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声は身と場をすくいあげる

声にはかならず先行する身体行動があると指摘する本がある。

グレゴリ・クリースチ(野崎・佐藤訳)『スタニスラーフスキイ・システムによる俳優教育』白水社、2006年。

「声に先行する身体行動」とは、その言語、その声にふさわしい身体の構えをとること。

それぞれの言語に、特有の「構え」がある。それを実感できるのも、外国語学習の楽しみのひとつだ。

この本でおもしろかったのは、警官の例。

信号無視の歩行者に、遠くから警官が呼びかける。

「赤いハンドバッグのお嬢さん!」

この一言で、対象選択も注意内容も済んでいる。また、他の通行人に対する注意喚起にもなっている。131頁。

これは状況のなかに言葉の意味の大半が埋め込まれているので、言葉の対象さえ特定できれば十分なメッセージになる例である。

これは警官の身体の「構え」とお嬢さんの身体の「構え」が、道路という場を通して共鳴しあい、呼びかけるだけでメッセージが伝わったということなのだろう。



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