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日本語に訳して満足? "英文和訳" の落とし穴 おわり

上の英文に登場する冠詞と-s に注目してみよう。まず、

The pope has sent a strong message

の部分で、the pope を「法王は…」と訳した瞬間に、the の意味を無視してしまう可能性がある。このtheは、「現職の」とか、「この記事の対象になっている特定の」といった意味を表すために、英語では必要な the である。

次に、strong message には、a がある。もともとmessage には、始まりと終わりがあるのが普通だから、一回、二回と数えられる性質をもっている。それに、ここでは strong という種別を表す表現もついている。これは「一回かつ、強い種類のメッセージ」という意味を表すために 必要な a である。この場合、「強いメッセージを発した」という日本語に訳しても、a のニュアンスはけっこう伝わるが、そう訳した瞬間に、なぜa がここで必須であるかといったことは忘れてしまう可能性がある。

残りは、

against Islamophobia and for religious and individual freedoms.

まず、Islamophobia を「イスラム教徒への恐怖・反発」といった英和辞書の説明で置き換えて、わかったつもりになっていると、なぜこの語に冠詞がないかという問題はすっかり素通りするだろう。ここは、社会的な恐怖や反発がもつ、形容詞や動詞にも似た無定形な性質を表現するために、無冠詞になっている。

そして、最後のfreedoms である。freedom に、なぜ複数の-sがあるのか。読んだとき、気になった人もいるだろうが、そういう人も、「信教の自由」とか「個人の自由」という「訳」ができれば満足し、-s があることの意味はそれ以上考えない可能性がある。この-s は、「信教の自由」にしても「個人の自由」にしても、礼拝の自由、布教活動の自由、言論の自由、移動の自由といった、多種の自由があることを表している。

日本語に訳せば、たしかに英語がわかった気がする。だがそれは、「英語が直接わかった」のではなく、「英語から作った日本語がわかった」にすぎない可能性がある。

「英語を何年もやったのに話せないのは、文法などにこだわるからだ」と思っている人がいるようだが、それは逆である。

冠詞や-sのような、英語特有の文法をきちんと理解して練習しないから、内容のあることがきちんと話せないのだ。

「日本語に訳せることが英語がわかることだ」という勘違いがあると、英語の肝心のところは、いくらやっても身につかないおそれがある。


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