ロールパンナちゃん
「先生って何のキャラクターが好きなんですか?」
ある生徒が《忘れないゾウ(小学校でいうところの連絡帳)》にこんな質問を書いてきた。この子は毎回必ず質問を書いてくれる。おそらく私の好きなキャラクターに大して興味なんてないはずだけれど、空欄に気を遣って必ず質問を書いてきてくれる。前は「好きな果物は何ですか?」で、その前は「好きな野球チームはどれですか?」だった。いつも「好きな〇〇」を質問してくれる。それがすごくこそばゆくて、愛くるしい。(※この《忘れないゾウ》は毎週の私の癒しであり、元気の源!加えて、たまに口には出せない心の声を小さくか弱い文字で教えてくれることもあるから、私と子どもたちとの大切な対話のツールになっている。)
「今はちいかわのパツワレちゃんにハマっています。」と、イラストを添えて返事をしました。
すると、彼は翌週、すみっコぐらしが好きだと返事に返事をくれました。「俺もいつもすみっコにいるから」と理由も教えてくれました。
好きなキャラクター(登場人物)には自分を投影している、と聞いたことがある。
あなたの好きになったキャラクターの変遷を教えてください。
「あんたのナップサックとか給食エプロン入れ、作るの苦労するわぁ。」と母にぼやかれたことがあったっけ?
幼稚園や小学生の頃、周りの子はマイメロディやキティちゃん、シナモン、アンパンマン、ドラえもんなどなど、それぞれが好きなキャラクターのアップリケや生地で手作りされた愛情の権化のようなナップサックや手提げ袋を持っていた。
その中で、私は母が一からフェルトで作ってくれたロールパンナちゃんのアップリケが中央にデカデカと威風堂々と居座る、愛情の権化のようなナップサックと手提げ袋を持っていた。
ロールパンナちゃんが大好きだった。ロールパンナちゃんを崇拝していた。
妹思いで、寡黙でクールで、強くてかっこよくて、だけど、どこか切なくて、放つ紫色のオーラに虜になった。あのロールリボンに憧れて、割り箸にリボンを貼り付けてぶん回していた。あの顔を覆う白い布に憧れて顔に包帯を巻き付けていた。アンパンマングミにロールパンナちゃんがいたら、ティッシュに包んで大事に置いていたし、ロールパンナちゃんのアンパンマンチョコがないことに本気で怒っていたし、絵本に出てくるロールパンナちゃん全てをハートで囲んでいた。
幸せな家庭に生まれたはずなのに、ずっとずっと寂しさと一緒に笑っていた。あの時の写真を見返すと、いつもカメラの奥を不安そうに見つめている私しかいない。そんな私にとって、ロールパンナちゃんがヒーローだったのかもしれないね。
ロールパンナちゃんを崇拝する私を見て、妹が「じゃあ、あーちゃんはメロンパンナちゃんにする!」と満面の笑みで言ってきたときに、幼心ながら、本当にロールパンナちゃんになって守ってあげないとって思った、あのときの私は純粋で我ながら狂おしいほどに可愛い奴だったなあ、と思い出す。
ロールパンナちゃんのような善と悪の狭間で苦しむキャラクターを幼児向けのアニメに盛り込むやなせたかしは何者ですか。単に悪者を痛快にぶっとばすアニメではないところが名作たる所以なんでしょう。ロールパンナちゃんのメロンパンナちゃんとお花にだけ見せる小さな笑顔が言葉にできないほど、いとをかし。
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