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自由進度学習への歩み①【5年生算数】

はじめに

今年度担任をしている5年生の算数「整数の見方」の学習を自由進度で行いました。

1学期から徐々に子ども達に任せる場面を増やしていき、学習に対する主体性を育んできました。様子見の時期を終え、2学期では学習の「個別化」「協働化」を通して、学習内容の「修得」を目指していきました。

いわゆる「自由進度学習」という方法です。
令和3年に中央教育審議会から出された答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」の中で、個別最適な学びの重要性が謳われたこともあり、言葉だけは浸透してきた感じがあります。

しかし、実際の学習の流れを考えていくと、まだまだ参考にできる情報量が少なすぎて、何をどのように進めればよいのか…わからないことだらけです。

私自身、よく参加する研究会の研究方法は、「模擬授業形式で45分の一斉授業の流れを検討する」というものがほとんどです。

これらの研究方法を否定するわけではありませんが、「授業=一斉授業」という考え方が教育界の大部分を占める中、個別化・協働化を重視した自由進度学習を研究していくのは、なかなか困難な道のりであると言えます。

そこで、少しでも誰かの参考になればと、私が取り組んでいる自由進度学習の実践について、詳細に記録を残していきます。

成果だけでなく、改善すべき点や泥臭い準備など綺麗事を抜きにして、自分自身の現在地として、ありのままを記録していきたいと思います。

またこの記事のタイトルは「自由進度学習への歩み①」としています。ここで取り入れた方法は今後改善を重ねて変化していきます。最後の"改善すべき点"で書いていますが、実践を終えて「これではダメだ」と感じているところも多々あります。

その変化の過程もこれからnoteの記事として記録していきます。



1.自由進度学習の準備

・学習計画表の作成

整数の見方【学習計画表】

まずは、この単元を学習する指針となる「学習計画表」を作成します。
作成するポイントとしては、

・基準を示す。
・指導書通りではなく、内容のまとまりで基準を考える。

の2つです。

基準を示すとは、1時間目のゴールは「偶数と奇数の意味がわかる。」というように、学習進度の基準が一目で分かるようにすることです。

この基準とゴール(テストの目標点数)が明確になっているからこそ、子ども達は自分自身の現在地を把握することができます。そして、現在地を把握することができるからこそ、ゴールと現在地との差を埋めるために努力することができます。

ゴールと現在地の差を埋めるために必要な力こそが、「粘り強さ」と「自己調整力」です。この2つは、現行の学習指導要領で「主体的に学習に取り組む態度」の2つの側面として示されているもので、子ども達がゴールも現在地も把握していない学習の中では、本当の主体性を発揮するのは難しいと考えています。

少し話が逸れましたが、基準はあくまで基準なので、2時間目に「3つの数の公倍数が分かる。」という4時間目の内容に取り組んでいても全く問題ありません。その逆も然りです。

続いて、指導書通りではなく、内容のまとまりごとに基準を考えるということについてです。

算数の指導書を開けば、「1時間目はここまで進む」というように、単元をどう流していけばいいかということが丁寧に説明されています。しかし、必ず内容のまとまりごとに時間が区切られているわけではありません。

指導書を1つの参考にしながら、自分で基準を考えていきます。5年生の「整数の見方」という単元は、指導書では11時間で構成されていましたが、私が作成した学習計画表では7時間で内容の扱いを終えています。

もちろん、その7時間だけで子ども達が完全に理解するのは難しいです。そこを補うために、「個別学習」や「確認テスト」を実施するのです。その部分についての詳細は「自由進度学習の流れ」で説明します。


・授業用スライドの作成

整数の見方【スライド】①
整数の見方【スライド】②
整数の見方【スライド】③

授業で使用するスライドを作成します。

※スライドのデータについては、教科書の画像を使用しているものも多数あり、それらは共有することができません。比較的教科書の画像を使用していない4時間目〜6時間目までのものを、参考データとして添付しています。

基本的には黒板は使用せず、スライドのみで学習内容を伝えていくので、アニメーションを駆使して視覚的に理解しやすいものを作成するよう意識します。

スライドを準備するタイミングとしては、授業の前日あたりです。単元スタート前に全てを準備しておくということが可能だったとしても、おすすめはしません。

なぜなら、2時間目の授業の様子を見て、3時間目の流れも変わってきます。直前までの授業のイメージがあるからこそ、その授業のスライドを作ることができます。


・教材データの準備

子ども達が自分の理解度に合わせて選ぶことのできるプリント教材(PDFデータ)を準備します。

プリント教材は『Teams』に【算数⇨整数の見方⇨①偶数と奇数の意味が分かる⇨各プリントや授業動画など】というように、フォルダを分けて整理して格納します。


必修プリントは、教科書の練習問題と同じく、必ず取り組むプリントとしていますが、選択プリントに取り組むかどうかは自由です。

その学習内容が確実に定着しているのであれば、選択プリントには取り組まずに先に進んだ方がいいし、未定着なのであれば、選択プリントで復習をする方がいいでしょう。

そういった話を子ども達にもして、自分にあった選択ができるように促していきます。

プリントまで自分で作っている時間はないので、ネット上でダウンロードできる無料のプリントを使用しています。

よくお世話になっているサイトは次の3つです。


2.自由進度学習の流れ

ここからは、単元や1時間の学習をどのような流れで行ったのかを説明していきます。

・一斉授業(5〜10分)

