心配する人しない人
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心配する人しない人

山路力也

 珍しくバスに乗った。街を走る路線バスではなく、空港まで行く高速バスだ。自宅から歩いて5分のところから、空港直行のリムジンバスに乗れる。とても便利だ。

 普段は車で移動しているので、電車やバスなどを使うことは稀である。だからこそ、久々に乗る公共交通機関に対しては事前の準備が欠かせない。車は自分で運転するので行く先を間違える事はないが、電車やバスは行き先を間違えると知らないところに連れて行かれてしまう。だから事前に何度も確認をする。

 日本の鉄道は世界一時刻に正確だと聞いたことがある。10:27発と言われれば、必ずその時間に駅を出発するし、10:45着と言われれば、必ずその時間に目的地に着く。しかし道を走るバスはそうはいかない。

 だから僕は早めに家を出る。家から5分の場所にあるのに、30分以上前に家を出る。そして時刻表よりも早い時間にバス停にいる。今日も30分前からバス停で待っていた。バスが時間通りに来るかどうかは誰にも分からない。

 バスは時間通りに来ない確率が著しく高い乗り物であるが、その場合は往々にして遅れてくる。仮に早く着いた場合は時刻表に書かれた時間まで待機している。それならば早く家を出る意味は無い。

 しかし僕は早めに家を出る。バス停までの道すがら、もしかしたら知り合いとバッタリ会って立ち話になるかもしれないし、かよわい女性が暴漢に襲われているところに遭遇するかもしれない。バス停までの間にどんな出来事が起こるかどうかは誰にも分からない。

 そして誰かと立ち話することもなく、暴漢を退治することもなく、30分前にバス停に着く。バス停に着いたらバスに乗る準備をしなければならない。久々に乗るバスなのだから、綿密な準備が必要だ。

 まず空港までの運賃を再度確認して、Suicaの残額と照らし合わせる。万が一Suicaが読み取れなかった時のために現金も用意しておく。バスの時刻やフライトの時刻を何度も確認し、高速道路の渋滞情報を確認する。そしてもう一度Suicaと現金を確認し、今一度このバス停は空港行きなのかも確認する。

 バス停で待つこと35分。5分遅れでリムジンバスが到着した。バスに掲げられた行き先をしっかりと確認して颯爽と乗り込み、Suicaをタッチして座席に身を委ねる。あとは事故や渋滞に巻き込まれてフライトに遅れないことを祈るのみだ。

 すると、バタバタとバスに乗り込んでくる若者がいた。5分遅れのバスに駆け込むということは、定時だったら間に合わなかったはずだ。行き先も確認せずに乗り込んで、間違ったので途中で降ろしてくれとか言い出さないかが不安になる。

 そしてモタモタとSuicaをタッチして、予想通り残高不足ではねられて、現金で払いますと財布を探すがなかなか見つからず。ようやく現金を払ってバタバタと乗り込み、ドスンと座席に着き、いきなりイビキをかきはじめるのだ。

 心配する人としない人がいる。心配する僕も心配しない彼も、同じ時間にバス停を出て、同じ時間に空港に着く。どちらが幸せなのかは分からないけれど、心配する人は頑張っても心配しない人にはなれないし、心配しない人は絶対に心配する人にはなれない。人類にとって大きな分断である。

 バスが空港に着き、彼はまたバタバタと降りて空港の中を走り出した。僕はバスの中で何度も確認したように、今一度フライトの便名と時間を確認し、搭乗口を確認し、最寄りの保安検査場を確認しながら、フライト時刻の1時間以上前にチェックインする。飛行機が飛ぶまでの間にどんな出来事が起こるかどうかは誰にも分からないのだから。

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山路力也
フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家。著書「トーキョーノスタルジックラーメン」他。連載「SENSE」「シティ情報Fukuoka」他。TV「郷愁の街角ラーメン」(BS-TBS)レギュラー。「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えています。