稚は時に子供ならではの発想力で店のピンチなどをくぐり抜ける知恵者として描かれることもあるからまぁいいでしょう。

3、

さてこの話を作る際に気をつけたのはどこまで勧進帳を踏襲し、どの場面から外していくかだ。それを「どっこいしょ」でそれまでの勧進帳の世界観から禁酒関所に持っていくことにした。上手く空気が変わるような場面になってくれればいいが。
ちなみに酒好きの侍にカステラ(甘いもの)を届けるのはおかしいということで疑われるが進物ということで一旦は通れと言われる落語の展開はすごく好きなので入れたかったが、最後の務めのカステラバージョンを思いついてしまったので泣く泣くカットした。
勧進帳を読み上げる場面までオマージュとして入れるのはあまりにも長くなるので却下。
最期の務めのカステラバージョンの歌詞は特に意味はない。元々の歌詞にカステラにまつわる言葉を当てはめていって作っていったので正直少し後悔。

4.

二人目の挑戦者は手代だ。今回は油ということで勧進帳のオマージュとして油問答を入れるかどうかを迷ったが、あまりにも時間が伸びすぎるのでこれまたカット。二人目はあっさりで終わらせた。油で周りがベトベトで侍が触りたがらないだろうと思ったらお前が注げと言われて結局飲まれる展開は禁酒関所の江戸バージョン禁酒番屋から取った。(禁酒関所は主に関西に本拠地を置く笑福亭一門が演じる時につく題名のようである。これが江戸の人間がやるとなると禁酒番屋となり細かな展開が変わってるみたいだ。)
そして、その次の小便を飲ませようと小便を集める展開。
丁稚と手代の小競り合いは他の歌舞伎作品でも似たような展開がある。大人の寝小便を丁稚がバラすのは歌舞伎ではいつもの展開だ。
そしてここで一行をはけさせて一旦侍二人だけの舞台にしたかった。その為に若旦那に小便を出させようとして小オチをつけさせてもらった。

5.

そして、ここが僕が歌舞伎に直した時に大きく変わった部分であるが、侍二人の舞が加わった。
これは松羽目物の作品に直した時あくまでも所作事を入れた狂言舞踊的な作品にしたかった。その為どこかで登場人物が踊る場面を入れたかった。そこでここは侍二人が酒の肴として踊る展開を思いついた。
侍が踊る舞は能の景清から錣引きを語る場面を丸々とった。これに関してはどうしても歌詞が思いつかなかった悔しい。ただまぁ当時侍階級では能つまり謡曲は侍達の嗜みでもあったから多少はね?()
ちなみに景清の錣引きにした理由は単純に酔った二人が踊る舞踊として動きがとても面白そうに見えたからである。

6.

オチに繋がる場面である。ここはほとんど原作通りである・・と思う。ただ一つ変えたのはここで番卒が持ってくる大盃を葛桶の蓋にしたことである。これは言わずとも知れた勧進帳の弁慶のオマージュでもある。
更に茶碗よりも大きくてとても印象的な松羽目舞踊の大盃といえば葛桶の蓋しか思いつかなかった。
落語では侍の「この・・・正直者め」がオチ?サゲ?になるのだが、狂言舞踊のお決まりの終わり方である「やるまいぞ。やるまいぞ。」から皆で追いかけっこをする展開で幕とした。

初めて最後まで脚本というものを書いてみた。
禁酒関所という作品がうまいこと歌舞伎の定番展開とマッチしたのでそれなりに見れる作品になったとは思うが、もっともっと勉強しなくては。

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