学習計画表に記載の通り、1〜7時間目までは新規の学習内容が存在します。もちろん、既に教科書を読んで学習し終えている子どもも存在しますが、1〜7時間目までは、最初の5〜10分で一斉授業を行います。

6時間目であれば「約数、公約数、最大公約数」について、先ほど紹介したスライドを用いて授業を行います。

子ども達は、つぶやいたり、挙手したり、普段通り授業に参加しますが、ノートは取らず聞くことに集中します。

・授業動画を撮影と共有

5〜10分の一斉授業で全ての子ども達が学習内容を理解できるわけではありません。そのため、授業を行う際は同時に動画の撮影も行います。そして、その動画は、ファイルサイズを圧縮してデータ容量を小さくした後にTeamsのフォルダに保存をします。

そうすることで、教科書の問題を解いたり、家庭で学習を進めたりしている時など、いつでも学習内容を確認できるようになります。


・個別学習(30分)

5〜10分の一斉授業を終えたら、個別学習を始めます。新規の学習内容が存在しない9〜11時間目は、全て個別学習の時間です。

個別学習の時間に必ず行うことは、次の3つです。

・学習計画表の「すること」「課題」を記入
・教科書該当ページの練習問題
・Teams内にある必修プリント

学習計画表の「すること」には、「教科書のP100」「③の必プ」など、今日取り組むことを端的に記載します。そして、その取り組みを通して何を理解できるようになりたいのかというところを「課題」に記入します。

具体的には、「公約数の意味を理解する。」「3つの数の公約数を見つけられるようになる」のようなイメージです。

教科書は、ある内容を学習した後には練習問題に取り組む構成になっています。しかし、練習問題だけでは量が少ないと感じる時には、Teamsに必修プリントという必ず取り組むプリントを用意しています。

早い子ども達はどんどん先に進んでいくので、4時間目の「3つの数の公倍数が求められる。」という一斉授業を行った後に、約数の勉強をしているということもあります。

逆に、再度前の時間の内容に戻って学習を進める子もいます。


・ふりかえり(5分)

最後の5分間は、今日の学習をふりかえる時間を取ります。
これまで、授業の最後にとりあえず書かせて、形だけ振り返って終わるということをよく行っていました。「ふりかえりは大事って言われるけど、本当に必要なのか?」と思いながらも、書かないといけないから書かせる。

教師である私自身もそんな惰性でふりかえりを書かせていました。
なぜふりかえりが形骸化してしまうのか。それは先にも挙げたように、子ども達がゴールと現在地を把握できていないからです。

一斉授業では、教師だけがゴールを把握し、教師の指示・発問だけで進んでいくことが多く、その中でふりかえりを書いても意味のあるものにはなりません。

しかし、ゴールと現在地をしっかりと共有して、学習のペースを自分で調整できる自由進度学習では、「自分自身が今日どれだけ進んだのか。」「進まなかった理由は何か。」「どこに躓いたのか。」というように、今日の学びを振り返って分析することが、次の時間に自分自身が学習する内容に直結してきます。

学びを進めるために必要なステップだと認識して、記入欄を儲けるだけでなく、その重要性を子どもにも伝えていく必要があります。


・確認テスト

整数の見方【確認テスト】

1〜7時間目までで教科書の内容は全て学習し終える予定です。
その後は、学習した内容がどの程度定着しているのか把握する事を目的とした確認テストを行います。

ただし、ここで注意すべき点としては、7時間目までに終えるのはあくまで予定ということです。クラス全体の様子を見ながら、全体の進度が途中で変更されることは全く問題ありません。

私は、完全に個人的な事情ですが、娘の体調不良から自分自身も熱が出てしまったということがあり、7時間予定のところが実際には9時間かかりました。

確認テスト作成のポイントは、

大問の数と学習内容の数を揃える

ということです。そうすることで子ども達は、「大問の6で間違えたということは、約数や公約数の基本が理解できていないんだ。」ということがわかります。

このように、子ども達が自分は何ができて、何ができていないのかを把握できることが重要です。そのためにも、確認テストを実施して終わりではなく、自分で丸付けをして、学習計画表の分析欄をしっかりと記入していきます。


3.自由進度に取り組んでみて

・成果

・クラスの平均点が確実に上がった。
・子ども達の学習に取り組む態度が変わった。

目に見える成果としては、やはりクラスの平均点が確実に上がったということです。詳細な点数は控えますが、クラスで最も算数を苦手としている子どもが100点を取れていたことは純粋に嬉しく思いました。

