学校英文法が今も信じられている理由

なぜ学校で教える英文法では英語が話せないか。

車の部品の説明をうけたり、うまい運転の見本を見ても、自分で運転できるようになるとは限らない。

「関係代名詞」の説明をうけて、立派な例文を見ても、自分で英文がつくれるとは限らない。

それでも学校英文法がいまも信じられているのは、ほかに有力案がないからだろう。

英文法を変えるとすれば、大学教員や本格的な研究者が取り組む必要があるが、なぜそういう人がほとんど出なかったのか。

言語学の上田明子氏(津田塾大学名誉教授)が、大学の実情を次のように指摘している。


「[大学教員が]スクールグラマーを専門にしていると、それを題目にして論文が書けないんです。論文になりにくい。

変形文法[生成文法]がはやるとそればっかりやって、隅を突っついたような論文が書ける。

そういう落とし穴もあるんです。

それは教育にも悪影響を及ぼしています」

(上田明子・松本道弘・渡部昇一『日本人はなぜ英語に弱いのか』教育出版、2003年、182頁)

競争的環境におかれ、外国の理論を真似て「先進的」な論文を書かねばならない大学の英語関係教員にとって、学校英文法の教え方の工夫はしても、学校英文法じたいを改革しようという余裕はない、ということである。

他方、私のように英語を専門としない独立の研究者が新しい英文法を提案しても、それが社会や学校に受け入れられる可能性は、とても小さい。

けっきょく一般の人々は、100年以上前に骨格ができた学校英文法を、いまも「信じる」ほかないわけである。


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