見出し画像

ときどき思い出されるエピソード

 もう10年以上前のこと、ずっと年配の先生から、聞いたことが時々思い出されます。この先生は、私の研究分野とは非常に遠い分野の研究者でしたが、とても真摯な方で、尊敬できる方でした。

 ある国際会議で発表したところ、フロアの研究者(といってもその業界はさほど広くないので知り合い)から、あなたの発表したことはあの本に書いてある、と指摘されたそうです。その先生は、その本なら所有していて、自宅にあるはず、と思ったそうです。
 帰国後、自宅の書架を探してみると指摘された本をやはり所有しており、開いてみると、なんと指摘された内容に該当する部分に自分で下線を引いたあとがあったそうです。

 しっかり読んだつもりの文献でも、時間が経つとわすれてしまうことは意外とあり、何年か経ってから再読して新たな情報を得たように感じることは比較的よくあります。研究者を長くやっていれば、そのようなことは誰でも多かれ少なかれ経験したことがあるのではないかと思います。
 同じテーマをずっと扱っていれば、かなり前に読んだり、まとめたことは覚えているものですが、別の方向に興味が向かって、そのテーマ領域からはなれたり、もともとそれほど深く扱っていなかった領域の論文の内容なら、忘れてしまうことはよくあります。時にはその論文の存在も、忘れてしまうこともあります。

 上記の件は、故意ならば剽窃であり、故意でないとしても、今の基準からすれば不適切です。メモやノートに記録すれば良いとも言えますが、そのような記録の存在すら忘れてしまうこともあるわけで、故意でない場合に対策できるかと言えば、難しいとしか言いようもないものです。

 できることは、ときどきこのエピソードを思い出して、自戒する、誠実・真摯に先行研究に向き合うこと、少なくともその姿勢だけは忘れないようにすることのみかもしれません。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?