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ラーメン店を見極めろ

 世にこれだけのラーメン店があると、当然のことながら色々な業態のラーメン店がある。大手の激安チェーン店から、自宅で自分一人で営んでいる個人店まで。もちろん他の飲食でも基本的には様々な業態があるのは同じだが、ことラーメンに関してはその部分に関して消費者側の受け止め方が実に曖昧なように感じている。

 分かりやすく言えば、例えばハンバーグを例に取った場合に、ファミレスのハンバーグと街の小さな洋食店のハンバーグ、あるいはステーキ屋さんのハンバーグ、ビストロのハンバーグ、それらを十把一絡げ的に論じたりすることはないだろう。しかしラーメンという世界においては、結構そのあたりが曖昧なままで明確な区別をしていない節がある。

 あるラーメン店に行った時のことだ。そこは個人経営の店だったが、そこから出て来た客が大手チェーン店を引き合いに出して、そっちの方が安くて良いというような話をしていた。また別のケースでは多店舗展開している店と個人店を比較して、個人店の方が手間暇がかかっていて美味しいというような話をしているのも聞いたことがある。これを日本蕎麦と置き換えてみれば、せいろが一杯1000円するような手打ち蕎麦店の蕎麦店で、立ち食い蕎麦の方が安くていいなと言ったり、逆に立ち食いよりも手打ち蕎麦店の方が美味しいみたいな乱暴な話はしないだろう。しかし、ラーメンではそれが普通にまかり通る。

 混乱の原因の一つとして考えられるのが「価格」の問題だ。先に例を出したハンバーグや蕎麦については、明らかに価格でその区別が出来る。さらに店の格や雰囲気でも区別が可能だ。立ち食い蕎麦店の内装と高級蕎麦店の内装ではまったく違う。しかしラーメンの場合は、価格はどこもほぼ横並びであるし、店の雰囲気なども蕎麦店のような差異は感じられない。

 そしてラーメンという食べ物の急激な進化もあるだろう。ラーメンはこの数十年で製法や品質、その他多くの部分で劇的に進化、向上した。しかし、それに対してラーメンに対する消費者の意識が追いついていないのだ。パスタや日本蕎麦には平気で1500円を払うのに、ラーメン一杯1000円は高い、と単純に考えてしまう。結果としてラーメンは価格帯が非常に狭い商品となっており、それも消費者が画一的に眺めてしまう理由だろう。

 そしてもう一つ重要なポイント。ラーメン店主の中にはラーメンをビジネスとして捉えていない人が少なからずいるという点を忘れてはならない。それを「趣味」とは言わないが、それは少なくとも「事業部」としてのビジネスではない。「家業」としてのラーメンと言おうか、美味しいものを提供出来るなら多少自分の収入が少なくても、といったようなスタンスで営業している店も少なくないのだ。

 原価の低いものを加工し付加価値をつけて、いかに高い売価をつけて売るかというのが飲食ビジネスの基本であるし、間違いなくそれこそ正義なのだが、その論理はそういうラーメン店には通用しない。そこには儲けよりも己の生き様の投影が勝っているからだ。このように、事業部として生産するラーメンと、店主の思いで作るラーメンは分けて考えなければならない

 簡単に言えば、地代家賃が発生し自分以外の社員やその家族も抱えたラーメン店経営者と、自宅を使って家族で切り盛りするラーメン屋のオヤジとでは、自ずと責任の度合いや目指すものは違うということだ。どちらが良い悪いではなく、その二杯のラーメンをどちらが旨いだと不味いだの語るのは、そもそもの土俵が違うわけだから、あまり意味のあることとは言い難い。

 よくラーメン店が一軒でやっていた時は美味しかったのに、多店舗展開することによって味が落ちたという話を聞くが、その理由は例えば現場に店主がいなくて目が行き届かなくなったからとか、もちろんそういうケースも一部にはあるだろうが、基本的にはそんな話ではない。社員も抱え取引業者も増えてくれば、自分一人でやっていた時のような、寝ずに寸胴の前で一日つきっきりだとか、原価無視で自分が喰える分だけの上がりが取れれば良いみたいな、経営的な観点からすればバカなことが出来なくなるだけのこと。

 先日もあるラーメン店主が「最近はスープも麺もチャーシューも味玉までも仕入れている店があるんですね。ただ麺を茹でてスープを温めて丼で合わせるだけ。そういう人は何が楽しくてやっているのでしょう」と、半ば呆れたように私に呟いていたが、この店主は職人上がりで自分の力でラーメンを作ることが楽しいからそう感じるのであって、ラーメンをビジネスとして捉えた場合は、コストを下げる努力をするのは当然であって、業者からスープを取り寄せた方が、ガス代やガラの処理代、人件費よりもコストがかからないのだから、それを選択するのは至極真っ当なことなのだ。

 しかし、このように同じ価格帯という土俵の上で、様々な業態、意識、姿勢のお店が混在しているからこそ、ラーメンの世界は他の飲食業界よりも面白いとも言えなくもない。だからこそ、受け止める我々消費者の側で星の数ほどあるラーメン店のスタンスを精査し、見極めた上で比較するなり論じる姿勢も必要なように思うのだ。

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