【コラム】英語の前置詞(立解)とゴシック建築

ゴシック建築では、教会堂の外に、控え壁 buttress と呼ばれる小型の壁を何本も立て、それと教会堂の壁を飛び梁(りょう) flying buttress という細いアーチで結合する技術がある(下図のAが  flying buttress)。

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https://encyclopedia2.thefreedictionary.com/flying+buttress

先日火災にあったパリのノートルダム大聖堂が、外からみると何本も足をつけているように見えるのも、控え壁と飛び梁によって建物が補強されているから。

飛び梁と控え壁で外部から補強されることによって、ゴシック建築は広く高い内部空間と、明るいステンドグラスの壁を確保できた。

さて、ちょっと面白いことに、英語の立解(前置詞)は飛び梁に似ており、立解に附属する体(前置詞の目的語)は、控え壁に似ている。

格変化の消失(文型の発達)と立解(前置詞)の関係について、次のような指摘がある。

「古英語の与格が位格、具格、奪格を吸収し、これらの格の機能をも兼ね備えるようになったように、格の統合が進むと、複数の機能を担う格ができる。… 一つの格の表し得る意味が多岐にわたるようになると、…どの意味で用いられたのかはっきりしなくなったり、判別がつかなくなることすらある。

このような曖昧さを回避するための一つの手段として発達したのが、前置詞の使用である。…格変化の体系が大きく崩れた英語においては、その反動として前置詞の用法が大いに発達している。」(唐澤一友『英語のルーツ』春風社、2011年、127−128頁)


近代英語は、個々の語をほとんど格変化させず、アラビア数字のような位取り的位置関係によって、代表的な格関係のパターンを表現するようになった。これが英語の構解(文型)である。

文型の成立にともない、文型の外にある実体との関係の種類を明示する必要が増した。こうして発達したのが、立解(前置詞)である。

英語は主構造(文型)の外に、<立解+体>(前置詞+目的語)という構造を加えることによって、主構造(文型)の内部を、明るくスピード感のある空間にした言語である。

それは、建物本体の外に飛び梁と控え壁を設置して、教会堂の内部空間を高く明るくしたゴシック建築に似ている。

ちなみに、古英語が大きな変化をとげ、近代英語が生まれていった中英語の時代(1150−1500年)は、まさしくゴシック建築の時代である。

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