そして、最も大きな成果は子ども達の学習に取り組む態度です。
「子どもってこんなに楽しそうに学習するんだ。」と日々驚かされています。

現在担任をしている5年生は、一斉授業というスタイルしか受けてこなかったので、自由進度学習を始めた時は、「え?何をすればいいの?」といった感じの反応でした。

学習の仕方を繰り返し伝えるものの、なかなか理解できません。
わからないところがあっても、黙って座っている子も多くいました。

繰り返し繰り返し、学習の仕方や自分で学びを進めるということの重要性を伝えていく中で、少しずつ子ども達の姿も変わってきました。

・席を立って、同じ進度の人のところに行って相談する子ども
・「先生わからなーい!」と積極的に助けを求められる子ども
・自分の学習を止めて、同じ班の友達に教えてあげる子ども
・練習問題に躓いて、授業動画を再度見直す子ども

など、初めの頃からは想像もできないぐらい自由に学習しています。


・改善すべき点

成果だけ聞けば、完璧な方法のように美化されてしまいますが、反省点や改善すべき点もたくさんあります。

具体的な改善すべき点としては、以下の3つです。

・学習計画表をチェックリスト形式にする。
・家庭学習と連動させる。
・授業動画の共有方法を変更する。
・準備に時間がかかりすぎる。

学習計画表をチェックリスト形式にするということについては、練習問題や必修プリントという必ず取り組むことが、どこまで終わったのかを見える化するということです。

ノートを見ればわかるのですが、学習の進捗が一目でわかるのが学習計画表の役割なので、あった方が良いと感じました。

また、終わったらチェックを入れるという単純なことですが、子ども達の達成感にも繋がると思います。

もう1つの課題が、家庭学習との連動です。

算数が苦手な子どもの中には、基準よりも進度が遅れてしまうことがあります。
基準よりも進度が遅れてしまう子どもが大勢いる場合は、一度足踏みして、先に進むのをストップするだけです。

しかし、そうではない場合は、基準の練習問題や必修プリントの残りを家庭学習として行うということが必要になってきます。反省点として、単元の学習を開始する前は、そこまで想定できていませんでした。

先生に言われたドリルや音読ではなく、自分に必要な学習を家庭学習として取り組んむという意識を子ども達の中に育んでいく必要があります。

そして、家庭や個別での学習を進めていく上では、授業動画の存在が必要不可欠だと考えています。

今回の単元では、最初の一斉授業の時に、三脚を立てておいて授業を撮影し、その場でTeamsにアップするという方法で行っていたのですが、

Teamsで動画を見た時に、音声が流れないという問題が複数発生しました。音声が正常に流れている子どももいたので、原因がよくわかりません。

この解決策としては、動画の共有方法をYoutubeなど別のプラットフォームに変更することも考えられます。

しかし、Youtubeに動画をアップする場合、授業中の動画をそのまま使うのは難しいので、画面録画のような形でスライドに音声を吹き込んだものを作成する形になるかと思います。

最後に根本的な課題ですが、今の方法では準備に時間が掛かりすぎます。

慣れの問題もあり、同じ形でもある程度の時間短縮は可能ですが、それを鑑みても持続可能かどうか疑わしいところです。

子ども達の学習内容の「修得」を目指している限り、研究授業の1時間だけ、1単元だけ、の実践で終わっては意味がありません。また、このように発信をしている以上、再現性や持続可能性を考えた形にするのも今後の課題となってきます。


おわりに

これまでの教員生活の中では、国語の読むことを中心に、学習用語や系統性を重視した一斉授業に取り組んできました。

研究会も国語の研究会に参加することがほとんどでした。

しかし、経験を経るごとに「今の授業スタイルは本当に子どものためになっているのか?」という疑問が大きくなってきました。

・絶妙なタイミングで子どもから良い意見が出た
・多くの子どもが挙手、発言していた
・すばらしい振り返りを書いている子どもがいた

どれも確かにすごいことなのですが、

すばらしい振り返りを書く子どもの影に隠れて、基本的な内容理解すらできていな子どもがいるのではないか?

多くの子どもが挙手、発言しているけど、いつも挙手できていない子へのアプローチは考えなくて良いのか?

こんなことを研究会で言っては、「捻くれ者」扱いされてしまいそうで、周りに合わせた意見をなんとなく発言していました。

もちろん一斉授業を全て否定するつもりはなく、教科によって今も行っています。

しかし、様々な書籍を読む中で、45分をどう流すかではなく、どうすれば全ての子ども達が学習内容を「修得」することができるかを研究している人達がいることを知りました。

それらを参考にしながら、少しずつ実践に取り組んできました。

これまでの自分を否定して、「授業=一斉授業」というメンタルブロックを外すことに時間がかかりましたが、ようやく「自由進度」に大きく舵を切ることができました。

まだまだ反省点ばかりですが、自分が見たかった子ども達の姿はコレだと、これからの授業に可能性を感じることができています。

そこに、これまで感じていた違和感はありません。

後は、どれだけ考えて考えて考えて、改善を重ねられるかです。

今後もマイペーースに自由進度学習の実践について発信を続けていきたいと思います。ぜひ、フォローをしてお待ちいただけると嬉しいです。



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