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昨日は無事に当日券を買うことができて、劇団明後日のまたここかを観ることができた。当日券を買う手続きをしているときにふと目を上げると、小泉今日子がいた。え?小泉今日子?そこに小泉今日子がいることが信じられなくて、しばらく呼吸が難しかった。そういえばこの公演は小泉今日子プロデュースだった。でもまさかいらっしゃっているとは思っていなかったから、驚きと嬉しさで胸が詰まった。

最後から二番目の恋というドラマが大好きで、幾度となく観返している。最終話の小泉今日子のナレーションに何度勇気づけられたことか。人生の選択を間違えたと後悔しそうになる度、あの全てを包み込むような優しい語り口調のナレーションを思い出して踏みとどまっている。これから先の人生、ずっとこのドラマが私の支えになる。あのナレーションを噛みしめながら生きていくんだろう。

その、憧れの小泉今日子が目の前にいる。画面の中の人が私と同じ空間にいる。それを認識した途端、呼吸が難しくなった。私どうやって歩いていたっけ?さっきまで自然にできていたことが何ひとつわからない。お会計が終わり、チケットを手渡される。財布やカバンにしまう余裕もない。息を止めて、チケットを握りしめ、すり足で歩いた。なんで高いヒールなんて履いてきてしまったんだろう。転んでしまったらどうするんだ。早くここから居なくなりたいという気持ちを抑え、転ばないようにゆっくり歩く。小泉今日子さんの前を無事に通り過ぎ、視界に入らない場所に来た。ひと息つく。安心しすぎたのかうまく階段を登れなかった。

こんなに好きなのに、なんでもう少しうまく振る舞えなかったんだろう。開演までイスに座って自分を責めた。最後から二番目の恋大好きですとか、お会いできて嬉しいですとか、公演楽しみにしてますとか、伝えたいことはたくさん会ったのに。せめて、目を見れれば。小泉今日子さんを生で見る機会なんてもうきっとないのに。緊張して1秒も見れなかった。なんてもったいないことを。芸人さんの出待ちとかして練習しておけばよかった。ああもうバカ。

そんなことを考えている間に公演が始まった。坂元裕二特有の台詞回し、テンポの良さ、無駄のなさ、展開、どれをとっても素晴らしかった。同じセット、同じ役者さん4人で2時間なのに全く飽きない。というより息つく暇もない。暗転した途端、客席が一斉に力を抜いた。そのくらい引き込まれてしまった。

誰もがボタンを押してしまうかもしれない。少なくとも全員ボタンは持っていて、押すことと押さないことはものすごく近くにある。「押さない人」ではなくて、「押したことがない人」である。でもそれは「押す人」ではなくて、「押したことがある人」であることを同時に意味している。それは希望だ。というようなことをざっくり思った。おもしろかった。

とても良い舞台だったので、席でアンケートを書いてぼーっとしながら劇場を出た。ロビーではアンケート回収ボックスの前に小泉今日子さんがいらっしゃってて、お見送りをしていた。舞台の余韻でぼーっとしていた私は不思議と緊張しなかった。小泉今日子さんの目を見て軽く礼をした。小泉今日子さんが私の目を見て微笑んでくれた。

物販では坂元裕二さんご本人が出版する本を販売していた。余韻でぼーっとしていた私は、本を受け渡されたときにきちんと目を見て「ありがとうございます」と言うことができた。軽く微笑んでくれた。

会場を出て喫煙スペースで煙草を吸った。あのシーンよかったなと下を向いて回想していた。ふと目を上げると、さっきまで舞台で演じられていた吉村界人さんが私の横で煙草を吸っていた。さすがに驚いて固まっていると、灰皿に煙草を押し付けて階段を駆け上がっていった。

夢を見ているようだった。ふわふわしながら渋谷駅まで歩いて電車に乗った。最寄り駅に着いて、近くにあるインドカレー屋さんのテイクアウトを待っていると、急に日常が目の前に迫ってきた。重力を感じる。今日はなんだったのだろう。小泉今日子に笑顔を向けられ、吉村界人が隣で煙草を吸い、今手元には坂元裕二のサイン入りの本がある。インド人の店員に1000円渡して店を出た。見慣れたいつもの風景だ。あの空間に本当に私はいたのか。

家に帰り、現実を取り戻そうとカレーを食べながらメールボックスを整理していた。転職関係のメールが溜まっている。9月の半ばからきちんとメールを読めていなかった。順調に整理が進み、そこで気づく。息が止まった。9月の終わりにnoteをサポートした推しからメッセージが届いていた。ということは私のメッセージが推しの視界に入り、なおかつ読まれたということだ。なんてことだ。なんで気づかなかったんだろう。まさかいちいちサポートしたときのメッセージなんて読んでいないだろうと思って迂闊に長々と文章を書いてしまった気がする。どうしよう。なんてことをしでかしてしまったんだ。心臓がドキドキする。

結局、現実を取り戻せないまま一日が終わった。憧れの人とエンカウントする日だった。夢かもしれないけど。

#日記 #憧れの人と会ってしまった話 #またここか

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